17.鹿型
二話投稿の二話目になります。
茂る草に苦戦しながらも、鹿型の魔獣に気付かれないように近づく。
風に靡く草の隙間から、見え隠れする魔獣の姿が少しずつ大きくなる。今、躍り出ても槍の届く距離まで詰め切れていない。
周りにいる兵士達が無理に飛び出さないよう手で牽制する。もう直、猟師達が弓矢による追い込みが始まるはずだ。
シュッ、シュッ、と風を切る音が頭の上を通るのが聞こえてくる。
「出るぞ!」
弓の音を合図に、鹿型の魔獣へ一息で近づく。矢は、音を立てながら魔獣の背後の地面に突き刺さる。背後を気にし、少し慌てた様子を伺わせているところへ十分間合いを詰めて槍を繰り出す。後ろから飛び出してきた兵士達も、各々の手持ちの武器で攻撃を開始する。
不意をつけた為、私の槍は、太い首元を狙い穿つことに成功する。槍の切っ先を突き立てられて尚、雄大な角を繰り出そうとするのを体を逸らして避けながら、下半身に力を入れ槍を抱え込んで突き刺した槍の先をさらに押し込む。流石に、決め手になったのだろう、槍を突き刺さったまま「ドォン」と音お立てて倒れる。槍を抜こうとするが、深く刺さりすぎたためか引き抜けない。仕方無く、槍を諦めて腰の長剣を抜き次へ向かう事にする。
兵士達が、分かれて残りの二頭へ対処している。どちらの魔獣も幾つもの傷を残しながらも、兵士達を威嚇し角で薙ぎ、突進を繰り返している。まだ、兵士達は決め手となる攻撃を与えきれていない。
逃げる事をせずに兵士達に攻撃を仕掛ける為、少しでも距離を取ろうとすると猟師達の弓矢が飛んで来るのを鬱陶しそうにしている。私と共に攻撃した兵士達も中々決定打が出ずに苦労している。
そんな中、一本の矢が魔獣の目に刺さり、更に鳴こうとした様に見えた口元に向かって突き刺さる。そこで怯んだ隙を見て、兵士の一人が戦鎚を横殴りにして頭部を破壊する。そのまま、魔獣は口から泡を吹き出しながら倒れる。兵士達に止めを刺すよう伝えながら、もう一頭に対峙する。
長剣で角の攻撃をいなしながら隙を見つけようとする。魔獣の体にはすでに何本も猟師達が放った矢が刺さっているが、お構いなしに角を振り回し、前足で蹴りに来る。
集中して、私を攻め続けている魔獣を側面から、援助に来たであろう兵士の槍が、腹部に刺さる。すぐさま、絶命する程の傷ではなかったが、側面から現れた他の兵士が、更に後ろ足に攻撃を打つ。ここまでされ、ようやく動きが鈍くなったところで長剣を横に振りかぶり、一息で距離を詰め、横に構えた長剣を一気に横へ薙ぎ払う。長剣の刃から柄、握った手、腕にまで硬い首の骨を断つ感触が上がって来る。
「やはり、簡単にはいかないか」
念の為に、首を再度首に剣を入れ完全に落としてしまう。
剣を持つ反対の腕で額の汗を拭い、槍の刺さっている魔獣の元へ向かう途中、援助に来た兵士が私に近づきながら聞こえたのであろう私の言葉に答える。
「鹿とはいえ魔獣ですから・・・。逆によくこの人数で対処できたと思うべきでしょう」
「そうかな?もう少しうまくやれたんじゃないかと思わなくも無いがな。ただ、これで終わりじゃないかも知れん。どこまで話は聞いてる?」
「我々は、魔獣が進行方向に複数体発見に伴い、対処する部隊の援助を命じられましたが・・・。まだ、残っていると?」
魔獣に深く刺さった槍を、左右に動かしながら無理やり引っこ抜く。
「ああ。まだ、群れで隠れている可能性があるようだ。済まないが、援軍を同行する者と残って後続と合流する者に分けてくれ。我々は直ぐ探索に出る」
「了解しました。では直ぐに取りかかります」
猟師達に村の周辺の偵察を依頼し、残る兵達に後続に居るザクへの報告を頼んで村に向かう。
合流した者達と共に警戒しながら村の近くまで先行する。村の南に流れる川に架かる橋まで到達する。それ程大きくもない川に、不釣り合いな太い丸太で支えられた橋は、特に壊された様子も無い。橋を渡れば、少し進んだ所に村の南の壁と門が在り、ここからでも破壊されていないことが見て取れる。
しばらくすると、リヨウと共に偵察に出ていた猟師が橋を渡って帰って来る。
「・・・槍殿」
「何か有ったか?」
「はい。村の西側に何頭かいる様です。今、リヨウが残って確認をしています」
「大丈夫か?リヨウは、無理をしていないか」
「その辺は大丈夫ですよ。上手く隠れています。では、私はリヨウの元に戻ります。」
「まて!私達も橋を渡ろう。案内を頼む」
「わかりました。準備は?」
猟師の問いかけに、皆の方を見る。・・・皆が準備が出来ていると合図を送って来る。
「よし!行くぞ」
猟師を先頭に警戒しながら橋を渡り対岸に着く。先の猟師は、そのままリヨウが隠れていると思われる場所へ進んで行く。
しばらくすると、村の東を偵察に行っていた猟師が帰って来た。
「無事だったか。どうだった、東は?」
「ええ。特に魔獣等の危険は無いと。それと、村の壁は問題ないです」
「そうか。それでは、ここで警戒を頼む。さっき、西から魔獣が居ると報告があった」
「そうですか。数と種類は?」
「詳しい事は、確認中だが、複数だそうだ」
「わかりました。では、私達は少し西に行った所で警戒しておきます」
二人の猟師達が警戒する為に出向いた。
リヨウが戻って来た。
「どうだった?」
「確認できたのは、七頭。全て鹿型ですが、大型の雄と他に一頭が雄で周りを警戒しているようです。残りは、雌が五頭です」
「こちらに気づいた様子は?」
「ないです。しかし、こちらの人数では厳しいのでは?」
「すべて狩る必要は無いと思う。何頭か倒せば逃げないか?」
「通常の鹿なら、こちらが仕掛ければ逃げると思いますが・・・。見た目は大きい鹿ですが、魔獣なのでどうなるか」
「そうだな。先程の三頭は、逃げずに向かってきたが・・・。」
「リヨウ、いいか?先程は、雄だけだったが雌が混ざっているなら雄に何かあれば逃げるのでは?」
一人の兵士が質問をする。
「そうなってくれればいいのですが・・・」
「・・・判断できんか。時間も余り無い、気付かれる前に攻めるか。無理そうなら橋まで退避して後続を待って討伐するのでどうだ。逃げるようなら追わずに南門の周囲を抑える」
「・・・そうですね。槍殿の考えでいいのでは」
「よし!みんなもそれでいいか?」
兵士達にも確認し、了解を得たので魔獣の居る場所に皆で慎重に向かう。
途中、リヨウの代りに残っていた猟師とも合流し、再度の確認をおこなった。
幸い、風向きの影響もあってこちらの接近に気付かれていない。
「みんな、まず雄を狙う。でかいのは任せた、無理せず気を逸らすようにしてくれればいい。猟師の皆も、とにかく近づかないように牽制してくれ」
「「「わかりました」」」
皆からの小声での返事を受けて、一気に草むらの中を兵士達と掛け抜ける。頭上で矢が空気を裂く音が鳴る。雄の鹿型魔獣が、そちらに気を取られた隙を突き思い切り槍を突く。
槍は、横を向く頭と首の間に突き刺さる。さらに、怯む相手の前足の付け根を狙って槍を穿ち動きを封じる様に槍を繰り出す。
視界の隅に、大きい雄を兵士達が囲んで攻めているのが映る。さらに、何本もの矢が雄だけでなく、雌にも頻繁に打ち込まれている。
私の対面している雄が不意に大きく後ろに下がる。突撃を仕掛けてくるのを警戒するが、体を返して森に向かって逃げようとする。釣られる様に、弓矢の攻撃で前に出られなかった雌が同じく森に向かおうと体を反転させる。こうなると、大きい個体の雄以外が、全て森の方に駆け出す。
囲まれている大き雄は、邪魔な兵士達を蹴散らそうと、角や足を使って攻撃をする。
この雄も逃げ出すのではと、兵士達が囲みを緩めるようとしたが、魔獣は少し距離が取れたのを機会と捉えて突進を繰り出す。これには、二名の兵士が避けきれずに吹き飛ばされる。さらに、回り込んで他の兵士達にも突撃を繰り出そうとしたので、手に持つ槍を振りかぶり投げ槍の要領で突撃を開始しようとした鹿型に投げ放つ。投げた槍は、当たりこそしなかったが、今にも踏み出そうとした足元に突き刺さった事で怯みを生み出し、時間を稼ぐ頃が出来た。そこに、猟師達の幾本もの矢が降り注ぐ。
鞘から長剣を抜き、走り近づきながら振りかぶる。相手が再度突撃を出そうとする前に、側面から胴体を切り裂く。さらに、槍を持つ兵が繰り出した切っ先が片目に突き刺さる。この一撃で、動きが取れなくなった鹿型を、さらに戦鎚が頭部を狙って振り下ろされた。
大きな鹿型の魔獣は、そのまま前のめりに崩れ落ちて動かなくなったが、しばらくは警戒して遠まわしに槍等で突いて本当に倒したのかを確かめようとした。最後は、近づいてきた猟師に確認を取ってもらい、やっと終わったのだと皆が自覚する事が出来たのだった。
体当たりを受け吹き飛ばされた兵士達も酷い打ち身はあるものの、かろうじて大事に至ることもなく、仲間に担がれて倒した鹿型の魔獣の死骸と共に、皆と共に南門の前まで退避することが出来た。
猟師達が警戒していた、逃げた魔獣についても、再度襲ってくることも無く、一区切りをつける事になった。後は、皆で後続を待つだけでだ。
読んで下さり本当にありがとう御座います。作者の済と申します。
誤字脱字等が有りましたらご指摘していただくと助かります。
これからもよろしくお願いします。




