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深緑の森 -開拓村の再開拓物語-  作者: 済


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19.深緑

今回、話の最後に開拓村周辺図を添付しました。


 砦を出発して三日目、長く続く荷馬車の列がゆっくりと街道を進んでいる。開拓村に続く道は、辺境伯領にある他の街道に比べて整備されていない。北に進めば進むほど、固めきれていない土の道に轍の跡が深く残り、人や引き馬・牛の足が所々に残るぬかるみに取られる。馬車列を中心にして、兵士たちや、急ごしらえの槍を装備した農夫が左右を守っている。皆、慣れない装備や悪い足元に苦労しながら先を進む。

 わたしの隣を歩く騎士と話をする。


「道の整備が出来ていない事は分かっていましたが、思ったよりも足を取られて、ただ進むだけでも大変ですね。イーノは何度か通った事があるのですよね」


「そうですね、何度か開拓村には行ったことがありますから。カルミア様もご存知でしょうが、街道といっても一年に二回しか使いませんから、どうしても荒れてしまします。それでも第一陣が、ひどく荒れた場所は土を盛ったりしてくれているのでマシになっていると思いますが」


「それはそうですが・・・。ただ土を盛るだけでは雨が降ればすぐに流されてしまします。やはり、開拓村での生活を考えれば道の整備は考えないといけないか。せめて、地固めはしたいです」


「商人を呼ぶ事も考えると、道が良い事に越したことはないですが。しかし、村からだけでは時間が掛かり人手も足りんでしょう。出来る事なら砦からも整備の手を伸ばして貰えると良いのですが」


 確かにイーノの言う通り、村から道を整備していくのは難しいと思う。兄の居る砦からも整備の人手を出してもらえるのが理想ですが・・・。


「これ以上、バジリオ兄上の手を煩わせるのも・・・。一応手紙で相談だけでもしてみますか・・・」


「いえ。そこは、辺境伯に話を通してみてはどうでしょうか。当然、バジリオ様にも話をして貰いますが。領内の将来的な食糧状況を考えれば、開拓村を成功に導くことは最重要な案件になると私は考えています。それは、カルミア様も御考えでしょう。辺境伯様も同じだと思います。であれば、荷を運ぶ為にも領内から開拓村をつなぐ街道の道を整備について相談するのは必要なことだと思います」


「そうですね・・・わかりました。確かにイーノの言う通りです。村の事だけでなく領内全体の将来を考えれば・・・。父と兄達にも手紙を書きましょう。街道の状況も知らせれば早く手を入れてくれるかも知れません」


「申し訳ありません。口賢しい事を述べました」


「いえ。イーノに言われなければ、悪路への愚痴を言うだけで何の建設的な考えも出ませんでした」


「そう言っていただけると、差し出がましい事を言ったかいも有ります」


 イーノと話をしていると、後方から荷車の車輪がぬかるみにはまったと声が上がる。イーノと視線を合わせて、馬車の方に歩きだす。




「カルミア様、お疲れでしょう。先に休まれますか?」


「いえ。予定の通りでかましません。第二陣では若いほうに入るわたしが予定を崩して休んでいては示しが付かないでしょう」


「しかし、今迄に長期の移動と野営は初めてでは無いですか?」


「・・・はい。これでも、鍛えていると思っていたのですが・・・正直これ程大変な移動になるとは思いませんでした。これも、経験の無さですかね?」


 日が暮れ今日の移動も終わり野営の準備を皆が始める、馬車列を引いていた者やそれを守護する人々は、それぞれの持ち場に分かれて食事の準備をする者や荷車を引いていた馬や牛の世話をする者、荷車の車輪等を修理調整する者等に働いている。そんな中、カルミア様は夜番の為に焚き火の前で簡素な食事を熱いスープで飲み込んでいる。今迄、辺境伯の子息として育てられたのだ、このような旅には慣れていないだあろうが、それでも自分の仕事を全うしようとしている。


「カルミア様の歳で、私と同じだけの経験をされていても困りますよ。それに、その経験の無さを補う事を任されたのが私や他の者達なのですから」


「ええ。わたしも理解はしているのですが、どうしても皆さんの足を引っ張っている現状が心苦しいのです」


「カルミア様は難しく考え過ぎなのです。もっと、私を筆頭に歳上の者に頼ればいいのですよ。皆、経験が足りていない事は分かっているのですから。私の知識が御考えの役に立つなら幾らでもお教えしますよ。私だけでなく、他の者も同じですよ。気兼ねなくお聞きください」


「そうですね、有り難うございます。イーノにも、他の方々にも頼りにしたいと思います」


 そう言って食事を続けながら、カルミア様は揺らめく焚き火の炎を見つる。

 疲れからかな、思考が悲観的な方向に向きやすくなっているようだ。話を変えた方がいいだろう。


「ところで、魔力の測定結果は驚きましたね。思ったよりも収穫が大きかったと思います」


 難民達の中から、残っていた若者と子供を対象に、ヒナという若い魔術師の女性が先日から行っていた鑑定を基に測定した結果についてだ。話を向けると、炎をから目を離しこちらに笑みを浮かべながら顔を向けてくる。


「はい!あまり期待はしていませんでしたが、予想を上回る結果でした。バジリオ兄上に無理を言って伝令を寄こして貰えるようにして良かったです」


「以外と時間が掛かりましたが若者の中から一名、それに子供の中から二名でしたか?」


 昼過ぎに伝令が、馬車列を追いかけて報告に来た。伝令からの直接に受けた報告と、老齢な魔術師であるダリアが認めた手紙での報告が持ち込まれた。


「ええ、女性の方が一名と男の子が一名、それに女の子が一名です。正直に言うと一人でも居ればいいと思っていました。それが、三人です!」


「・・・はぁ。しかし、読ませて頂いたダリアさんとヒナさんからの手紙に書かれていましたが、魔術を教えるには子供の方がいいのでしょうが、女性は年齢的に大丈夫なのでしょうか? 年齢が上がれば、それだけ魔法を使う事が難しくなると聞いたことが有るのですが」


「少し違いますね。魔法の使用ではなく、魔力自体を増やす事が子供達に比べて出来ずらく、それに魔法を使う為に必要な魔力操作を行う為の感覚が鈍るとロアナ先生に教えて貰った事が有ります」


「それでは、現実的に魔法を使っての仕事をして貰うのは望み薄という事ですか」


「それに付いて、今は判断できないですね。物語の中にも歳を経てから魔術師となった話も有るくらいですから・・・。人によるとしか言えないかも知れませんね。ただ、知らせの中に入っているのですから、まったく期待が持てないという話でもないのかも知れません」


「それじゃあ、ダリアさんとヒナさんの魔法の指導が鍵になるのですか?」


「そうだと思います。こと、魔法に関しては専門家ですから、わたし達がどうのこうの言っても仕方がないですから。それでも、魔力が弱くても魔法が使える・魔術の知識が有る者が、一人でも多く村に居る事は将来を考えれば必ず助けになりますから」


「そういう事なら、今回の知らせは朗報であったという事ですね」


「ええ。良い知らせだと思います。・・・さて、食事も済みましたし、わたしは夜番に行ってきます」


 カルミア様が話を打ち切り、食器を片付けて自分の持ち場に向かう。


「さて、少しは気分転換になればいいのだが・・・」


 若いゆえか、誠実さと責任感に押し潰されないようにして貰いたいものだと思う。心配し過ぎかもしれないが・・・。




 丘の上まで後少しです。丘の上からは、目的地の開拓村とその周辺が見渡せると聞いています。ここまでの旅で疲れた体と心が少し軽くなっていく気がします。


「カルミア様。やっと目にする事が出来ますよ。目的の村に」


「はい!あと少しで目にする事が出来るんですね」


 重くなっていたはずの足は、翼が生えたかのように思えるほど、丘の坂を軽やかに登っていきます。ああ、やっと父である辺境伯に任された地を見る事が出来る。わたしとみんなで新たに造り上げる土地が。



 斜面を上がって来る風に軽く煽られながら、丘の頂上から見下ろす世界は一本の街道を中心に、左右に腰丈以上はありそうな草が生い茂る大きく広がる平原と先に流れる川。そして、川に架かる橋の先、まだ小さく見える壁に囲まれた村。


「報告書と話に聞いて分かっていたはずですが・・・。ここまでの、土地が在ったなんて」


 祖父が見つけだし、祖父と父が何とかして切り開きたいと思った土地。誰にも手を付けられず、豊かで肥えた地。しかし、魔獣という人の天敵が多く生まれる森が有る為に、阻まれてしまった地。


「イーノ、この地をわたし達は開拓していく事になるのですね、村を自らを魔獣の危険から守りながら」


「はい。カルミア様を中心として造り上げる事になる村と開拓の地です」


「ええ、そうです。わたしは、必ずこの地の開拓を達成します」


 決意を新たにしながらも、気を引き締める心算で思いを口に出す。そして、平原の先に目を向け、開拓村とその周囲を見渡す。そこには、開拓村の側を流れる川によって、東西に分断されながらも広範囲に広がる森を見る。


「あの北に見える森林が魔獣を多く排出すると言われる森ですか」


「正確には、村の北から西に広がる森がそうです」


 イーノの言葉に、わたしが相槌を打つ。先に広がる森こそが、わたし達開拓村の住人が今後戦って行かなければいけない、大きな障壁なのだ。


「しかし、川を挟んで森の色が違うのですね?村の北に広がる森は、今まで見たどんな森林とも違う」


「そうですね。西の森は普通に青々としたもりですが・・・」


「ええ。どこまでも、深く暗い緑な色をしています。深緑と言うのでしょうか?」


「・・・深緑ですか。いいですね、どうですカルミア様、それを村の名前にしては」


「村の名前ですか?確かにいつまでも単に開拓村では味気ないですか。今迄、決まった名前は無かったのですよね」


「聞いた事無いですね。おそらく無かったと思います。もし気になるのなら、ラグに聞けば分かるでしょう」


「そうですね、村に着いたら確認しましょう。でも、深緑の村ですか・・・」


 思わぬ形で、新たに開拓村の名前が付くかも知れない。深緑の村か・・・良いかも知れません。



開拓村周辺図

挿絵(By みてみん)


開拓村周辺図(拡大)

挿絵(By みてみん)




読んで下さり本当にありがとう御座います。作者の済と申します。

誤字脱字等が有りましたらご指摘していただくと助かります。


これからもよろしくお願いします。

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