460 面倒事
「ではな、傳兵衛」
権六殿は敵を討ち取ると満足したのか、小谷城へ戻ろうとする。
いやいやいや!
ここで権六殿が戻ったら、敵を追い掛けて行った光秀が大変じゃない?
「十兵衛殿が敵を追って敦賀の方へ向かいましたが、放っておいても構わぬので?」
光秀に敵を追ったらって言ったの、俺だからなぁ…
「お主が追えば良かろう?」
まあ、光秀に朝倉景紀を追わせない様に疋壇方面へ追い払ったのは俺なんで、その後始末をしろってんならしても良いんだけど…
「某は殿より、此処にて逃げてくる敵を迎え撃てとの命を受けております。既に朝倉家は逃げましたが、まだ浅井家の奴等が残っております故、動く訳には参りませぬ」
殿の命令には逆らえないから仕方ないね!
いや〜、残念だなぁ!
それに、俺って今回結構働いたんだから、少しくらいは手を抜いても良いよね?
「十兵衛め、逸りおって」
権六殿が光秀に対して愚痴を言っているが、ここはフォローしておくか。
「十兵衛殿も功を焦っておられるのでしょう。逃げた者の中には、まだまだ大物も居った様に御座いますし」
光秀を焚き付けたのは俺の様な気もしないではないけど…うん、気のせいだな。
全く光秀も困った奴ですなぁ。
「仕方あるまい、少し兵を割くか。源吾!次兵衛!兵を率いて十兵衛の後を追え!」
あっ、お久しぶりぶりです、源吾殿。
権六殿の弟の源吾殿と…次兵衛?
ああ、権六殿の姉婿の吉田次兵衛さんね。
柴田勝豊の親父さんだ。
貧乏籖引いちゃいましたね。
権六殿は織田家筆頭脳筋だから、この家臣達の性格も推して知るべし。
そんな脳筋共が小谷城攻略から外されたら不満も溜まる事だろう。
その外れ仕事を身内に負わせる事にしたんだな。
吉田次兵衛なんて、権六殿の給料の1割って決まってるらしいからな。
自分よりも権六殿が出世した方が利になるから、無理に手柄を立てにいく必要もない。
次兵衛なら不満もあまり出ないのかもしれない。
「ウチからも案内を出しましょう。左近(真野助宗)!同行し先導せよ」
念の為に、金ヶ崎の戦の時にはあの辺りの物見を任せていた真野左近を後詰めに同行させる。
頼んだぞ左近、要らん事されない様に見張ってくれよ。
「ではな、傳兵衛。儂は小谷城へ戻る」
敵将を討ち取って上機嫌な権六殿は、もう此処に居る必要はないとばかりに小谷城へと戻って行かれる。
しかし権六殿と会うと、ウチの家臣達もまだまともなんじゃないか、まだ人の道へ引き返す事が出来るんじゃないかと錯覚してしまいそうになるのが恐ろしいところだな。
奴等も大概だという事を心に刻んでおかないと、俺もそっちへ引っ張られそうになる。
惑わされない様に気を付けないとな。
まあ、手遅れな奴等の事は置いておいて、小谷城が落ちるまで、暫くは休憩するとしよう。
「兵部少輔様!」
俺が休憩モードに入ろうとした時、東野左馬助(政行)に大声で呼び掛けられる。
やっと休めるって時に何だよ!
「如何した左馬助」
「浅井備前守の嫡男、万福丸を捕らえまして御座います!」
え~、面倒事を持ってくるなよ…
旧主の嫡男である万福丸を逃がさずに捕らえたのは評価するところだけど、出来れば報告せずに逃がして欲しかった…
知らなきゃ放っておけたのになぁ。
それに、そんな大声で報告されたら流石に無視出来ないよな。
「取り敢えず館にて軟禁しておけ。但し、まだどう転ぶか分からぬ故、丁重にな」
まだ浅井長政がどうなるのか分からないので、万福丸を処分する事は出来ない。
そもそも今、万福丸を殺してしまうと、俺が於市や茶々に恨まれるよなぁ。
かといって、助けるのもリスクが大きいし…
ああもう、何で俺の所に来るんだよ!
ご心配をおかけしました。
父は無事に退院し、元気に動き回っていますので、御安心ください。




