467 ヘイトはあちらへ
寒中御見舞い申し上げます。
殿からの呼び出し用件も無事に終え、これからまた東野村へ戻る事になる。
万福丸を守っていた木村喜内之介の処遇は気になるが、事はもう俺の手を離れている。
万福丸の遺体が偽物だってバレると不味いが、そこは喜内之介の忠義に期待しよう。
喜内之介も己のやるべき事は分かっているだろう。
最悪、遺体が偽物だってバレても俺が手を貸した事が露見しなければいいんだ。
俺は万福丸が本物かどうか分からないからと、市姫に遺体を確認する様に頼んでいるし、間違いないと言ったのは市姫だし、俺の責任にはならない筈。
万が一を考えて、喜内之介の世話に岸新右衛門を残してあるし、後の事は新右衛門が何とかしてくれるだろう。
そうだ、東野村へ戻る前に宮部城へ寄って、於乱ちゃんの様子を見てこよう。
まあ、於乱ちゃんなら心配する必要も無いだろうけど。
宮部城の城主である宮部継潤は、小谷城攻めに加わっているので当然留守。
代わって城を守るのは、我が愛弟於乱ちゃん(五歳)だ。
当然五歳の於乱ちゃんに城を治める事など出来ないので、その傅役が役目が指示を出すんだけど。
「於乱よ、何ぞ不便はないか?」
「御座いませぬ」
宮部城にて於乱に何か問題はないかと尋ねるが、何も問題ないとの答えが返ってくる。
まあ、この数日で問題なんて出たら大変だけど。
それにしても、幼くして親許から離されて心細かろうに気丈に振る舞う於乱ちゃん、可愛えのう。
流石は森家の知名度担当、ナンバー1アイドルだね!
この後成長して、細マッチョになるのか、ゴリマッチョになるのかは知らんがな。
「この後、誰がこの辺りを治める事になるかは分からぬが、此処に残るお主の働きは、森家にとって大きな物となろう。特に多くの鉄砲鍛冶を抱える国友との仲は重要だ。森家の為にも確りと務めよ」
国友村は、ここ宮部村から姉川の対岸に位置している。
今後の戦を有利に進める為にも、鉄砲の産地である国友との仲は重要だ。
「久兵衛、藤兵衛も確りと於乱を支えてやってくれ」
幼い於乱に大した事は出来ないので、実際に動くのは於乱の傅役であるこの伊集院藤兵衛と宮部家の田中久兵衛(田中吉政)の両名となるだろう。
久兵衛に関しては能力的にも問題ないだろうし心配もしていないが、藤兵衛の方もそう悪くはない筈。
2人にくれぐれも宜しくと念を押して、東野村へと戻る。
東野村へ戻ると、先ずやっておかないといけない事を済ませる。
万福丸の処遇だ。
万福丸を呼び出し、一対一で話す。
「さて、万福丸。お主、これから如何したい?」
「如何したいとは?」
俺の言葉に万福丸は困惑している様だ。
「お主の今後についてだ。無論、近江に残る事は許さぬ。播磨に送る事は覆す事は出来ぬ」
万福丸は、自分に選択の余地など無いと思っていたのだろう。
更に困惑を深めている。
「某に選ばせると?」
まだ六歳の子に将来を選べというのは酷かもしれないが、仕方ない。
「全て叶えてやれる訳ではないがな。浅井家の菩提を弔う為に僧になるも良し、浅井家再興を望み播磨にて雌伏の時を過ごすのも良しだ。或いは人々を救う為に医師を目指したり、商いを学ぶも良しだ。浅井家の旧臣共が居れば、浅井家再興の御輿となるよう迫ってこよう。死んだ事になっておる今ならば、其方の望みは叶えてやれるぞ」
まあ必要なら、例え僧や商人になったとしても、後々武家に戻せば良いだけの話だし。
「…浅井家の再興を」
万福丸は色々迷いながらも、浅井家の再興を望む。
「良いのか?」
「はい」
再度尋ねると、今度は確りと頷く。
「ならば時が訪れるまで、誰にも素性を知られる事無く、浅井家の当主として恥ずかしくないよう、武を磨き学を身につけられるよう精進せよ」
うん、良い事言った!
「時とは何時になりましょうか?」
え?知らんが?
「…大樹に何かあった時であろうな」
「大樹に?」
「此度、其方の父上を救う事が叶わぬのは、己を裏切った備前守殿を赦せぬ、浅井家は一人残らず滅するという大樹の恨みのせいだ。尾張守様も八方手を尽くされたが、大樹の心が変わる事はなかった。それ故、備前守殿は降伏を受け入れる事が出来ず、其方等を逃がし浅井の血を残しつつ、後に其方が御家再興を望んだ時の手助けとなる様に死して名を残す事を選ぶしかなかったのであろうな」
知らんけど。
ヘイトは俺や殿じゃなくて、義昭の方へ宜しく!
万福丸との話し合いも終わった頃、林助蔵(能勝)がやってくる。
面倒臭い報告とかじゃないよね?
「殿、京より知らせに御座います。赤穂より彦五郎様が到着されたとの事に御座います」
あっ…忘れてた…
於乱ちゃんと彦五郎のどちらか早く到着した方を、宮部継潤への人質として差し出す積もりで呼んだんだった。




