22.報告(北の砦)
砦に向かうザクが指揮する荷馬車の列を見送り、村の中に戻って来た。横を歩くラグが話しかけてくる。
「カルミア様。やはり、あれだけの荷馬車が続くと時間も掛かりますね」
「さすがに、村への二回の移動分ですから。しかも、最初の計画よりも増えていますし」
「それでもな、ラグ。荷を降ろして来る時より軽くなっている分、速度は速くなっているだろうから砦に着くのは速くなるだろう」
「確かにイーノの言うとおりですが・・・それでも、元々の計画からの遅れを取り戻すほどではないでしょうし。次に、第三陣として来る時は、人員の事を考えると今までよりも時間は掛かるでしょうから・・・」
「そうですね、カルミア様。それを考えると、第三陣を指揮するザクへの負担が大きくなりますね。先輩」
「そうなんだが。だからと言って、村の防衛の人数をこれ以上減らしてザクに付ける訳にもいかんしな」
「今回戻った兵達は、また護衛任務として第三陣に付いてこちらに来る事になりますが・・・。本当は、次の第三陣は非戦闘員の数が多くなることを考えると、やはりもう少し兵の人数を増やす事が出来れば良かったのですが・・・」
「カルミア様の心配はわかりますが。これでも、当初の人員の配置から比べると第三陣の護衛の数は増やしていますし。さすがに、これ以上、村の防衛の負担を増やす事は出来ませんから」
「そうなんですよね、先輩の言う通りなんですが・・・。やはり、ザクの指揮能力を信じるしかないですね]
「あいつの指揮は、間近に見ていたお前が一番わかっているだろう?」
「問題なく部隊の全体を掌握する力も有りますし、判断も的確でした。将来的には、辺境伯の元で一軍を率いる事も可能でしょうね」
「イーノも信頼していると先日話していましたし、二人がそこまで言うなら、大丈夫なのではないですか?」
「ええ。ザクへの信頼は確かですが、何事にも不測の事態は起こりえる事ですから・・・。余計な心配かもしれませんが」
「まあ、ラグの心配も良く分かるが、取り越し苦労になる事を期待して待つしかないだろう」
「・・・先輩の言う通りですね。ザクや護衛の兵達もすでに街道の移動は経験していますし、そこも踏まえて待ちましょうか」
「そうさ。こちらはこちらで、とっとと村に第三陣が到着するまでに村の拡張と新しい防衛。それに、お前達から報告のあった農地を新しく確保する計画を実行しなきゃいけないんだ。ザク達の心配は少し横に置いておけ」
「そうですね。やらなきゃいけない事を、元の計画から幾つか増やしてしまいましたからね」
「大丈夫です。時間は少し押してしましますが、何時かはやらなければいけない事です。皆さんには、負担をお掛けして申し訳ないのですが・・・」
「何を言われますか。カルミア様ご自身が言われた様に、何時かは手を出さなければいけない事です。皆も、話し合いの席で同意をしてくれています。それでも、カルミア様が責任を感じられるのでしたら、私とラグに今のように話して下さい。私達なら、カルミア様ほどの博識では有りませんが、それなりに経験は積んでいますから少しは責任を受け持つことも出来るでしょう」
「そうです。先輩も私も年齢の分だけ経験はありますから。それに、私はこの地の出身です。全てを答える事は出来ないかも知れませんが、土地の事に関して少しはお役に立てるでしょうから」
「二人にそこまで言っていただいて・・・感謝します。今までも頼ってきましたが、これからも宜しくお願いします」
「「はい!」」
やっぱり、わたしはまだまだ子供なんだろう。二人に余計な心配を掛けてしまったようです。
「それでは、直ちに行動を開始いたしましょう」
護衛の兵士が扉をノックすると、中から入室の許可がでる。扉を開けられるのを待って中に入る。
「よく戻って来た、騎士ザク。開拓村に着いたカルミアの様子はどうだった」
入室すると同時に、大きな声が私に質問を投げかけて来る。その声が終わるや否や、騎士の一人が執務机の主の目の前に横から書類を音を立てて置く。
「・・・バジリオ様。いつも言っておりますが、曲がりなりにも辺境伯家の一員であり、この砦の主なのですからもう少し礼節を弁えていただきたいのですが?」
「いや、承知してはいるが、早く知りたいだろう開拓村の事を。それに、次に向かう者達に早く必要な補給物資なんかを伝えなければいかんだろう?」
「・・・ハァー。そう言う事にしておきましょう。では、騎士ザク疲れていると思いますが報告をお願い出来ますか? バジリオ様、こちらの書類は後ほど全て処理して頂きますから」
執務机に片肘を付き、不満そうな顔をこちらに向け私に話すよううながす。開拓村でカルミア様が中心となってまとめ上げた羊皮紙に書きあげた報告を述べていく。
「なるほど。今のままでは、武器に心配ありが・・・。それ以外のことでは、予定を遅れてはいるが心配するほどでもないのか」
バジリオ様が呟くように、私の報告に対して確認をしてくる。さらに、副官が話の間に入って尋ねる。
「バジリオ様。街道の整備につても」
「ああ。そちらは俺の判断では如何にもならん。街に行った時に父と兄達に話を通してくれ。何とかしてくれるとは思うが、予算と人が絡んでくるから一朝一夕に出来る事ではないだろう。そこは、カルミアも分かっているだろう」
「はい。街へは何度か行かなければ成りませんから、その時に唯今報告した事を伝える事になります」
「それでは、こちらも早急に唯今受けた報告を基にした見解をまとめて書類にしてお渡ししましょう。よろしいですか、バジリオ様」
「それでいい。副官を中心として砦方の見解をまとめてくれ」
「わかりました。騎士ザク、取りまとめに少し付き合って下さい。あと、バジリオ様は我々が作業している間に、残っている机の上の仕事を終わらせて下さい。それと、出来上がった資料は、言うまでもなく最後に確認して頂きますので」
「・・・くっ、わかった」
バジリオ様と副官のやり取りに一旦の決着がついたのを見て、最後に残った報告を行う。
「よろしいでしょうか?最後に開拓村の名称を”深緑の村”もしくは、”深緑”としたいと言われていました。これは、後日の辺境伯への報告の際に承認を取ろうと思っております」
「騎士ザク。それは、カルミア様が御決めに?」
補佐の騎士が私に問う。
「はい。カルミア様の発案で有り、村に在住する者達は皆、納得しています」
「そうか、カルミアの発案か。あいつは、昔から詩的な所があったが・・・”深緑の村”か、いいんじゃないか。親父も許可を出すだろう。もし、ケチをつけるなら俺が話をつけてやる」
「ありがとうございます」
私が礼を述べると、軽く手を振り「問題ない」と言われる。
「騎士ザク。報告はそれで最後ですね?それでは申し訳ないですが御領主様に持って行く報告書を手伝って下さい。急ぐのでしょう?街に行くのは」
「ええ。早く辺境伯様にも報告をしておきたい事と、先程の報告にも有りました通り、魔獣に対して猟師達の弓を強化することを願い出るようカルミア様に頼まれましたので」
「そちらは、何か目処が付いているのか?」
「それについては、カルミア様からバジリオ様へお渡しするよう申し使っているこちらの手紙をご確認ください」
私が取りだした手紙を補佐の騎士に渡し。バジリオ様に手渡される。
「なるほど、確認しておこう。それで、開拓村、いや”深緑の村”だったな。深緑の村周辺の様子を実際に見て来て、騎士ザクはどう感じた?ああ、報告書の書類を取りまとめながらでいい」
バジリオ様と補佐の騎士からの質問に、村からの報告書だけでは伝わらないところを補完しながら答えていく。私が答えた事も加味して砦側の報告書が急ぎで製作されていった。
街の門が近づいてくる。懐かしいと言うには、そこまで時間は過ぎていない。前回、この門をくぐった時は、カルミア様とイーノ先輩に元騎士で”槍”の称号持ちのラグと一緒だった。今は、兵士と荷馬車を引き連れて抜ける事になる。
「騎士ザク様、街に入ってからは直接御領主様の所へ向かうそうですが、荷はどうしますか?それと、我々と荷馬車はどちらの宿に向かえばよいでしょうか」
荷馬車を引く、年長の兵が問い掛けて来る。
「まずは、このまま辺境伯邸に向かいます。そこで、必要な物だけ下して皆さんと荷馬車は騎士団の建物に入ってもらいます」
「はあ。私達一般の兵が入って大丈夫でしょうか?」
「先に、砦から先触れの者が出ているので問題なく入れるはずです。中に宿泊用の施設も併設されていますから安心して下さい。厩舎も在りますから、馬を荷車から外して休ませる事も出来ます」
「そうですか・・・しかし、話には聞いていましたが大きな街ですな」
「貴方は初めてでしたか。街に入るのは?」
「はあ。私は初めて訪れました。話には聞いていましたが。皆、そんなモノだよな?」
年長の兵の言葉に、引連れた兵士達の多くが頷く。一人だけ街の出身だと答える兵がいた。
「出身者ですか、それなら騎士団に着いて一息ついたら皆を街の酒場にでも案内して下さい。資金は用意されてますから英気を養って下さい。ただし、騎士団の建物自体に門限がありますから気を付けてください。そうです、建物に入れば案内役の者が着きますから気になる事があったらその者に聞いて下さい。あと、恐らくですが明日の昼頃に、荷馬車ば必要となると思いますので、三人ほど準備をして待っていて下さい。それ以外は自由にしていただいてかまいません」
「それでは、私がお供しましょう。残りの者はこちらで選んでおきます」
「宜しくお願いします」
その後も、幾つか街に入ってからの予定を確認し合い先を進んでいく。私にとっては見慣れた街並みも、初めて訪れた兵士達には物珍しい様で門をくぐってからは、兵士達が辺りを落ち着きなく見渡している。そうこうしている間に目的の辺境伯邸にたどり着いたのだった。
読んで下さり本当にありがとう御座います。
誤字脱字等が有りましたらご指摘していただくと助かります。
これからもよろしくお願いします。




