435 所右衛門対十郎再び
青木重通視点です。
近江国滋賀郡守山村 赤穂森家家臣 青木所右衛門重通
真柄十郎左衛門を追おうとする殿の邪魔をする、十郎左衛門の弟である真柄十郎を見つける。
「殿!この者は某が!」と叫び、殿と十郎の間に割って入る。
折角巡ってきた雪辱の機会を逃すわけにはいかぬ。
「誰かと思えば先日戦った小童ではないか!折角拾った命を捨てに参ったか!」
先日の戦では不覚を取ったが、此度はそうはいかぬ。
「先日は確かに不覚を取ったが、今日はそうはいかん。お主の首、貰い受ける!」
槍を構え、間髪入れず真柄十郎へ打ち掛かる。
その打ち込みは軽く往なされたのだがな。
「先日と何が違うか分からぬな」
はっ、数日で腕前が劇的に変わる訳がなかろう…
先日の戦いと同じ様に、桁外れの怪力に押され気味となる。
分かってはいたが厳しい…
「くっ!」
前回は腕が痺れて、槍を弾かれてしまったが何とか耐える。
「槍は手放さなくなったが、対して違いはないな!今日は見逃しはせぬぞ!」
やはり、このままでは勝つ事は難しいか…
「何を!」
相手の挑発に乗った様な感じを装って、力一杯槍を叩きつける。
十郎はニヤリと笑うと、大太刀で槍を払いにくる。
掛かった!
槍が大太刀に弾かれる瞬間、槍から手を離す。
「自ら槍を手放すか!」
槍を手放したせいで手応えがなくなり、その御陰で僅かに体が泳いだ十郎。
「貰った!」
その隙を突いて懐に潜り込もうと前へ踏み込み、腰の刀を抜く。
「舐めるな!」
体が泳いで隙だらけの筈が、思ったよりも素早く大太刀が返ってくる。
仕方なく抜いた刀で大太刀を受け流す。
前回は数打ち物の刀であった事もあり、刀に罅を入れられたが、今回は上手く受け流せた感じがする。
「止めだ!」
再び体の泳いだ十郎の首目掛けて刀を突き出す。
突き出した刀は、吸い込まれる様に十郎の首に突き刺さった。
「がはっ」
「討ち取られるのはお主の方だったな!」
吐血しながら恨めしげに此方を睨む十郎に止めをさす。
「青木所右衛門が、真柄十郎討ち取ったり!」
大声で叫ぶと、敵と対峙しておられる筈の殿を見る。
「おお、勝ったか。よくやった!」
見ると、既に殿は長門守(山崎吉家)と備中守(黒坂景久)の二人を討ち取っておられた。
「殿も御見事に御座います!」
流石は兵部少輔様。
「ところで、真柄の次郎太刀を防いだその刀は、さぞや名の知れた名刀なのだろうな。一目見せてはくれぬか?」
いかん、殿の悪い癖が…
殿は名刀や名槍に目がないからなぁ。
「姉川での戦にて救った徳川家の小笠原与八郎(氏助)殿より頂戴した孫六兼元の刀に御座います」
流石は孫六の刀だ。
数打ち物とは訳が違う。
取り上げられはせぬかと内心ビクビクしながら、殿に刀を差し出す。
「流石は孫六。次郎太刀を受けても傷一つ無しか。真柄切か…」
おお!真柄切か!良い銘だ!
「殿、此れが真柄十郎の大太刀に御座います」
殿に真柄切を取り上げられるのではないかと不安に思い、急ぎ代わりに大太刀を差し出す。
果たして殿は大太刀を受け取ると、真柄切を返してくださる。
「流石に長すぎて扱い辛いな」
殿は受け取った大太刀を振り回すと、そう呟かれるが、それはそうであろう。
使えもせぬ大太刀など惜しくはない。




