12. 先生
本日、二話投稿の一話目です。
「よく来て下さいました。どうぞ、こちらにお座り下さい」
「まあ、まあ、申し訳ございませんねぇ。それじゃあ、遠慮なく」
難民の中で魔術を教える事の出来る方を探してもらい、見つかったのが目の前の椅子に腰かけた老女で、今日は砦の執務室を借りて話をする為に来てもらった。
「わたしが村の代表になる、カルミア・ファーンです。今日は、宜しくお願いします。それで、話は聞いておられると思うのですが?如何でしょうか」
「ええ、ええ。お話は伺っておりますが・・・。ああ、そうそう、ご挨拶がまだでしたねダリアと申します。すいませんねぇ、歳を取るといろいろと忘れがちで。それで、私で良いのでしょうか?歳も召してますし、御存知かと思いますが、魔力の減衰もありますから碌に魔術の使用も出来ませんが?」
「はい、報告は受けています。確かに魔術の使用も必要なのですが・・・。今、特に重要なのはダリア殿の魔法に対しての見識であり、教育ができるかという事なので。如何でしょうか?」
「そう言う事であれば、お受けするのは構いませんが・・・。ただ、魔術を教えるなら、子供の内からでないと中々難しいというのが通説ですし、誰か目処が付いているのでしょうか?私は、教える事は出来ますが、魔力の見極めはあまり得意ではないので・・・」
「実は、もう一人魔術師の目処が付いているのですが、そちらの方が見極める力をお持ちの様なのでお願いしようと思っています」
「では、私の出番はないのでは?」
「それがーですね、辺境伯家に仕えていた方の弟子なのですが。どうやら、まだ若い方のようで教える方は経験がないと。わたしとしては、お二人に役割を分担してただければと考えているのです」
「そうですか。そういう事であれば、お受けいたします。それで、その魔術師の方はいつ頃こちらに来られるのかしら?」
「確か、昨日にも着く予定だと文を頂いていたのですが、少し遅れているようですね」
「では、子細を詰めるのはその方が到着してからですね」
話がまとまり、ダリア殿とお茶をしながら語らっていると、薬草や毒草などの種類や採取についても良く知る方だということが明らかになった。これらの事を教えていただけるだけでも、開拓村の生活を大変助ける物になるだろ。良い方と知り合えたと思う。
そうこうしていると、騎士イーノが執務室に訪れた。遅れていた魔術師が到着したとの事だった。
「丁度いいですね。荷を降ろしたら、こちらに来ていただける様にして下さい。挨拶と紹介したい方も居られますし」
「わかりました。それでは、使いの者を派遣します」
イーノにも残ってもらい、このまま魔術師を待つことになった。
暫くすると、扉の外から来訪者が到着したと声を掛けられたので、室内に入ってもらうように伝える。
わたしより少し上の歳と思われる女性とその後ろに見知った方が続いて入って来た。
「先生!先生まで来られたのですか?」
「ええ。この子は、いい歳になったのに相変わらず人見知りなんだから!ほら、皆さんに挨拶しなさい」
先生は、そう言って若い女性に促しながら、室内を渡しダリア殿の所で少し目を止めて怪訝そうな顔をしている。
「先生。こちらの方は、避難民として開拓村に一緒に行くことになるダリア殿で、魔術が使えたという事で素質のある子供に魔術を教えていただこうとお呼びした方です」
「・・・そうなのね。それで、ほら、はやく挨拶しなさい!」
先生は、ダリア殿の事を納得したのか、女性に挨拶の催促をしている。少しためらいながら、こちらに向かう。
「・・・はい。ええ、ヒナと申します」
「カルミア様、申し訳ありません。この子、魔術師としては何所に出しても間違いないのですが・・・、少し奥手なもので。ほんと、念の為に付いて来てよかったわ」
「大丈夫ですよ。ヒナさん、わたしが開拓村の代表になるカルミア・ファーンです。これから、よろしくお願いしますね。それと、先程も紹介しましたが、こちらに居られるのがダリア殿です。詳しくは後ほど話しますが、ダリア殿とヒナ殿のお二人に開拓村の魔術関係、それと魔法の素質がある者への教育をお願いしたいと思っています」
「ヒナ殿。ダリアと申しますこれから宜しくお願いしますね・・・。それと、そちらの方はヒナ殿のお師匠様かしら?」
「・・・はい。ロアナと申します。この子の、師匠をいたしております」
「先生、ヒナ殿。紹介も終わりましたしお疲れでしょうからお休みになられますか?出来れば早めに開拓村の事についてお話しておきたいのですが・・・」
「そうですね。カルミア様、よろしければヒナを連れて、紹介がてら皆さんの元に連れていってもらえないでしょうか?私は、ダリア殿と魔術の教育についてとヒナの事で、こちらでお話をしていますから」
「・・・そうですか。皆さんがそれでよろしければ。ヒナ殿もよろしいですか?」
「カルミア様・・・。私は、問題ありません」
「では、行きましょうか」
そう言って、わたしとイーノ、それにヒナ殿は連れ立って砦の外にある仮設の難民村に行くことにした。部屋には、先生とダリア殿が残ることになった。
ヒナは、少し不安そうな素振りを見せながらもカルミア様に付いて出て行った。執務室の扉を騎士が閉じて少し間を取る。
「で、ダリア先生!如何いう事ですか?こんな所で。魔術学校からご主人と退去した話は伺っておりましたが。」
目の前に居る老女は、その目にかつての妖しさを宿しこちらを見返してくる。
「まさか、あなたと会うとは思わなかったわ。そうそう、旦那は亡くなったわ。老衰よ」
「そうでしたか。でも、先生はご子息が魔法学園で講師を勤めているとお聞きしましたが?そちらに避難されなかったのですか」
「王都から手紙は出したわ。生きてるって報告。前の村の人たちには、それなりに親切にして貰っていたからね、助けられるのなら助けてあげたいじゃないの」
「先生って、そんな方でしたかしら?なにか他に理由が有るんじゃないですか」
「そうね。昔ならそんな事思わなかったかもね。旦那が亡くなったのもあるけど、自分自身魔力の減衰を経験してから変わったかもしれないわね」
「魔力の減衰ですか。歳を取るとなりやすいと言いますが。それだけで、変わるものですか?」
「そうね、こればかりは経験してみないと分からないのかもね。それまで自分が信じていた力が失われていく感覚、無力感に苛まれるのは魔術師として生きてきた身としては、魔力を失う事を自らに納得させるには意外と時間が掛かったものよ。ちなみに、旦那は亡くなるまで減衰の兆しすらなかったわ」
「そうですか・・・。私にも理解できる日が来るのでしょうか?ところで、先生はこれから如何されるのですか。先生の経歴なら魔力を無くしていても辺境伯に仕える事は可能でしょうし。逆に辺境伯もそれを希望されるのでは?私から、出仕について述べる事もできますが・・・」
「あら。貴方からそのように言ってもらえるとは思わなかったけれど・・・。やはり、村の皆を放っておけないし。今さら、宮仕えしたいと思う様な歳でもないしね。貴方には悪いけれど」
「いいえ、かまいませんわ。実を言うと、私としては先生にこのままカルミア様の下で、開拓村の事業を手伝ってもらえる方が助かるのですよ」
「それは如何いう意味?・・・ああ、貴方が連れて来たヒナさんに関係することかしら」
「ええ。ここで、先生にお会いできたのも精霊様が縁を結んでくださったからかも知れません」
「何かしら?貴方にしては珍しく余裕の無い言い方ね。・・・あの子、何か表ざたに出来ない話があるのね」
「はい。今迄の話と、かつて魔術の研究者でもあった先生になら、打ち明けてもいいかと」
「待って。それは、今ここで話しても大丈夫な事なの?」
「今、話しておかないと後に知られておかしな方向に話がいっても困りますから」
「・・・そう。そういう事なら、話してちょうだい。でも、今の私に出来ることは限られているわ。そこは承知して」
私は、かつて自分が師事していた老女にあの娘との出会いから話ていった。




