21. 魔法使い
年長の子供達が野原を走っているのを見ながら、自分の膝の上にいる幼子をあやす。草の上に座る私の周りには、幼い子供達のお昼寝時間になっている。強くなってきた陽射は、薄く流れる雲に遮られて心地よい微風に、気持よさそうに皆眠っている。
「ダリア様、お疲れではありませんか?小さな子の相手は大変でしょう」
「なに、眠ってしまえば問題ないわよ。私も子育ての経験はあるから大変なのも分かっているし。それでもこの子達は、聞き分けのいい良い子達よ。困らせられる事なんてほとんど無いわ」
今日のお迎えは、持久走をしている子達の年長組にいるジジの母親のルミようだ。
隣まで来て私と同じように草の上に座る。
「まだ起きませんわね」
「さっき眠ったばかりだからね。そう急いで起こす事も無いでしょう」
「そうですね。・・・どうです、学習の様子は?」
「ええ、そちらは今日もヒナが見ていたよ。安心しな、息子は真面目に取り組んでいるよ」
「そうですか。あの子、皆を護るんだと言って騎士様や槍様に強く憧れた様で、意気混んでいましたから。お勉強もしっかりとしているのなら良いのですが?」
「ああ。そうだったね、あの子が一番積極的になっていたね。しかし、他の子達も真剣に勉学や体力作りをしているが、それを引っ張っているのはジジだからね。教える側としては助かっているんだよ」
「・・・そうですか。ダリア様やヒナ様の助けになっているのなら良いんですが」
「心配するなとは言わないけどね。あなたは片親だから仕方がないだろうけど。母親としてしっかりと見守ってやりなさい。子育てに悩むんだったら話くらいいくらでも聞いてあげるわよ」
「ありがとうございます。やはり、夫が亡くなって心配では有るんです。あの子も気にしてか明るく振る舞ってくれていますが・・・」
そう言ってルミは、少し物憂げに息子の方を眺める。
「そうだ、あなたに聞いておきたい事が有るんだけど構わないかしら」
「・・・ええ。構いませんよ。なんでしょう」
「そんなに畏まる様な話じゃないの。あなたが引き取っているデグの事なのよ」
「デグですか?」
思った話と違ったのだろう、ルミが少し困惑した表情を見せる。
「あの子は、あなたの村の子じゃ無いのよね?確か、避難する途中で一人で居たところを一緒に連れて来たのよね」
「はい。同じ様に逃げてきた何所かの村の迷子かと思ったのですが、何所の村の人に聞いても知らない子だと言うので、私が引き取ったのですが・・・それが?」
「いえね、あなたにも話した様に、ヒナの魔力鑑定結果でデグに魔力が有って、しかも制御する力が強い事が解ったでしょう。そんな子がどうして一人で迷っていたのかしらと思ったのよ」
そう、子供達の中で一際大きく強い体を持っているデグには、ヒナ程では無いが強い魔力と力を制御する能力を持っていた。ヒナの話では、今迄出会った事の有る魔術師と比べても大きい力を持っているそうだ。ヒナの知っている魔術師の数も知れたものですが。
「私やヒナが話を聞いても、デグからは満足できる様な答えが返ってこないのよ。一緒に生活しているあなたやジジは何か聞いていなかと思ったの」
「あの子は、元々口数も少ないですし必要な事しか話さないので・・・。ジジは何か聞いたかも知れませんが・・・でも、初めて会った時は今以上に声を出さなかったですし。恐らくあの子も何も聞いていなのでは」
「そうかい。それじゃあ仕方がないね。もし、何か気付いた事や、デグから身の上のについて話があったら教えてほしいのよ。本来なら、魔法を教えるのも其れこそ魔術師になる事も、確かな身元の確認が取れないような子には出来ないの。無理な場合は、ご領主様に報告して後ろ盾になって頂く必要がある場合もあるのよ。だから、念の為にもお願いね」
「わかりました、そう言う事なら。ただ、デグの気持ちの事も有りますから、無理強いは出来ませんから」
「それでいいわ。今のところは、カルミア様が何とか話を付けて下さるでしょうから。でも、デグは魔術師にはなりたく無さそうですけど」
「そうなんですよ。ジジもそうですけど、デグも槍様に強い憧れを持っているようですから」
「そうなのよね。一応本人に言い聞かせて、読み書き算術と一緒に魔法の制御等を教えているんだけれど・・・」
「そこは私も聞きましたけど。魔法には興味が出ないようで・・・」
「開拓村に着いてから、槍様に話して貰う必要は有るのかも知れないわね」
「ダリア様には、ご苦労をおかけしてしまって申し若有りません」
「いいのよ。今の私は、魔方も余り使えない徒の年寄ですから。そんな事でしか皆さんのお力には中々慣れないですから」
「そんな風に言わないでください。ダリア様のおかげで薬草の採取や薬にする事が出来るんですから」
「そう。それなら良かったわ。昔、学んだ知識が有用なら」
「はい。私達親が、子供を預けて安心して働けている事だってそうです。有り難い限りです」
「そこは、ヒナも一緒に見てくれているからね、苦労しているとは思わないわ」
「ところで、そのヒナ様は何処に居られるのでしょう?お見かけしませんが」
「ネーアに連れ添ってもらって、砦の自室に戻ったわ」
私が指さした砦の方を見て、ルミは少し驚いた顔をする。
「大丈夫なのですか?」
「魔法の研究にかまけて普段から余り動かないので、今日は子供達について一緒に走らせた結果、途中で盛大に転んだだけですよ。治癒の魔法を自分に掛けていたから問題ないでしょう。その後で、少し足元がふらついていたので、、念の為にネーアに着いて部屋まで送ってもらったのよ」
「そうですか。怪我などが無ければ良いのですが・・・」
「後で、私も様子を見に行くから大丈夫ですよ。明日の学習と、子供達を見るのは問題ないでしょう」
「ところで、魔術師の皆さんも体力が必要なのですか?」
「当然よ。魔術師は体力が無いとやっていけないわ。学習も研究をするにしても時間が掛かるのよ。それに、戦いに出る事も有れば冒険に出る者もいるの。皆さんが思っているよりも、ちゃんと考えている魔術師はしっかり体作りをしているものよ」
「そうんなんですね。ダリア様も鍛えたりされたんですか?」
「若い頃は、師匠にどやされながらやったものよ。研究するのに体力なんて要るのかって思いながらね。でも、歳を経ていくと分かって行くものよ。さて、年長の子達も走り終わったわね。寝ている子を起こして帰りましょうか」
「ヒナ様、起きても大丈夫ですか?水でも飲みますか」
「いただきます」
ベットに座り、渡したコップを両手に持ってゆっくりと水を飲む姿はどこにでも居る女の子だ。今までは、魔法の事を教えてくれる先生としてしか接する機会が無かったので、少し話をしてみようと思い向いに椅子を持って来てそこに座り、ヒナ様の様子を気遣いながら声を掛けてみた。
「怪我の方は、如何ですか?」
「直ぐに治療の為の魔法を掛けたので、もう何ともないです」
「・・・そうですか。でも、魔法って凄いんですね」
「ネーアさんは、初めてですか?実際に魔法を使用しているのを見たのは」
「そうですね。村には魔法使いの方は居りませんでしたし、逃げて来る時にご一緒した冒険者の中に居られた様ですが、使っているのを見るのは初めてです」
「それじゃあ、御自身が魔力を保持していると知る機会は、本当に無かったのですね」
「はい。この前、ダリア様とヒナ様に言われるまでは知りませんでした。自分に魔力が有るなんて」
「ンーん。それは勿体無かったですね。せっかくお持ちになっていた才能を活かす機会が失われるところだったんだ。ネーアさん、あなたの持っている力は、修練していけば必ず役に立つものになるはずです。わたしも出来るだけ協力しますから。つらい事も有るとは思いますが、一緒に頑張っていきましょう。・・・って言っても、わたしも修行中に身ですから大きな事は言えませんが」
「ヒナ様、私!嬉しいんですよ。自分に皆さんの役に立つ力が有るかも知れない事が。だから、必ず魔法の制御が出来る様になってみせます。夫にも言われたんです。私の力が私自身に必要なものになるのだったら、やりたい様にやりなさいって。夫は、私がつらくなった時やしんどくなったら自分が私を支えて見せるって。そう言ってくれた夫の為にも魔法を使える様になりたいんです。あと、皆さんと色々な事を学ぶのが楽しいんです」
「そう言ってもらえると、わたしもうれしいです。でも、ネーアさんと旦那さんてほんとーに仲むつまじいんですね。なんか、聞いてるとこちらが照れてしまします」
「それは・・・。だって、結婚してまだ時間が経っていないですし。逆に、そう言われると恥ずかしくなります」
夫とは、幼い時から許嫁として一緒に生きてきた。村が攻められる事が無ければ、普通の農家としてずっと生活していたと思う。でも、現実は魔獣が出るという開拓村で生きていかないといけない。それでも、それだからこそ自分に少しでも力があるのだったら・・・。私は必ず夫との新しい生活を少しでも幸せなものにする為に、力を手に入れたいと思う。
その後も、少しうちとけたと思うヒナ様と話をしていると、扉のノックと共にダリア様がヒナ様を気遣いながら部屋に入ってこられた。子供達もダリア様とルミさんに連れられて帰った様で、夫の待つ家に帰る事にする。帰る道すがら私は考える、例え何所に行っても夫と一緒ならきっと幸せなんだと。
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