465 万福丸
殿に命じられたからには仕方ない。
浅井長政の嫡男である万福丸と、万福丸を連れて逃げていた浅井家家臣の木村喜内之介を連れて殿の居る本陣ではなく横山城の方へと向かう。
大樹がそっちに居るからね。
殿もそのせいで、一旦そちらへ戻るらしい。
邪魔なんだから来んじゃね~よ!
まあ、上の言う事には素直に従うんですけど。
「殿、喜内之介が万福丸を連れ、逃げ出しました」
岸新右衛門が万福丸の逃亡を報告してきた。
「追え。決して逃がすな」
「はっ」
新右衛門に逃げた万福丸の捕縛を命じる。
暫くして、新右衛門は喜内之介を捕らえて戻ってきた。
「万福丸は如何した?」
「はっ、残念ながら亡くなられました」
「そうか」
まあ、殿に叱られるだろうが死んでしまったら仕方ない。
それ以上の功績を立てているから多少は見逃してもらえるだろう。
「追い詰められた喜内之介が足を滑らせ、崖より滑り落ち、運悪く万福丸殿は…」
おっと、死亡の詳細を聞くのを忘れてた。
「死んだものは仕方あるまい。どうせ横山城へ着いたとて、大樹に殺されるのだ。楽に死ねたのならば寧ろ慈悲と言えよう」
流石に拷問されたりはしないだろうが、長政をいびる為に酷い殺され方をしたかもしれない。
「尾張守様には何と?」
「そのまま申し上げる他あるまい」
この時代では当たり前の事だとしても、史実の様に遺体を串刺し磔にされるのは避けないと。
慈悲の心から、とかではないけどな。
横山城へ到着し、殿に万福丸の死を報告すると、当然叱責を受ける。
「お主らしからぬ不手際であるな」
「申し訳御座いませぬ。喜内之介が逃げ出すだけなら兎も角、まさか万が一に縋って万福丸を連れ出すとは思わず。況してや崖から転げ落ちようとは…」
殿から疑いの目を向けられるが、素直に自分の非を認め頭を下げる。
「この者が万福丸か…」
殿は俺の謝罪などは気にせず、眉を顰めながら万福丸の遺体を確認される。
「某は万福丸の顔を存じませぬが、喜内之介があれだけ大事にしておったのです。間違いないかと。殿は万福丸の顔を御存じに御座いますか?」
残念ながら俺も俺の家臣達も浅井長政との接点なんてないので、本当に万福丸かなんて分からんのよね。
「幾度か会うた事がある」
やっぱり会った事あるよなぁ。
って事は、この遺体が万福丸じゃないってのも丸分かりな訳だ。
「殿、万福丸をこのまま弔ってやる事は出来ませぬか?」
「どうした。万福丸を哀れとでも思うたか?」
いや、そんな事はないけどね。
「万福丸が哀れと申すよりは正直なところ、幼子が磔にされるのは見ていて楽しいものでは御座いませぬ」
磔にされて皆に晒されたら、偽物だってバレるし。
「ほう」
「当家は幼い弟も多く、面影を重ねてしまうのやもしれませぬ」
「成る程。傳兵衛は相変わらず家族思いじゃな」
うん!家族大事!
「元々万福丸を捕らえるという役目も、戦で大将首を取る事に比べれば、やる気が出ぬのは確かに御座いましょう」
あ、思わず本音が出てしまった。
今のナシで。
「申し訳御座いませぬ。今の言葉は聞かなかった事にしていただけると…」
「くくっ、槍働きに比べれば、詰まらぬ事であるか。流石は戦好きと呼ばれる傳兵衛らしい言葉だのう」
いや、戦なんて全然好きじゃないよ?
冗談で言ってるんですよね?
まさか、殿はそんなデマ信じてなんかいませんよね?
ってか、俺の事を戦好きとか誰が言ってんねん!
ぶっ飛ばしてやる!
「いや、某の事などどうでも良いのです。万福丸の事どうにかなりませぬか?浅井家の旧臣共も良い顔は致しますまい」
「大樹が浅井家の事を大層御怒りだ」
義昭かぁ~。
なんとかアイツのプライドとか擽って、温情とかもらえないかなぁ。
「備前守への怒りは妥当かと思います。しかし、万福丸に温情を与えれば浅井家旧臣が大樹の徳に感謝いたしましょう。それに浅井家に温情を与えたうえで、朝倉家を苛烈に責めれば、朝倉家への大樹の怒りがより際立ちましょう…とか何とか?」
プライド高そうな馬鹿は、適当な理由を付けた上で煽ってやれば何とかなりませんか?
「小賢しい奴め。まあ良かろう。大樹に頼むだけ頼んでみよう」
「有り難う御座いまする」
殿に感謝し頭を下げる。
「殿、於市様が御越しに御座います」
殿の小姓の1人である大津伝十郎(長治、後の長昌)が、市姫の来訪を伝える。
あれ?岐阜に帰ったんじゃないの?
まだ、ここに居ったんかい。
「何用だ?」
「はっ、最後に万福丸殿に一目御会いしたいとの仰せに御座います」
げっ!不味いな。
「市は、万福丸の身を案じておったからのう…良かろう」
ええ!流石に市姫には身代わりの事がバレるやろ!
万福丸の助命嘆願をしてたんだから、茶番に乗っかってくれるよね?




