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24.糸に触れる者は一人じゃない

「“糸”、視えるか?」


ミオは慌てて魔力の流れを整えた。


現在、ミオは投影体と感覚共有をされているらしい。

身体は変わらず寮の自室にいるはずなのに、視覚や聴覚、嗅覚あらゆる感覚は異なる場所にあるのだ。

どうなっているのかは全く分からないが、正直、かなり気持ちが悪い。



目の前に白い光の線が広がった。


(結ばれてる…)


アンナに視線を向けると、すぐに目に入ってきた七つの大雑把な固結び。

初めて見る糸の状態に、一瞬、状況が飲み込めなかった。


七本。

どれも、不自然に結び替えられている。


「…視えた」

「けど、なんかアンナから伸びてる糸が…一回切られて、別の糸と結ばれてるみたい」


(明らかに、誰かが、意図して“結び替えた”)


「私以外にも糸に触れる人がいるのかな」


ルイは何も言わず、静かな空気が流れる。

だが、醜いうめき声とガリガリ、と壁を削るような音がその空気を壊した。


光に拘束された魔物が暴れている。


不自然に結び替えられている七本のうち一本は、魔物とアンナを繋いでいた。


(なんか、あの魔物の魔力の流れ変な感じがする…)


明らかに異質な魔力が体内に存在し、それを全身に広げるような動きをしている。


(誰か中にいる!?)


「アンナとあの魔物の中にいる人が、結び替えられた糸で繋がってる」


(それに…)


ミオは初対面の男子生徒――ナトリを見た。

彼のアラベスク模様の袖口からもアンナと繋がる、結び目のついた糸が伸びている。


「あと、先輩も。でも、私とルイ君と繋がってる糸に結び目はないみたい」


「糸って、なんだべ」とナトリが声をあげた。ミオはなんと説明すべきかと悩んだが、ルイが彼の声を無視して話を進める。


「一度切られて、結び直されてる糸は何本だ?」

「七本」

「…糸は一対一の関係だって言ったよな?」

「あ、うん」


ルイは何かを理解したような顔をした。

すぐに、ナトリに視線を移して問いかける。


「確か、任務は八人でしたよね?」

「あぁ」

「…アンナを中心に考えると、他の七人と繋がる“糸”があるはず」


ルイがミオの視線を戻した。

ハニーブラウンの瞳が真っすぐと射貫く。


「今、等価交換が本来の交換対象と入れ替わらないという事象が起きてる。別の糸に結ばれてるものを元に戻せるか?」


結び替えられた糸なんて初めて見たから、分からない。


だが、これまでミオが見た糸の動きを思い返す。

いつも、自らが繋がる先を知っているかのように、ひとりでに伸びていた。


(全部、解けば自分で元に戻ってくれるんじゃ…)

(でも、想定通りにいかなかったら?)


考えがまとまらない。

先日、今にも切れかけそうなエリオの糸を握って、書き換えた時。

分かってしまったのだ。

“糸”には人の生死をも操作する力がある、と。


答えを出せずにいると、ルイのハニーブラウンの瞳と目が合った。


(ルイ君が私を頼ろうとしている)


強くて、何でも一人で出来そうな彼。

だが、今、アンナの異能の異常を治せるのも、魔物の中にいる人を助け出すことも私にしか出来ないのかもしれない。


(怖い…でも)


「やる」


ルイは頷くと、アンナにミオの投影体に近づくように促した。


目の前に立ったアンナは珍しく、不安げな表情を浮かべていた。


異能は先天的な才能。


(そっか…ずっと一緒だったものが使えなくなるのは怖いよね)


「大丈夫だよ。元通りにするから」


自然と口にしていた。

まだ、等価交換の異常と結ばれた糸に因果関係があるのかも分からないのに。


手を伸ばし、まずは一本。


だが、思うように身体が動かない。


「あ、ああの、腕が思うように動かないんだけど」

「もっと、腕だけに感覚を集中させろ」


感覚共有された投影体を動かすには、慣れが必要なようだ。


二度、手は空を切って、

三度目で一本の糸を掴んだ。


(熱い…)


何度触れても慣れない、手を貫く刺激に、今は安心する。


糸を手繰り寄せ、結び目を手元に寄せる。

近くで見ると、やはり元は異なる糸同士を無理やり結んでいることが分かる。


指先が結び目に触れた瞬間、

いつもと違う感覚が走った。


映像のようなものが、頭の中に流れ込んでくる。


骨ばった指が、糸を断ち、

別の糸を引き寄せ、無理やり結び付ける。


『新しい関係を繋ぎなおせ』


冷たい男の声。


それは、今ここで発せられたものではない。


(これ…この糸が、書き換えられた時の?)


ミオは結び目の芯を探った。

爪を立てて、指を差し込もうとするが弾かれる。


(硬い!)


もう一度、差し込み力を加えると、微かに緩んだ気がした。


しかし―


固く閉じられた中心で、二本の糸は撚り合わさり、境界が消えようとしていた。


(飲み込まれて…一本になる!)


僅かに緩んだ隙間に指先を差し込み、じりじりと、引き離すように力を加える。


「あるべき場所に戻れ」


その瞬間。


固まっていた結び目にグッ、と指先が入り込む。

弾けた。

ほどけた糸は繋がる先を求めるように、ゆっくりと動き出す。


その時、これまでに感じたことのない感覚がした。


(見られてる)


視線が、絡みつく。

ぞわりと、背筋が粟立った。

結び目を作った骨ばった指の持ち主は、ミオのしたことに気づいたようだ。


(けど、今は目の前のことが先)


ミオは次の一本をほどくべく、別の糸を手繰り寄せた。



四本の結び目をほどいたタイミングで、二本の糸が自身の片割れを見つけたかのように繋がった。継ぎ接ぎされていない、見慣れた一本の光の糸。


「上手くいきそう!あと半分」


顔を上げ、アンナに言う。

強張った彼女の顔が、ほんの少しだけ緩んだ。


最後の一本が、ほどける。

遅れて、七本全てがあるべき姿に戻った。


「…終わった」


ミオの声は、他人が気づかない程度ではあるが震えていた。


視界が、ぐらりと傾いた。

やはり、糸を操作すると耳鳴りがするようだ。

七本、全てをほどいた頃には、ミオの額には冷や汗が浮かんでいた。


(ちゃんと、やりきらなきゃ)


「…等価交換、してみましょうか」


ルイの声に、ミオは固唾を飲んで、様子を見守る。


ナトリが指を鳴らした。

すると、ナトリの隣に、彼が作り出した人形―小柄で可愛らしい雰囲気の男子生徒が現れた。


(誰だろう…)


パン、パン。


乾いた音が二度鳴った瞬間。

小柄な男子生徒が、急に魂を失ったようにその場に倒れ込んだ。


「ちょっ、大丈夫!?」


ミオは慌てたが、アンナ達は安堵の表情を浮かべている。


男子生徒の隣で、彼を支えるナトリが笑みを浮かべながら言った。


「大丈夫!気を失ってるだけみたいだ」


よく見ると、気を失った彼の指には糸が繋がっている。


(そっか…彼が魔物に取り込まれていたのね)


「良かった…」


ミオは小さく呟いた。

気が抜けると同時に、視界が大きく歪み始めた。


(やばい…)


「助かった。…お前、体調悪そうだ。ゆっくり休めよ」


視界が真っ暗になる直前、ルイの穏やかな声が聞こえた。


身体が傾き、バフッ、と音を立てて柔らかい布団に包まれる。

どうやら、自室のベッドに倒れこんだようだ。


(アンナの異能、使えるようになったみたいで良かった)







ミオの投影体が消えた途端、ルイは魔物に向けてアメジスト色の光を放った。

光は空気を切り裂き、真っ直ぐ伸びると、魔物の額に命中した。


「グゥワァァ」


魔物は拘束されたまま醜いうめき声をあげたが、そのまま紫の靄となり、消えた。


(終わった…)


アンナは深く息を吐きだした。

目線だけルイの方向に移せば、彼は息も乱さず、何事もなかったような顔をしていた。


(あぁ、嫌だ)

(やっばり、私は…)


――魔力量が多いだけの出来損ない


自分の立ち位置を改めて認識させられる。


「じゃあ、帰るべ!」


ナトリが、気を失った男子生徒を背負い明るい声で言った。

彼はアンナの隣に来ると、ポンと肩に手を置いた。


察しの良い彼のことだ、アンナの感情に気づいているのかもしれない。


トンネルの出口に向かって歩いている途中、ルイが言った。


「等価交換の異常については、魔物の仕業だったということにしましょう」


(なるほどね…謹慎中のミオが関わったなんて知られたら、どうなることやら)


それに、魔物は全て討伐した。証拠は何も残っていない。


「分かったわ」


ナトリも「変なことに巻き込まれたなぁ」と小さく笑いながらも、頷いた。


「ところで…“糸”が何者かによって干渉されていたようだけど、心当たりは?」


アンナは首を横に振った。

学園からここに来るまで、特に怪しい人物と接触した記憶はない。


(ミオと同じ異能を持っている人物…)


ミオの異能が引き起こす現象は、魔法の原理を超えているような一面がある。

そんな能力を持っている人間が彼女以外にもいることに、胸がざわめく。


(そして、なぜか私の異能を狙った)


突然、ナトリの「あ!」と言う大きな声が響き、肩を揺らす。


「その、糸?って、よく知らないけど。新幹線で不思議な人間は一人いたな」


ナトリは軽く跳ねて、男子生徒を背負い直すと、今朝の様子を思い出しているのかゆっくりと言葉を続けた。


「朝早くてさ、すげぇ空いてるのに、わざわざ俺たちの近くに座ってきてさ。…なんか、ずっとこっちを見てた気がするんだよな」

「どんな容姿でした?」

「多分、男だったけど。車内でもずっと帽子被ってたから、顔とか見えなかったな」


ナトリはよく周りを見ているな、と思わず感心する。


「なるほど。確かに、公共交通機関を使ったなら、接触されていてもおかしくないですね」

「“糸”、視えるか?」


ミオは慌てて魔力の流れを整えた。


現在、ミオは投影体と感覚共有をされているらしい。

身体は変わらず寮の自室にいるはずなのに、視覚や聴覚、嗅覚あらゆる感覚は異なる場所にあるのだ。

どうなっているのかは全く分からないが、正直、かなり気持ちが悪い。



目の前に白い光の線が広がった。


(結ばれてる…)


アンナに視線を向けると、すぐに目に入ってきた七つの大雑把な固結び。

初めて見る糸の状態に、一瞬、状況が飲み込めなかった。


七本。

どれも、不自然に結び替えられている。


「…視えた」

「けど、なんかアンナから伸びてる糸が…一回切られて、別の糸と結ばれてるみたい」


(明らかに、誰かが、意図して“結び替えた”)


「私以外にも糸に触れる人がいるのかな」


ルイは何も言わず、静かな空気が流れる。

だが、醜いうめき声とガリガリ、と壁を削るような音がその空気を壊した。


光に拘束された魔物が暴れている。


不自然に結び替えられている七本のうち一本は、魔物とアンナを繋いでいた。


(なんか、あの魔物の魔力の流れ変な感じがする…)


明らかに異質な魔力が体内に存在し、それを全身に広げるような動きをしている。


(誰か中にいる!?)


「アンナとあの魔物の中にいる人が、結び替えられた糸で繋がってる」


(それに…)


ミオは初対面の男子生徒――ナトリを見た。

彼のアラベスク模様の袖口からもアンナと繋がる、結び目のついた糸が伸びている。


「あと、先輩も。でも、私とルイ君と繋がってる糸に結び目はないみたい」


「糸って、なんだべ」とナトリが声をあげた。ミオはなんと説明すべきかと悩んだが、ルイが彼の声を無視して話を進める。


「一度切られて、結び直されてる糸は何本だ?」

「七本」

「…糸は一対一の関係だって言ったよな?」

「あ、うん」


ルイは何かを理解したような顔をした。

すぐに、ナトリに視線を移して問いかける。


「確か、任務は八人でしたよね?」

「あぁ」

「…アンナを中心に考えると、他の七人と繋がる“糸”があるはず」


ルイがミオの視線を戻した。

ハニーブラウンの瞳が真っすぐと射貫く。


「今、等価交換が本来の交換対象と入れ替わらないという事象が起きてる。別の糸に結ばれてるものを元に戻せるか?」


結び替えられた糸なんて初めて見たから、分からない。


だが、これまでミオが見た糸の動きを思い返す。

いつも、自らが繋がる先を知っているかのように、ひとりでに伸びていた。


(全部、解けば自分で元に戻ってくれるんじゃ…)

(でも、想定通りにいかなかったら?)


考えがまとまらない。

先日、今にも切れかけそうなエリオの糸を握って、書き換えた時。

分かってしまったのだ。

“糸”には人の生死をも操作する力がある、と。


答えを出せずにいると、ルイのハニーブラウンの瞳と目が合った。


(ルイ君が私を頼ろうとしている)


強くて、何でも一人で出来そうな彼。

だが、今、アンナの異能の異常を治せるのも、魔物の中にいる人を助け出すことも私にしか出来ないのかもしれない。


(怖い…でも)


「やる」


ルイは頷くと、アンナにミオの投影体に近づくように促した。


目の前に立ったアンナは珍しく、不安げな表情を浮かべていた。


異能は先天的な才能。


(そっか…ずっと一緒だったものが使えなくなるのは怖いよね)


「大丈夫だよ。元通りにするから」


自然と口にしていた。

まだ、等価交換の異常と結ばれた糸に因果関係があるのかも分からないのに。


手を伸ばし、まずは一本。


だが、思うように身体が動かない。


「あ、ああの、腕が思うように動かないんだけど」

「もっと、腕だけに感覚を集中させろ」


感覚共有された投影体を動かすには、慣れが必要なようだ。


二度、手は空を切って、

三度目で一本の糸を掴んだ。


(熱い…)


何度触れても慣れない、手を貫く刺激に、今は安心する。


糸を手繰り寄せ、結び目を手元に寄せる。

近くで見ると、やはり元は異なる糸同士を無理やり結んでいることが分かる。


指先が結び目に触れた瞬間、

いつもと違う感覚が走った。


映像のようなものが、頭の中に流れ込んでくる。


骨ばった指が、糸を断ち、

別の糸を引き寄せ、無理やり結び付ける。


『新しい関係を繋ぎなおせ』


冷たい男の声。


それは、今ここで発せられたものではない。


(これ…この糸が、書き換えられた時の記憶?)


ミオは結び目の芯を探った。

爪を立てて、指を差し込もうとするが弾かれる。


(硬い!)


もう一度、差し込み力を加えると、微かに緩んだ気がした。


しかし―


固く閉じられた中心で、二本の糸は撚り合わさり、境界が消えようとしていた。


(飲み込まれて…一本になる!)


僅かに緩んだ隙間に指先を差し込み、じりじりと、引き離すように力を加える。


「あるべき場所に戻れ」


その瞬間。


固まっていた結び目にグッ、と指先が入り込む。

弾けた。

ほどけた糸は繋がる先を求めるように、ゆっくりと動き出す。


その時、これまでに感じたことのない感覚がした。


(見られてる)


視線が、絡みつく。

ぞわりと、背筋が粟立った。

結び目を作った骨ばった指の持ち主は、ミオのしたことに気づいたようだ。


(けど、今は目の前のことが先)


ミオは次の一本をほどくべく、別の糸を手繰り寄せた。



四本の結び目をほどいたタイミングで、二本の糸が自身の片割れを見つけたかのように繋がった。継ぎ接ぎされていない、見慣れた一本の光の糸。


「上手くいきそう!あと半分」


顔を上げ、アンナに言う。

強張った彼女の顔が、ほんの少しだけ緩んだ。


最後の一本が、ほどける。

遅れて、七本全てがあるべき姿に戻った。


「…終わった」


ミオの声は、他人が気づかない程度ではあるが震えていた。


視界が、ぐらりと傾いた。

やはり、糸を操作すると耳鳴りがするようだ。

七本、全てをほどいた頃には、ミオの額には冷や汗が浮かんでいた。


(ちゃんと、やりきらなきゃ)


「…等価交換、してみましょうか」


ルイの声に、ミオは固唾を飲んで、様子を見守る。


ナトリが指を鳴らした。

すると、ナトリの隣に、彼が作り出した人形―小柄で可愛らしい雰囲気の男子生徒が現れた。


(誰だろう…)


パン、パン。


乾いた音が二度鳴った瞬間。

小柄な男子生徒が、急に魂を失ったようにその場に倒れ込んだ。


「ちょっ、大丈夫!?」


ミオは慌てたが、アンナ達は安堵の表情を浮かべている。


男子生徒の隣で、彼を支えるナトリが笑みを浮かべながら言った。


「大丈夫!気を失ってるだけみたいだ」


よく見ると、気を失った彼の指には糸が繋がっている。


(そっか…彼が魔物に取り込まれていたのね)


「良かった…」


ミオは小さく呟いた。

気が抜けると同時に、視界が大きく歪み始めた。


(やばい…)


「助かった。…お前、体調悪そうだ。ゆっくり休めよ」


視界が真っ暗になる直前、ルイの穏やかな声が聞こえた。


身体が傾き、バフッ、と音を立てて柔らかい布団に包まれる。

どうやら、自室のベッドに倒れこんだようだ。


(アンナの異能、使えるようになったみたいで良かった)







ミオの投影体が消えた途端、ルイは魔物に向けてアメジスト色の光を放った。

光は空気を切り裂き、真っ直ぐ伸びると、魔物の額に命中した。


「グゥワァァ」


魔物は拘束されたまま醜いうめき声をあげたが、そのまま紫の靄となり、消えた。


(終わった…)


アンナは深く息を吐きだした。

目線だけルイの方向に移せば、彼は息も乱さず、何事もなかったような顔をしていた。


(あぁ、嫌だ)

(やっばり、私は…)


――魔力量が多いだけの出来損ない


自分の立ち位置を改めて認識させられる。


「じゃあ、帰るべ!」


ナトリが、気を失った男子生徒を背負い明るい声で言った。

彼はアンナの隣に来ると、ポンと肩に手を置いた。


察しの良い彼のことだ、アンナの感情に気づいているのかもしれない。


トンネルの出口に向かって歩いている途中、ルイが言った。


「等価交換の異常については、魔物の仕業だったということにしましょう」


(なるほどね…謹慎中のミオが関わったなんて知られたら、どうなることやら)


それに、魔物は全て討伐した。証拠は何も残っていない。


「分かったわ」


ナトリも「変なことに巻き込まれたなぁ」と小さく笑いながらも、頷いた。


「ところで…“糸”が何者かによって干渉されていたようだけど、心当たりは?」


アンナは首を横に振った。

学園からここに来るまで、特に怪しい人物と接触した記憶はない。


(ミオと同じ異能を持っている人物…)


ミオの異能が引き起こす現象は、魔法の原理を超えているような一面がある。

そんな能力を持っている人間が彼女以外にもいることに、胸がざわめく。


(そして、なぜか私の異能を狙った)


突然、ナトリの「あ!」と言う大きな声が響き、肩を揺らす。


「その、糸?って、よく知らないけど。新幹線で不思議な人間は一人いたな」


ナトリは軽く跳ねて、男子生徒を背負い直すと、今朝の様子を思い出しているのかゆっくりと言葉を続けた。


「朝早くてさ、すげぇ空いてるのに、わざわざ俺たちの近くに座ってきてさ。…なんか、ずっとこっちを見てた気がするんだよな」

「どんな容姿でした?」

「多分、男だったけど。車内でもずっと帽子被ってたから、顔とか見えなかったな」


ナトリはよく周りを見ているな、と思わず感心する。


「なるほど。確かに、公共交通機関を使ったなら、接触されていてもおかしくないですね」


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