8.修行
ブーン殿の紹介で、老猟師のナダ殿と対面した。先に話があったように先発隊に孫と入りたいと言われた。幾つかの取り決めを話し合い、カルミア様に確認を取った結果ナダ殿と一番年上の孫の同行が許可され。ナダ殿には同行する者達の中から、希望する者に猟を教えを受けれるようになった。また、難民の中にいる猟師達の仲介もお願いできるようになった。
「フン!」
剣を振る。最近は余り個人の時間が無かったので、久しぶりに鍛錬の時間を取って剣を振る。先日、紹介してもらったナダ殿に、開拓村に向かう移動中にも弓の指導を受けれるのは有り難い。村に着けば狩りも教えてもらおうと思う。昔、父に仕込まれた狩猟の基本はすでに自分の腕からは失っているだろう。だからこそ、猟師達から学べれば良いと思う。
「フン!・・・フー」
振り終えてから長剣の握りを解き、後ろを振り返る。
「どうした?何か話でもあるのか」
「あっ!」
声を掛けると、驚いた声を上げて建物の陰から数人の子供達が転げ出きた。
「おい!慌てるなよ別に叱る気はないから」
「あー。ごめんよ、邪魔する心算は無かったんだ。騎士様が剣を振るのが見えたから・・・」
子供達の中で年長の男の子が、緊張した面持ちで答えて来る。
「こちらも、いきなり声を掛けて済まなかったな。で、何か用事でも有るのか?それとも、鍛錬しているのが珍しかったか?」
なるべく落ち着いた声を意識しつつ話し掛ける。
「うーんと、おれ達でも騎士様の訓練見ててもいいか?」
「なんだ、興味でもあるのか?見る分には構わんよ。あと、あまり近くに寄るんじゃないぞ。危ないから」
「わかった!みんな、こっから見せてもらおうぜ」
年長の男の子の指示で、子供たちは離れた所に座って見学するようだ。よく見れば、子供達の中には女の子や年長の子が手をつないでいる幼い子も混ざっている。
軽く汗をぬぐってから、長剣を振るのを再開する。これまで子供たちに見られながら鍛練する経験など無い為、少し変な感覚だ。それでも、両手で握る長剣を振りだせば周りの雑音が消えていく。
どれくらい長剣を振っていただろうか。剣を鞘に戻し子供たちが居た場所を振り返る。そこでは、黙ってこちらを見る年長の子達と疲れたのか眠ってしまった幼子が、最初に見学の為に座った所でこちらを見ていた。
「どうだった、そんなに面白い物でも無かっただろう」
「・・・なんか凄かった!騎士様は毎日こんなに剣を振るのか?」
「昔は・・・、そうだな、毎日振っていた。鍛練するのも勤めだったから、もっと厳しく自分を追い込んでいたかな?そうだ、ずっと私の事を騎士と呼んでいたが、今は騎士を辞めているから別の呼び名の方がいいかな」
「それじゃあ、なんて呼べばいい?」
「なんだろうな。称号だと”槍”があるが、・・・うーん、みんなの好きに呼んで貰ったらいいか」
「えー。あの有名な”槍”様なのか。でも、槍じゃなくて剣を使うんだなー?」
「ああ、”槍”の称号を持っていても、私は剣の方が得意なんだ。称号と得意な武器が違う者は、たまにいるんだ」
「へー。そうなのか」
「そうだ!”槍”様でいいんじゃない?それか、”槍”のおじさんとか」
それまで話を聞いていた女の子がそんな事を言い出した。
「じゃあ、”槍”のおじちゃんだー」
子供達が思い思いに私の呼び方を呼び出す。
「まあ。好きに呼んでくれ」
眠っていた子達も目を覚まし、みんなでいろいろと呼び方を考えている。
「なぁ、”槍”様。おれに武器の使い方教えてくれないか?」
「ジジ、ずるいぞ。おれも教えてもらいたい」
「・・・オレも・・・」
「あたしも、できるなら教わりたい」
年長の子達が私に問い掛けて来る。さて、如何したものか?教えるのはいいが、それがこの子達に良い事なのか。それに、本気で教えるにしても後数日でこの砦から開拓村に出発しないといけない。
「君は本当に教えてほしいのか。そのことは、親御さんは知っているのか?」
「おれは本気だ。なんだったら今からかあさんに話て来る」
「おれも、とうちゃん達に言う」
「あたしは、前に相談してるからすぐに許して貰えると思う」
「・・・」
「それなら、明日のこの時間に保護者を連れてきてくれ。一度話してみたい。私の事を伝えてもらってもいいから」
「わかったよ。明日のこの時間ね!」
「じゃあ、これであたし達は帰るね、ほら!みんな帰るから立って」
「はーーい!」
幼子の手を引いて帰って行って。
「「えい!」」
子供達の保護者に会い、お互いに子供達から武器の使い方、つまり武術の習得と修行をどうするかの話し合いをおこなった。たまたま、話し合いの前の仕事で同行していたザクが、子供達の修行の話に興味を示し同席して話し合いに加わり共に子供達を見る事になった。
「「えい!」」 「「えい!」」
保護者は、子供達からの話に懐疑的だったらしい。実際に会って子供達も交え話をした。子供達が各々に自分達の熱意を伝え、そこに私達がせめて自衛を出来るだけの力を付ける事も必要なのでは?という話等をして納得して貰った。保護者達は、みな開拓村へ移住の準備をしなければいけない為、子供達は家の手伝いと幼子の子守をしながら修業ができることになった。
今は、ザクが子供達の持久走と素振りに立ち会っている。私は、地面に座り幼子の遊び相手をしている。胡坐の上に座って私の頬を小さい手で叩いたり、肩に乗り髪を引っ張っている子など小さい子の相手もなかなか大変だ。
そうこうしているうちに、年長の男子でジジの母親のルミが軽食と飲み物を持ってやって来た。
「あらあら!”槍”様は、大変な事になってますわねー」
「ははっ。幼い子は目が離せないのでこうやって私の周りで遊んで貰っています」
「そうなのですか。この地面に引いてある線は?」
「ああ、この子達とこの線から出たら捕まえて膝の上でしばらく座るっていう決めごとをしてるんです。簡単な遊びですね」
「それで、一人を除いて三人膝の上にいるんですか」
「いえ。四人とも捕まえたんですが、一人脱走しようとして、今肩の上にいるんです」
「あはははは!ほら、あんたも大人しく捕まっていな。お利口にしてたらおやつを食べていいからね」
そう言って、肩に上っていた子を抱えて私の膝に乗せる。ルミの言葉を聞いて、四人はさっきまで活発に遊んでいたのがうその様に大人しくしている。
笑いながら、一人の口にクッキーを入れると他の子供達が鳥の巣から餌をねだる雛の様にルミの方に口を開ける。
「「「あーーーん」」」
「ほらほら。あんまり動くと”槍”様の上から落ちちゃうわよ」
「ああ!落ち着け。ほら、クッキーのクズが落ちるから」
「ははははは!”槍”殿も幼子には勝てませんか?」
「まったく、いつものお前からは想像も出来んな」
「カルミア様に騎士イーノじゃないですか。こんな所まで、何か有りましたか?」
「いえ。貴方達が面白い事をしていると聞いたもので見に来ました」
「いやー、意外とラグも子供をあやすのが合っているものだな。それに、ザクもうまく教えているようだ」
そう言ってカルミア様と騎士イーノがこちらに近づいてきて私と同じ様に地面に座り込む。
「確か、今日は砦の方で話があったのでは?」
「ええ。兄の元に父からの手紙と伝令が来ていたので行ってきました」
「そうですか。厄介な話では無かったようですね」
「はい。前に頼んでいた荷車が牛馬と一緒に手配できそうです。後は、こちらで行なっている御者の育成が上手く行けば・・・」
「・・・よろしいですか?」
「あー。こちらのご婦人は?」
「こちらの方は、私達が見ている子の母君ですよ」
「あらら。母君なんて畏まった者じゃありませんよ。あそこにいるジジとデグの親のルミと申します」
「そうですか。わたしはカルミア、それにこちらが騎士イーノです。それで、何か有りましたか?」
「・・・これは代表様とは知らず申し訳ございません」
「かまいません。そんなに気にせずにいいですよ。今はそんなに畏まって話をする場ではないでしょう」
「それでは。私を含めて皆、前の村で家畜の世話を経験した事がある者もそれなりにいますので、御者の練習に参加しているものは走らせるぐらいなら出来る様になっておりますよ」
「ああ。貴方も参加して下さっていたのですね。・・・そう言う事なら予定どうりに多めに荷を運ぶ事が出来そうですね」
そう言いながらカルミア様は、何かを考えながら膝の上にいる子供の一人を自分の方に抱き寄せる。
「おや?思ったよりも子供は重いものですね」
「カルミア様は、子供を抱っこしたことが無かったですか?」
「はい。わたしは末っ子でしたから・・・抱き上げられたことは有りますが。そうですね、幼子を抱っこしたことは無いですね」
「よし。私も相手しよう」
そういって先輩も自分の膝の上に一人乗せる。うん、小さな暴れん坊が二人減るとだいぶ楽になる。それぞれに幼子をあやす私達を見てルミがクスっと笑う。
「すいません。貴族様と騎士様も子供をあやす姿を見ると、私達とあまり変わらないのかなと思いまして」
「そうですよ。幼子には、勝てないものです」
「イーノの言う通りですね。だからこそ、村の移住を成功させてこの子達の成長を見ていきたいものです」
「あれ?かあさん来てたんだ」
素振りをしていた子供達と騎士ザクがやってくる。
「なんだ。もう終わったのか?」
「ええ。あまり無理をさせるものじゃあ有りませんからね」
「そういえば、あと二日でお前たち開拓村に出発するんだろう?この子達の修行はどうするんだ」
「保護者の目があれば、今まで私とザクが教えていた事を続けるのがいいかなと思うのですが・・・。子供達にもその様に話していますが」
「じゃあ、どうだろう。なるべく時間をつくるから、わたしとイーノで見るというのは?」
「宜しいのですか?交渉等でお忙しいのではないですか」
「時間が許す限りと言う事になりますが。イーノもいいですか?」
「気晴らしにもちょうどよろしいかと。どうせなら、読み書き算術なんかも教えてみては?」
「そこは、子供達に興味があれば・・・。そうですね、簡単な事から教えるのがいいでしょうか」
「・・・代表様。その読み書き等は、大人も教えてもらうことが出来るのでしょうか?」
「おや?ルミさんも興味がありますか」
「私の暮らしていた村では、村長等一部の人しか読み書きが出来ませんでした。実を言うと、昔から興味があったのですが、教えて貰えるような人も時間もなかったものですから。教えて頂きただけるのなら・・・と。それに、このように考えている人は他にもいるのではないかと思います」
「それなら如何でしょう、今は移住の準備に時間が必要なため難しいですが、村に着いて落ち着いたら皆さんに話を聞いてみるのは。読み書きと算術だけじゃなく他にも教えてもらいたい事が有るかも知れませんから」
「そうですね、武器の使い方や護身の術を学びたい者もいるでしょし。そうやって村の防衛を底上げを考えるのも必要ですね」
ルミさんからの話に、子供だけでなく大人も含めた護身訓練や読み書き等の教育について、さらに時間を取って出来るだけ協議することになった。開拓村の防衛の為には、性別や年齢に関係なく武器の扱い方ぐらいは身に付けておくに越したことないだろうと思う。
「かあさんもおれたちと一緒に修行するの?」
「そうねー。でも、あんたと違って、かあさんは読み書きに興味があるのよ。それこそ、あんた達も一緒に学びましょう」
「えーー。おれ、武術の方がいいなー」
「・・・オレも」
「まったく、あんた達は・・・。そうだ!おやつと飲み物持って来たからみんなで食べましょう。代表様に騎士の皆さまもどうぞ」
「やったー!みんな、食べようぜ」
「「「わーい!いただきまーす!」」」
「ほら、精霊様にも感謝して。それじゃ、わたし達も頂きましょうか。・・・あら?明日のお天気・・・崩れるのかしら?」
「わかるのですか?」
「んーー。経験と母の勘かしら?そのうち”槍”様もわかるようになるのではないですか?」
「そういうものですか。先輩どうです?」
「さあ?カルミア様、なにか感じますか?」
「無理ですね。なにかコツでもあるのでしょうか」
猟師は、天候の変化に敏感だと言うし、今度聞いてみてもいいかも知れない。




