第1章『出会い』
ふと気がつくと、僕―会田悟は、自分の家のソファに横になっていた。
「夢か……」
テレビを見ると、さっきまで野球をやっていたはずなのに、ゴルフの中継になっている。結構眠っていたらしい。
「あ〜あ……」
中途半端に寝たので気分が悪い。さらにあんな夢を見たので機嫌も悪い。僕はずっとぼーっとしていた。
ふと、玄関の方からガチャガチャと音がする。誰か帰って来たようだ。
「ただいまぁ。何、またテレビ点けっ放しで寝てたの?」
姉の真理だ。近くのT大に通っている。昔から男勝りで気が強く、小さい頃はよく泣かされた。
そんな感じなので彼氏はなかなか出来ない。まさに男女という……
「何か言った?」
この辺でやめとこう。
「それにしても休日に家でダラダラしちゃって。他にやることないの?」
「うるさいね。こっちは普段部活で疲れてんの」
「何オヤジみたいなこと言ってんの。まったく、暇してんだったらお見舞いにでも行ったら?」
「お見舞い?」
「剛君よ。ほら、この間怪我したって言ってたじゃない」
そういえばそんなことがあった。剛とは僕が幼稚園から一緒の、いわば幼馴染みだ。
サッカー部だが、この間の試合で骨折して、入院したらしい。お見舞いに行こう行こうと思ってはいたので、今日行くのも悪くない。
そして僕は剛のいる病院に向かった。途中、さっきの夢のことを考えていた。
(また見ちゃったな……)
僕は中学の頃、陸上部だった。入部当初、顧問の先生に言われた。
「いいか、短距離は多少才能に左右されるが、長距離は努力なんだ。頑張れば頑張るだけ速くなる。そしたら、一番にだってなれる」
その言葉を信じた僕は、頑張って練習した。そのかいあって、県大会まで進んだ。が、その予選の時だった。
金髪の男―高見総一郎がいた。奴は県でも有数の選手だった。レースでは、当然のように大差をつけられ、負けた。
途中まで奴のハイペースについて行こうてしたが、結局スタミナ切れし、最下位に終わった。
レースの後、奴は僕にこう言った。
「お前みてえに才能ない奴、頑張ったってしょうがねえんだよ」
さらに客席から「ダッセエ」と聞こえた。
それ以来、僕は頑張ることを止めてしまった。が、高校に入ってからも、陸上部に入っている。
何故なら、陸上が好きだから。なんてカッコいい理由じゃない。自分でもわからないが、なんとなく、惰性でやっているようなものだ。
そんなことを考えるうち、いつの間にか病院の前に来ていた。
(学校の真ん前なんだな)
見るとすぐ横手に、うちの学校のグラウンドがあった。
「すいません、草野剛の病室はどちらですか?」
「3階の一番奥の部屋です」
「どうも」
3階の奥……一際大きな笑い声がする。
(あそこか……)
部屋に入ると、怪我しているとは思えない元気な奴がそこにいた。
「よう、悟!!元気か?」
「お前程じゃないよ」
見ると足が上から包帯で吊られている。一応怪我人は怪我人らしい。
「なんだ、元気ねえな」
「ああ、ちょっとな」
「……また、あれ見たのか」
「まあ、な」
剛はどうやらすぐに察したらしい。こいつには何でもお見通しだ。
「ったく、いつまでも昔のことでウジウジしてんなよな!」
「わかってるよ。言われなくても……」
「まあ、元気出せや。過去のことだ、キッパリ忘れてな」
「怪我人が言ってもな……」
「ん?あ、そりゃそうだ!」
ガハハとまた大きい声で笑う。
「お兄ちゃんご本よんで―!!」
「ききたい―!!」
剛の弟と妹だ。6才の双子だ。さっきにぎやかだったのは、この2人の相手をしていたからだろう。
「わーったよ!読んでやるから!」
「じゃあ、俺そろそろ帰るよ」
「そっか。悪いな」
「気にするなよ」
部屋を出ようとすると、剛が呼び止めた。
「悟、何なら屋上に行ってみろよ。あそこから見る夕焼けは凄いんだ。悩みも吹っ飛ぶさ」
「ふうん」
特に急ぐ用事もないので、行ってみることにした。階段を上りきり、ドアを開けると……
「うわあ……」
そこには見たことないくらいに綺麗な夕焼けがあった。本当に空一面オレンジ色で、それはもう、テレビでしか見たことがないような景色だった。
(確かに、悩みも吹っ飛びそうだな)
十分に夕焼けを堪能したので、帰ろうとした時、視界に女の子が入った。誰だろう。患者の子だろうか?
年は同じくらい。背はやや低め。髪は肩の辺りまでかかっている。そして屋上の端の方で、じっと下を見ている。その顔はどこかかなしげだ。
(まさか……)
僕は嫌な予感がしてきた。しかし、それをなんとか打ち消そうとした。まさか、そんなわけないさ、ただ下を見ているだけさ。飛び降りようなんてことは……
と、その子は金網に手を掛けた。
(やばい!!)
やっぱり自殺か?どうする、誰か呼んで来るか?いや、そんなヒマはない!
「待って!!」
僕は彼女の方へ走って行って彼女を止め……ようとした。しかし、志半ばで転倒した。彼女はそれを呆気にとられた様子で見ていた。
それが、2人の出会いだった。




