430 傳兵衛を信じるか…
森可成視点です。
近江国滋賀郡高城村和邇城 織田家家臣 森左衛門佐可成
「何?兵部少輔が堅田に居ると?」
九郎(織田信治)様の驚愕の声が辺りに響き渡る。
南下してくる朝倉軍を如何したものかと頭を悩ませていると、播磨に居る筈の傳兵衛の家臣である野中権之進(良平)が現れ、傳兵衛の堅田入りを知らせてくる。
居る筈は無いと思い込もうとしておったが、やはり傳兵衛は近江に居ったか…
延暦寺が焼けたと聞いた時に真っ先に傳兵衛の関与が頭を過ったが、そんな筈はあるまいと己に言い聞かせておったのだがな。
「はっ!本日京に着き、今は堅田に居られます」
そうか…
「播磨から摂津ではなく京に向かうとは、中々に大胆だな。儂は直接会うた事はないが、手紙のやり取りから律儀者でもっと堅物な男かと思うておったのだが」
九郎様は首を捻りながら、儂の方を見る。
いや、確かに傳兵衛は律儀な所もあるが、堅物かと言われると頷く事は出来ぬな。
しかし傳兵衛の奴め、いつの間に九郎様と手紙のやり取りなど…
「兵部少輔はとてもでは無いが、堅物とは言えませぬな」
兵庫頭(蜂屋頼隆)が茶化すが、まあその通りだな。
九郎様に手紙の事を尋ねたいが、今はそれよりも傳兵衛の話だ。
「して、兵部少輔は何と?」
じっと待っていた権之進に、本題を尋ねる。
「はっ!兵部少輔様は堅田殿原衆と真野衆の調略に成功。此方へ送る代わりに、子飼いの兵を戻して欲しいと」
「兵部少輔の子飼いを戻せと?」
「はっ!」
少々問題があるとはいえ、傳兵衛の兵は精鋭揃い。
今ここで城を出られるのは辛い。
しかし、傳兵衛の手元に兵が無いのは動き辛いか。
九郎様の方を見ると、暫し考えてから権之進に答えを返される。
「ふむ。兵が無くては兵部少輔も辛かろう。代わりを寄越すというのならば構うまい」
兵がおれば何を仕出かすか分からぬ分、動けぬ方が安心は出来るがな。
「有り難う御座います」
「して、兵部少輔はこれから如何するのか?」
権之進は九郎様の問いに悩んでいる様に見える。
「某は聞かされておりませぬが、恐らく背後に潜むのでは?」
彼奴は一体何を仕出かす積もりなのか…
頭が痛くなったわ!
九郎様への話が終わった後、改めて権之進を呼び出し詰問する。
「まさかとは思うが、兵部少輔が延暦寺に火を掛けたのではあるまいな?」
「あれは園城寺の仕業に御座います」
「しかし、兵部少輔は延暦寺に居ったのであろう?」
「あれは園城寺によって延暦寺の宝物が焼かれるのを防ぐ為に御座います。座主には話をしております」
「…そうか。まあ良い。兵部少輔にはあまり無茶をするなと伝えておけ」
「はっ!」
傳兵衛がそう言うのであれば、儂に何も言う事はないか。
彼奴も根回しをしておる様だしな。
まあ、権之進の目が泳ぎまくっておったが、気付かなんだ事にしておこう。




