23.報告(辺境伯邸)
「なるほど、御苦労だったな。それで”深緑の村”の命名についてはかまわんぞ。後で、政務官に登録の届け出をだしておけ。ああ、登録の手続きはザクが代行してくれて大丈夫なはずだ」
辺境伯邸に着くと、すぐに案内役に執務室に通され、挨拶も程々に開拓村”深緑の村”についても報告をする事になった。部屋の中には、辺境伯の他に騎士団長と副長と文官が控えて居た。報告中は、その都度各人からの幾つかなされた質問に答え返した。ここまでは、北の砦での受け応えと変わらず想定されたものであった。村の名前についても問題は無さそうだ。
「街道についてですが、理想を言えば早期に対応したいところですが・・・バジリオ様も文に認めてありましたが、人員の問題ですね。予算については現状捻り出せない程ではないですが、いきなり着工すると何処かにしわ寄せが出かねません」
文官が街道整備の懸念を答えるのを受け、辺境伯が苦い顔をして腕を組みながら返答した。
「そうだな。出来る事ならすぐに取り掛かりたい案件ではあるが・・・うーん、息子達にも相談してからだが、難しいところだな。バジリオは乗り気の様だが、北の砦も余裕はなかろう」
「難しいでしょうな。金の問題だけではないですから」
騎士団長も難しい顔をして答える。
「ザク、街道については時間が掛かる。こちらでもう少し問題の検討をする。後日、伝える事が可能になると思うが。第三陣を率いて出発するまでにカルミアへ説明する為の手紙を書こう。悪いが、持って行ってくれ」
わかっていたが事だが、時間が掛かりそうな話になった。辺境伯やその周辺に問題を提起できた事で良しとするべきだろう。
ここで、一旦話を武具の強化する事へと話を移す事にする。
「街道については理解しました。それで、次に武具の事ですが」
「今のままの武具では、魔獣に対して厳しいという話だな。それで、村の方では何か策を講じるのであろう?」
「村全体では、村の外周の壁のうち北の森側に外堀を設ける予定です。壁自体の強化は、最初から盛り込んでいましたのでそのまま予定通りに進行します。また、門の強化も行いますが外堀と連動して北側の門には橋を作る事を検討しています。ただ、こちらは冬の到来までに間に合わないと。なので、来年早々には着工したいとカルミア様はお考えです」
「ふむ。カルミアは、それで行けると踏んでいるのだな」
辺境伯が納得するように頷いている。
「はい。後は物見台などを増やしていければと・・・ただ、肝心の防御の要となる弓矢が魔獣の牽制程度にしか使い物になっていない為、先程にも述べたとおり強化が必須になります」
「しかし、過去の各地の報告では、通常に使われている武具で戦えているはずですが・・・資料に間違いが・・・いや、確認した報告されている資料の多さからは、虚偽の記載とは考えられません。開拓・・・いえ、深緑の村周囲に現れる個体に、なにか特殊性があるのか?」
「副長、今はそれを言っても仕方あるまい。検証のしようが無いのだ。それよりも、現在の問題を検討するとしよう」
「はっ。申し訳ありません」
「それでザク、街のドワーフに弓の製作を頼むと言う事だが了承は取れそうなのか?」
「はい。店主宛てに”槍”のラグが懇意にしており、カルミア様と共に手紙を受け取っております。また、店主が魔獣の素材に強く興味をお持ちなようで、村で獲れた魔獣の素材を今回持ってきています」
「そうか。ならば、俺からも手紙を認めよう。騎士団長も書け、これで、少しは店主が弓の製造を請け負ってくれれば良いのだが」
辺境伯からの了承を得たので、明日には店に行き店主との交渉をする事が決まった。
この後、辺境伯を中心に深緑の村の報告について問題点を協議し終え、執務室から退出しようと幾つかの書類をまとめていると、辺境伯から声を掛けられる。
「ああ、ザク。貴様への手紙を預かっている。実家からだ」
辺境伯は、手紙を執務机の上に置く。私は執務机に近づき、手紙に手を伸ばして受け取る。しかし、なぜ辺境伯が私への手紙を持って行ったのか不思議に思う。
「もしかして、内容をご存じですか?」
「御領主様は内容をご存じで?」
「同じ時に、俺にも手紙を送って来ていたからな。内容を確認してからどうするか決めてくれ。深緑の村に向かう前に教えてくれたらいい」
「わかりました」
辺境伯に返事してそのまま執務室を後にする。
共をしてくれている兵に、店の前で待機するよう言って荷馬車を降りて店に向かう。
店に入ると、磨かれた多くの武具が並んでいた。なるほど、どの武具も良い状態を保たれているのがわかる。興味深く眺めていると店の奥から野太い声が掛けられる。
「なんじゃ客か?・・・その服は騎士団か。なにか、求める物でもあるのなら相談にのるぞ」
「すまないが注文を頼む事になると思う。その前に、この手紙を読んでくれ」
懐の中から束ねられた手紙をドワーフの親父に渡す。
「まったく、藪から棒に手紙の束なぞ取り出して」
そう言いながら、手に持った手紙を受け取り一通づつ開封しては唸りながら読んでいく。
「そうか。おぬし開拓村に携わる者か、して書かれている内容は知っておるんじゃな」
「ああ。単刀直入に言うと、魔獣相手に通常の武器ではいつか手詰まりになるので、打開策の一つとして強化した武器をお願いしたい。手紙にも書かれていると思うが、特に弓の強化が必須なのだ。頼めないだろうか?」
「フム。”槍”の騎士からの手紙では猟師達が使う弓では歯が立たんとあったが、実際どうなんじゃ。お前さんも現地で見ていたのじゃろう」
「猟師達は、狩猟用の弓を使っているが森に潜む魔獣に対しては有効な打撃を与える事が出来ていない。弓矢で牽制して兵士達の槍や剣で戦ってなんとかしている感じだ。手紙にもあるだろうが、このままでは手詰まりになるのが見えている状態だ。打開策の一案として弓の強化をと村では考えている」
店主は、顎の髭を太い指でしごきながら考えている。
「なぁ、手紙の中に強化する弓の実物と制作方法が欲しいというのは、あれか、むらに弓を作れるドワーフが黒エルフが居るのか?」
「黒エルフ?村にはドワーフがおりますが・・・ただ、武具に携わる気が今までなかったらしく、どちらかと言うと家庭で使う食器や調理道具を中心に造っていたそうですが。それでも、今は鍛冶で武具の製造や修繕などを他の鍛冶師を主導していただいております」
「そうか。腕の方はどうだ。ワシが作る物を同じように出来るだけの力があるのか?」
「・・・ああ。少し待って下さい」
店主に断りを入れてから店を出て、待機させていた荷馬車に戻り兵士達に荷を下ろす事を願う。
「なんじゃ、このデカイ荷を乗せた馬車は。人の店の前になんてもんを止めるんじゃ」
「申し訳ないです。とりあえず村で作られた武具と刃物を見ていただこうかと思い持って来たのですが・・・」
「それだけではこの荷物量にはならんだろう」
「後で言う心算でしたが、村で獲った魔獣の素材を持ってきました。”槍”のラグが街を出る前に店主殿と交わした約束で魔獣のを素材を渡してほしいと言っていたので。それと、カルミア様からも新しい弓や武具の為ならば渡してほしいと言われましたので」
「なんと!!魔獣の素材じゃと。何の魔獣の素材じゃ?」
「慌てないでください。ちゃんとお渡しする時に説明しますし、目録もお渡ししますから」
魔獣の素材と聞いて、挙動不審になるドワーフの親父をなだめながら取り出した武具等を確認してもらう。
「どうですか?村のドワーフが手を掛けた物ですが」
「・・・良い腕の様だ。だが、普段使いの刃物に比べると武具の方は作りが少し甘いか。まあ、本職の武具職人では無いのだろうから仕方ないだろうが」
「それでは村で武具、特に弓の製作は厳しいですか?」
「ワシが手がけた物を、そのまま再現する事はすぐには難しいかも知れんが慣れれば出来るようになるじゃろう。・・・ふむ、ちょっとまっとれ」
店主は、何か思いついたのか店の中に戻って行った。
しばらくすると、若そうなドワーフの男を連れて戻って来た。
「武具の製造と製作過程を記した物は請け負おう。その代りに一つこちらの頼みを聞いてもらいたいんじゃが・・・」
そう言いながら、横にいる若いドワーフの肩を叩く。
「こいつはワシの兄の子なんじゃが、開拓村に連れて行ってくれんか?こいつの武具職人としての腕はワシが保証する。色々と世界を見せたいと兄がワシの所に送って来たんだが、ほれ、お前も自分の紹介をしろ」
「武具職人のバーガです。開拓村と変わった素材に興味があります。よろしくお願いします」
ドワーフの若者は、そう言って深く頭を下げた。
「はーー。判りました。一度、辺境伯に相談しますが、恐らく許可が出るでしょう。こちらこそ、よろしくお願いします」
「騎士殿、甥の事よろしく頼む。それで、手紙に書かれていた急ぎで欲しいとあった弓に関しては急ぎ取りかかろう。残りの武具等はできしだい騎士団の建物に送るようにしよう」
「それでは、”槍”のラグからとカルミア様から製作に使ってもらいたいと持ってきた魔獣の素材をお渡ししたいのですが。どちらに持っていけばいいでしょうか?」
店主に向けて荷馬車に積んでいる荷物に目を向けて言うと、店主が驚いた様に言った。
「もしかして、その荷台に積んである物が全部か?」
「ええ。こちらの荷が、全て魔獣の素材になります」
私がそう言うと、店主がその量に驚きながら裏の倉庫と製作部屋に運ぶように指示を出す。細かく場所を教える為に、バーガも荷物を運びながら裏に向かう。それを見ながら店主と話の続きを再開する。
「猟師や職人達が、直ぐにでも使える素材にしているそうです。”槍”のラグから送られてきた物は自由に使って下さい。村からの物を依頼した物にお願いします」
「そうか。ところで騎士殿には、甥の事で面倒を掛ける事になる。どうだ、ワシが武器を作ってやろうか?」
「それは嬉しい事ですが、私は時機に開拓村へ移動するので、出発までに間に合うのならお願いしたいところですが。それと、私が得意とする武器は戦鎚なのですが」
「なんじゃ、戦鎚か。それこそワシらドワーフの職人が得意とする武具だぞ。任せておけ騎士殿が納得する物を作ってやろう」
「では、私は明日からしばらく北の砦に行きます。開拓村に行く前に一度、戻って来た時に取りに来ますからその時に取りに来ます。そうだ、その時にできれば弓も引き取れると助かるのですが」
「わかった。バーガにも手伝わせて作る事になるから、開拓村で使える様に仕込んでおこう」
「そうですね、そちらもよろしくお願いします。こちらには、先触れを出してから来店します。バーガ殿に旅の準備をするよう伝えて下さい。それと、開拓村と言っていましたが村の名前は”深緑の村”になる予定なのでその事もバーガ殿に伝えて下さい」
「”深緑の村”か。中々面白い名前を付けたのだな」
その後も、幾つかの要望をお互いに話合っているうちに、荷を下ろし終えた様で兵達が戻って来た。バーガ殿は、まだ片付けが終わっていない様で会う事は無かった。
次に、”深緑の村”に行った時には新しく面白い仲間を連れていけるのだろう。
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