466 万福丸殿?
近江国坂田郡堀部村横山城 織田市
小谷城を出て、娘と共に兄の許に身を寄せて数日。
岐阜へ帰るように言われたが、未だこの身は横山城にある。
岐阜へ戻るにも護衛の兵は必要で、流石に直ぐには用意出来ないという事で暫くは横山城で兵が用意出来るまで待機との事。
ですが、岐阜で備前守様の訃報を聞く事になるよりは、良かったのかもしれませぬ。
備前守様には何とか生き延びていただきたいが、恐らく備前守様自身が其れを望んではおられまい。
せめて嫡男の万福丸殿は無事に小谷城を落ち延びられたであろうか?
せめて万福丸殿だけでも御救いする事は出来まいか…
「北の方」
「如何しました、三蔵」
万福丸の身を案じておると、備前守様へ嫁いだ際に随伴し、共に浅井家へ参った藤懸三蔵(吉勝)に呼び掛けられる。
「万福丸様が捕らえられたと…」
何と!万福丸殿が捕らえられたと!?
「真か?」
「敦賀へ逃れようとしたところを、森兵部少輔殿に捕縛されたと」
ああ、御労しや万福丸殿。
しかし、嘆いてばかりはいられませぬ。
「兄の所へ参ります」
最後にもう一度、万福丸殿の助命を御頼みせねば!
兄に目通り願うと、暫くして兄の小姓である大津伝十郎が、妾のみであらばという条件で許しが出たと知らせに来た。
しかし、伝十郎はチラチラと何か言いた気な、如何にも気の毒そうな視線を向けてくる。
伝十郎の痛まし気な表情に何か嫌な予感を覚え、三蔵を残し急ぎ兄の許へと向かう。
「来たか」
兄に促され部屋に入ると、兄の他にも林佐渡守(秀貞)等恐らく織田家の家臣達が幾人かと、兄の対面に見知らぬ若武者、それと童が横になっていた。
「兄上様、これは?」
まさか、あの童は万福丸殿では?
「此処へ向かう途上で、浅井家の木村喜内之介が万福丸を逃がそうとして崖から落ち、万福丸は亡くなったそうだ」
まさか!その様な!
自然と涙が溢れる中、フラフラと万福丸殿に近寄り、その顔を確かめる。
「…!」
万福丸殿?
いや、確かに体の大きさや齢は似ておりますが、万福丸殿とは似つかぬ…別人の様な?
「やはり、於市様を万福丸と会わせるのは酷な話に御座いましたな」
「その様だ。兵部少輔の申す通り、下がっておるか?」
亡骸を見て動揺したのが万福丸の死が原因だと勘違いしたのか、兄や若武者が気にかけてくれるが、内心それどころではない。
何故、見知らぬ童を万福丸殿と思うておるのか?
他の者はいざ知らず、兄は幾度か会うた事もあるのに。
「いえ、申し訳御座いませぬ。大丈夫に御座います」
兄の言葉通り下がっても良かったのですが、状況を見極めようと残る事にします。
「であれば、この童が本当に万福丸か御確かめいただけますか?某、木村喜内之介が万福丸と申す故、万福丸と思うておりますが、皆万福丸とは面識なく本当に万福丸か分かりませぬ」
兵部少輔と呼ばれた若武者に、本当に万福丸殿か確かめてくれと頼まれる。
成る程、この者が森兵部少輔殿に御座いますか。
まだ兵部少輔殿が幼い頃に幾度か会うた事があるくらいで、兄に言われるまで誰か気付きませんでした。
しかし、浅井家と関わりの無い兵部少輔殿が万福丸の顔を知らぬのは当然としても、兄は気付く筈。
いえ、兵部少輔殿にしても浅井家の旧臣に尋ねれば直ぐに分かった事。
もしや、二人は共謀してこの童を万福丸殿の身代わりにしようとしている?
その為に万福丸殿の顔を知る三蔵を連れて来ぬ様に、妾一人でとの条件を出した?
そうであるならば、妾のすべき事は…
「間違いないと存じます…。万福丸殿に御座います」
泣きながら童の亡骸にしがみつく。
果たして本物の万福丸殿は無事なのであろうか?
兵部少輔殿が万福丸殿を匿っておられるのだろうか?
しかし、万福丸殿の安全の為には聞かぬ方が良いのでしょうね。
今年も一年有り難う御座いました。
良いお年を。
来年の投稿は1/16以降になります。




