15.警戒
本日、二話投稿の二話目です。
前方を警戒していた一部隊が急ぎ戻ってきたようだ。
「済まない!こちらも襲われたと伝令が来たが?」
「問題ない。ラグ達が警戒に出た後で襲って来ましたが、こちらは魔獣じゃなく普通の猪の群れでした」
「ザク!被害は?」
「無いです。数が少し多かったくらいで、こちらに被害は出ていない。ナダ老が早く気づいてくれたお陰で、直ぐに対処できました」
「そうか」
「そちらは大丈夫だったのか?狼の魔獣だと報告がありましたが」
「こちらも大丈夫だ。追い払ったが、森の中までは追撃しなかった」
「そうですね。無理して森に入る必要は無いだろうなと私も思いますね」
「ところで、何人か人を借りたいんだが?」
「どうしました?」
「いや、こちらが襲撃されてると聞いて、担いでいた魔獣の死骸を途中で置いて来たんだ。回収できるならしておきたい。私も一緒に行って案内する」
「確かに勿体無いな。何人か人を出しましょう。ラグが声を掛けて連れて行って下さい」
「済まない。それと、近くの川で解体するから少し時間が欲しいんだが」
「わかりました。今、仕留めた猪の解体をナダ老を中心になってしているから、丁度良かったんじゃないかな」
「そうか。じゃあ何人か声かけて警戒部隊と回収してくる」
「ああ。ラグは残ってもらえますか?少し相談が・・・」
「わかった。ちょっと待っててくれ。警戒部隊に指示をしたら戻って来る」
そう言って、ラグは槍を担いで部隊に戻って行った。さて、彼が戻るまでに考えをまとめておこう。
警戒部隊と他の数人に獲物の魔獣を回収を頼み、馬車列の前で地図を広げているザクの元に行く。
「待たせたか?」
「いえ。丁度考えをまとめる為の良い時間になりましたよ」
「そうか?・・・それで、今日の野営の事かな?」
「はい。先に他の者にも話を聞いていたのですが、早いですがこの辺で野営をするのも有りかなと」
「確かに、水場も在るか・・・。どうだろう、もう少し先にある丘の麓まで行っては?あそこでも、川に近いし夜間は一部隊を丘から警戒させればいいのでは?あそこの丘は、見通しも良いし」
「丘までなら、それほど時間は掛からないか・・・。そうですね、じゃあ丘の麓にしましょうか。それでは、準備できしだいラグは警戒部隊と先行して下さい」
「了解した。麓の野営準備は任せてもいいか?丘の方も一応確認しておきたい」
「わかりました。・・・ラグあまり無理はしない様お願いします」
「ああ。ここまで来たんだ、無理して危険な目に会うのも、合わせるのも本意じゃあない。そこは、慎重にするよ」
「頼みます」
ザクに釘を刺されたかな?自覚は無かったが村が近づいて、焦るようなところが見えたのかも知れない。
この先の丘を越えれば、故郷の村の跡まで数日だ。丘に上がれば、手の届く位に見える。
やはり、逸っていたのかも知れないな。村に近づけば、それだけ魔獣が多く生息する森に近づくことになる。気を引き締めないと、皆を危険にさらす事になりかねない。
先行する予定の警戒部隊と合流し、野営の場所と丘に上がっての警戒の話を付けて出発する旨を伝える。皆にも魔獣へのいっそうの注意を促して出発した。
揺らめく松明の灯りと目の前にある焚き火の炎で、更けてきた夜でもまだ明るく感じられる。
自分の夜番まで少し時間があったので、晩飯で残ったスープを温めなをしていた。
「ラグ、早いですね」
「ああ。早く目が覚めたので、こうして晩飯の残りを温め直しているところだ。ザクの方はいいのか?」
「こちらは今交代したところです。姿が見えたので・・・。ご一緒しても?」
「かまわないよ。スープも温まってきたから飲むか?」
「貰いましょう。この辺の夜は、まだ寒いですね」
「そうだな。昼はいいが、やはり陽が陰るとここが街より北なのだと思うよ」
「数日北上するだけで違うものですね」
「ザクは開拓村の跡地に来た事は無かったか?」
「何度か・・・騎士になってから二回、夏でしたね。どちらも」
「そうか。まあ、夏は普通に大変だったろう?」
「それはもう、鎧に武具に荷物と装備しての移動ですから。あと、街道といっても草は生い茂っていましたしね」
「年に二回の調査と言う名の野営訓練だからな。それ以外じゃあ、この道を使くことなんて無いしな」
「そういう事だと、まだ道が悪くなる前なのが救いだったと」
「そう思う。だが、これからの事を思うと街道も整備しないといけなくなるな」
「今回の移動で、少しは道も踏み固められればいいのですが・・・。将来、商人を呼ぶ事を思うと、やはり悪路は嫌がるでしょうし」
「あと、伝令や軍の移動を考えて少しでも改善できれば。村に何か有った時の事を思うと・・・」
「そうですね。村側からだけじゃなく、砦側からも改善する事が理想ですが」
「おそらく、辺境伯もその辺は考えておられると思うんだが。早目にカルミア様に話しておいた方がいいかもな」
「ええ。・・・ところで、昼間は余計な事を言って済みませんでした」
「”無理をしない”の話だろう」
「はい。余計な事だとは思ったのですが、少し逸っている様に感じたので念の為に」
「いや、良かったと思う。自分では普段道理だと思っていたが、今思うと少し焦れたところはあったと思う。あそこで言ってくれたおかげで、自分を見直す事が出来たと思う」
「そう言ってもらえると良かったです。今、ちょっとしたことでラグに何かあっては堪りませんから」
「みんなに心配かけたかな?」
「大丈夫でしょう。気付いたのは私ぐらいでしょうし。違和感位は感じたかもしれませんが」
「そうであれば・・・いいんだが。やはり、村が近づくと自分が思っている以上に負担になっているのかも知れないな」
「それは、仕方がないでしょう。騎士団の皆は知っている事ですから、開拓村と貴方の話は。だからと言って、何かあってからでは遅いので、申し訳ないですがあそこで言わせて貰いました」
「さっきも言ったが、ザクに言って貰って助かったと思うよ」
「さて、スープも飲み終えましたし、私は休みます」
「そうか、私はもう少しここで温まってから行くよ」
「それじゃあ」
「ああ」
ザクが休む為に、自分に宛がわれた場所ぬ歩いて行く。
自分は、焚き火を手に持った枝で軽く混ぜる。パチパチと爆ぜる音を聞きながら残りのスープを口にする。少し冷めたが、昼に捕らえた猪の肉を上手く調理されていて臭みも余り無い。騎士団で野営を続けていると、こうした手の込んだ食事は難しい。そういう意味でも猟師達がいてくれて助かるものだと意外な事に感心する。
さて。温まったし腹も良い感じに満たされたので、少し早いが自分の持ち場の夜番に向かう事にするか。
「まだ早いですがいいんですか?」
「十分休めたからな、交代しよう。それで、ナダ老は?」
「気配があったそうで、確認に行かれました」
「一人で?」
「自分が付いていくと、足手まといになりますから」
開拓村の少ない生き残りだった若い鍛冶屋のローが立ち上がり、体を伸ばしながら答える。
「どうだ、旅の野営なんか経験がないだろうが、疲れてきているんじゃないか?」
「流石に慣れてきましたよ。鍛冶の仕事でも、場合によっては徹夜なんてのは有りますから。少し寝れば直ぐに戻りますよ。それよりナダ老は、歳を召しているのに凄いですね。今も、獣の気配を察してすぐに様子を見に行きましたから」
「それで、ナダ老が出てどれくらい経った?」
「まだ、それ程経っていませんよ。心配ですか?」
「元気だと言ってもお歳だからな。無理をしていなければいいが」
ローと話をしていると、近くの茂みから当の本人が出てきた。
「あまり年寄扱いをするな。まだ、足腰は若い奴に負けんよ」
「そうは言いましても?」
「槍殿は心配しすぎじゃ。ほれ」
ナダ老が手に持った大きい兎を投げて寄越す。
「ロー、野営地に戻るなら、こいつを持ていってくれ。夜番してる猟師に渡してくれ。処理してくれるだろう」
「わかりました。じゃあ、自分は野営地に戻ります」
「特に気配は感じないが、気を付けて戻れよ。槍殿は、早かったな」
ローが一礼をして戻っていく後姿を見ながら、ナダ老に答える。
「ええ。早く目が覚めたので・・・」
「そうか。・・・まあ無理はせんことじゃ。いくら槍殿でも足を掬われる事もあろう。気を付ける事じゃ」
「・・・そうですね。気をつけましょう」
ナダ老と共にする夜番が始まった。




