2. 父親
辺境伯邸の門番に来訪を告げ取次ぎを願う。
話は通っていたらしく、すぐに邸宅前まで案内される。
玄関先に執事長と使用人の二人が待っていた。
執事長の後ろに控えていた使用人に持っていた弓矢一式を預けていると
「ラグ様、執務室にて領主様がお待ちです。先程、バージ様も来られております」
義父が来ていることを執事長に告げられる。
「おや、おやじ殿も呼ばれているのですか?」
「いえ、特にお約束はなかったのですが・・・。ご子息の事が気に成ったのではないですか」
「私の事が?」
「親であれば子供が幾つに成っても気になるものです。たとえ、”槍”の称号を持つ御方でも同じですよ」
「そんなものでしょうか?」
「そうゆうものですよ」
話をしていると、執事長がこちらを向き姿勢を改める。
「”槍”のラグ様に私からお願いがあるのですが」
真摯な姿勢の執事長からただ事で無いことがわかる。
「わたしに出来る事であればお話し下さい」
「今回の開拓村の件で、どうかカルミア様の事守って頂きたいのです。
これは、辺境伯邸にて使える全ての者達の願いであります。宜しくお願いします」
執事長が頭を下げる。
「”絶対守る”とは言えませんが、わたしの出来うる限りカルミア様を守りお使いしたいと思います。
これは、”槍”の称号に掛けてお約束致します。」
「”称号の約”を頂けるとは・・・。」
老執事は、私の手を取り
「有り難う御座います。そのお言葉と”約”を頂き安心して皆様をお見送りする事が出来ます。
今更には成りますが、ラグ様もご壮健で在ります様に」
執事長の最敬礼を受け取り、その後は他愛もない話をしながら執務室に向かう。
執務室の扉をノックし私が来たこと執事長が告げると、室内より入室許可の声が掛かる。
執事長が扉を開け入室するとソファに座る義父と奥の執務机で辺境伯が書類に目を通していた。
辺境伯がお茶の用意を促すと、執事長が部屋を後にする。
扉を閉め、厨房に向かいお茶の準備を厨房の者に頼み、
私は菓子の準備をしながら先程の事を思い出す。
カルミア様がお生まれにり直ぐに母君のミルミ様は亡くなられた。
ミルミ様は、商家より辺境伯の元に迎えられた方で、慣れない貴族家の側室としての生活の中でも
明るく振舞いお仕えする我等に対しても笑顔を絶やさない素敵なお方であった。
だからこそ私を筆頭に辺境伯邸に仕える者達は、
カルミア様に幸せになって頂きたいという想いが強い。
今回、開拓村の代表役として赴くという事を聞いた時、驚きと心配が交差した。
それは、私だけでなく皆が思った事であった。
しかし、”槍”の称号を持つラグ様が共に村に向かわれると聞き、
何所かでカルミア様の事をお願いする事が出来ればという思いが膨らんでいた。
当家の騎士達も信頼が出来る事は分かっていますが、
やはり、王国の民たちだけでなく他国の者達からも認められる
数少ない”称号”を授与されている御方にカルミア様の守りを託す事が出来ればという想いが強くなった。
ただ守って頂けることを願ったのですが、
まさか、称号持ちの方々が命を懸けての約束である”称号の約”を頂けるとは思いませんでした。
私は、私に出来うる限りの事をカルミア様と称号の約”までして頂いたラグ様の為に
手配していきましょう。
ああ、思考しているうちにお茶の準備ができたようです。
辺境伯にソファに座るよう勧められる。
「騎士団の所に行っていた様だが、要件は済んだのか」
「団長達に挨拶をしに来たんですが」
私が少し困惑気味に答えると、義父が含み笑いをしながら
「さっき団長がえらくヤル気を出して訓練場に向かっていたが?」
「ええ、挨拶代りの手合せをして来ました。
流石に武具なしでしたから、途中で副長に止められましたが」
「相変わらず副長殿は真面目な様だ」
途中で止めたことを義父は気に食わなかったようだ。
「そう言うな、あの団長が暴走した時に止められるのはお前とラグそして副長しか居ないのだ。
騎士団に欠かせん人材だ。まあ、もう少し力を抜いても良いかなとは思うが。
しかし、あの生真面目さが有るから団長の補佐を任せられるのだがな」
辺境伯が執務机からソファの有るこちらに移動してきた。
「しかし、ラグが抜けると団長だけでなく騎士団の抑えを任せられる者を考えないといかんな」
「私が騎士団の抑えを成していたとは、思っていなかったのですが」
「団長は武力も有るが部下からの信頼は高いが、感情に任せて動く傾向がある。
どうも、その影響を騎士団全体が受けている気がするのだ。
何かあった時に、それを止められるのがお前と副長なのだが」
考え込む辺境伯に義父が話す。
「確かに、槍に剣の技も団長より上で指揮を任せられる者となると人材が見当たらんか」
「ああ、そこも踏まえて暫らくバージには相談役としてではなく、
騎士団に師範として正式に復帰して貰いたいのだ」
「おやじ殿は、復帰するのか?」
「若手だけでなく中堅の騎士達も鍛え直す意味で復帰すべきかとは思うのだが、
領内だけでなく他の地でも人材を探す事はできないものか?」
「難しい。国の南での紛争が続いている為に、騎士に成りたい者などが皆其方に流れている。
今回受け入れる難民に優秀な者がいれば仕官させようかと考えもしたが、
そんな者が難民に成るとも思えんし」
「申し訳ありません。この様な時に私情で退団してしまい」
私が頭を下げると、辺境伯が腕を組み私の方を見ながら答える。
「何を言う。本来なら騎士団所属として開拓村に送り出さなければいけない所だ。
しかし、それでは国から紛争地域に騎士団を出せと要望があれば当家からは、
”称号”持ちの貴様を派遣せざる負えなくなる。それだけ”称号”持ちの騎士は知名度と信用があるのだ。
だが、それでは開拓村の守りが弱くなり村民から自分達の事を見捨てるのではないかと
不信感が生まれる可能性もある。やはり、退団して村の守りに就く事が正解だと考えている。
あと、俺としてはカルミアの事もある。本人の意向で代表役に着いたとはいえ、
やはり親としては少しでも信頼できる者を近くに置いてやりたいと思う。
騎士団からも人を送るが、やはり、”称号”持ちが近くに居ればあの子も安心できよう。
これは、開拓村に向かう難民達にも言える事だ護衛を何人付けても
信頼や安心感は全く違うものになるだろう」
「そうですか。・・・そこまで思って頂けるのなら、
私としては”槍の称号”を頂いた価値が有ったのかも知れません。」
「何時も言ってるだろう、”称号”を持つからと言って自分が変わるわけではない。
何でも出来る訳でもない。気負う事もないのだよ。
助けを求める者が現れた時に必要な力を使えるように精進していればそれで十分なのだ。」
同じく”称号”を持つ義父から何度か聞かされている言葉を再度胸に刻む。
「また、深刻に受け取っているのだろう。
お前は真面目すぎるのだ。気負わず肩から力を抜くことも必要とゆうことだ」
「はあ・・・」
義父の言う事は分るのだが、自分はまだまだ”称号”を重荷と思っている所があるのだろう。
何時かわ義父の様な境地に成れるのだろうか。
「親子の話に割って入るが、俺は今回ラグがカルミアの付いて村に行ってくれる事に感謝している。
正直カルミアが開拓村の代表になると聞いた時に話し合って了承はしたが、
親としては心配だったのだ。シルビアも話を聞いてしばらく寝込んでいたぐらいだからな。
今はなんとか持ち直しているが、不安は消えていないだろう。
騎士団だけでなく何人か当家から人を入れるつもりだが、
やはり信頼できる人間が一人でも多いほうが良い。特に、ラグはあの村を知る者だからな。
そして、親としてカルミアの事よろしく頼む」
辺境伯に了承の意を述べた後、執務室に扉をノックする音がする。
執事長とメイドが室内に入り、ソファに座る三人の前にお茶とお菓子を置かれる。
お茶を飲みながら開拓村についての計画等を話した後、辺境伯の元を辞する。
義父とは辺境伯とまだ話があるらしくまだ邸に残るそうだ。
使用人から預けていた荷物を受け取り、辺境伯邸を後にする。
姉夫婦が営む店に向かう。
ラグが門を出ていくのを執務室の窓から眺める。
ソファに深く座りお茶を飲んでいるバージに向き直す。
「親とゆうのはどんなに優秀な子でも心配は無くならんな」
「まったくだ。しかし、お前からそんな言葉が出るとは思わなかったが」
「ラグは、出来た息子だが今回の事は存外に堪えたは」
昔馴染みで元騎士団第3位の”剣”のバージも歳を取った。
そして、それは自分も同じなのだと思う。
開拓村の在る北の地は、危険であることに違いはない。
人を寄せ着かせない深い森。そして、村が崩壊した原因である魔獣や獣の存在。
「しかし、何時かは復興せねばと思っていたが」
「ああ、まだ本当に村が崩壊した原因の特定がされていない。
あの時から、騎士団を中心に何度も調査を行ったが解らなかった。
原因も解らないのに村の復興は、不安すぎるな」
「そうだ、恐らく森深くに魔獣がスタンピードを起こした原因があるはずだが、
我々ではそこまで森に踏み込む事が出来なかった。
そんな所に難民を送って村を興すなど・・・」
「国からの指示だからと言って断れん訳でも無いのだろう?」
「難しい。新しい王と宰相は何かと地方貴族の力を削ごうと画策しているようだ。
下手に断ればどんな難癖を付けられるか」
「まったく、難民を出したのも南の直轄領に攻め込まれたのが原因だろうに」
俺としても、愚痴るバージに同意するが
「兎に角、無理筋の話だが何とかせねばならん。我らが子供達の為にもな」
そうだ、難民やラグそしてカルミアの為にも、
出来うる限りの助力をせねばな。




