432 奇襲しなきゃダメ?
俺はウチの兵を率いている楠木七郎左衛門(正具)や山田八郎右衛門(宗重)、石川伊賀守(光重)等に連れられ、朝倉家に横擊を加えるべく、西の蓬莱山だか打身山だかの山中に渋々身を潜める。
親父のピンチならば身を張る意味はあるが、無駄死にはしたくないので様子見に徹している。
このまま終わってくれないかなぁ。
やっぱ、奇襲しなきゃダメ?
溜め息を吐きたくなる気持ちを抑えていると、物見に出ていた瀧孫平次が戻ってくる。
「殿、山中を彷徨く怪しき者共を捕らえました。如何致しますか?」
いや、俺達が此処に居る事がバレるとマズイんだから始末するしかないんじゃないの?
「何処の者か?」
「木戸城城主佐野下総守と名乗っております」
どこの木戸城?
「木戸城とは、和邇城の北にあった木戸城の事か?」
近くに侍っていた軍師の林助蔵(能勝)が、俺の代わりに聞いてくれる。
「はっ。その木戸城に御座います」
うん、そんな弱小勢力なんて眼中になかったし、堅田より北の城なんて朝倉側に味方すると思ってたから、全く分からん…
聞けばどうやら、昨日親父達が戦った大谷川の少し南にあった城らしい。
「その下総守殿が何故この様な所へ?」
「確か下総守殿は織田方に付いて朝倉家と戦っておりましたが…。その後どうされたかまでは分かりませぬな」
下総守の城のある場所は、大谷川の戦いでは織田軍の後方に位置していたが、織田家が和邇城へ退いた今は最前線となっている筈?
下総守が此処に居るという事は、木戸城が…落ちたな。
「地の者ならば、この辺りの事は詳しかろう。会おう。下総守を丁重に御連れせよ」
まあ、道案内くらい出来るだろう。
「木戸城城主、佐野下総守に御座います」
「織田家の森兵部少輔だ。此は家臣の林助蔵。しかし、下総守は何故斯様な所に?」
連れられて来た下総守に、何故此処に居るのかと尋ねる。
「先日の戦で、某は九郎(織田信治)様や左衛門佐(森可成)様と轡を並べ朝倉家と戦っておったのですが、突如延暦寺の兵が現れて留守にしておった某の城に火を掛け…」
そう言うと下総守はガックリと肩を落とした。
城、燃えちゃったのか…
それで此処へ逃げてきたのね。
城の位置的に織田家に味方するしかなかったんだろうけどな。
御愁傷様…いや、親父の力になれたんだから本望か。
俺が下総守の忠勤に頷いていると、代わって助蔵が下総守に尋ねる。
「して、下総守殿はこれから如何なさる?我等はこれから朝倉軍を急襲致す積もりだが」
まあ、このまま何処かへ逃げるなら、俺達が暴れている隙に逃げた方が良いよ?
俺は暴れたくないんだけど、抑えが効かない奴もいるし…
このまま戦が終わるまで、ずっと潜んでいる訳にもいかないしな。
奇襲で一当てし直ぐに離脱したら、逃げ切る事くらい出来るよね?
何故か下総守は、助蔵に問われて動揺しているのか目が泳いでいる様な気がする。
流石に逃げ辛いのかな。
「逃げるのならば我等が朝倉軍へ攻め掛けた後にするが良い。その方が無事に逃れられようぞ」
俺が優しく語りかけると、下総守はビクリと体を震わせる。
「い、いや、我等も御供致す」
これは意外。
下総守は従軍を申し出る。
下総守の顔色は悪く、体の震えも止まっていないが、その力強い言葉はきっと朝倉家への怒りで溢れているんだろう。
ビビってるのかと思ってしまってゴメンね。
佐野家の合流が決まって盾が…戦力が増えた事は有り難い。
後は、いつ敵陣に突っ込むかだな。
いくら奇襲を掛けるとはいえ、そのまま突っ込んでも、直ぐに対処されそうなんだよな。
敵が混乱したところへ突撃するか、若しくは俺達が突撃した後に更なる追撃があると良いんだけど…
「殿!」
突撃の時期を悩んでいると、多羅尾彦市(光太)が駆け込んでくる。
「来たか!」
「はっ!間も無く!」
彦市の返事に笑みを浮かべると、周りの脳筋達に向かい声を上げる。
「今より朝倉軍を攻める!狙うは本陣!」
「「「応!」」」




