429 どうしよう、七郎左衛門
堅田衆を味方に引き込む事に成功した翌日、六角義治の紹介状を持って堅田の直ぐ北にある真野城の真野十郎左衛門を織田方へ引き込み、真野城を拠点とし朝倉家の動きに備える。
この真野城から親父が篭っている和邇城までは三キロも離れていない。
本当は直ぐに和邇城へ向かおうかとも考えたが、和邇城もそれほど大きな城ではないし、キャパの問題もあるから、和邇城へ向かうよりも、この真野城に居た方が良いだろう。
直ぐに後詰めに向かえるし、肝心な時に十郎左衛門がビビって動かないなんて事も有り得るしな。
堅田で別れ敵の裏手に回る手筈となっている義治がどうなったかは興味ないので特に気にはしていない。
偶然出会っただけだし、それに真野十郎左衛門への手紙を書かせた時点で用は無いしな。
それに裏手に回って多少敵を引き付けたとて、まだ倍以上の兵が残っている事には変わり無い。
まあ、倍であれば持ち堪える事は難しくないのかもしれないが。
「殿、いよいよに御座いますな」
まあ、今日の朝倉家の攻撃を凌げば何とかなる筈。
家臣の楠木七郎左衛門の報告に頷く。
「和邇城の動きは?」
「恐らく先日戦った大谷川より更に南、和邇城近くの何れかの川にて迎え撃つのでは御座いませぬか?」
そうだよねぇ~。
籠城なんてしないよねぇ~。
兵力差が倍くらいなら、親父は戦うよなぁ。
「ふむ…。さて、儂はどう動くべきか。七郎左衛門、お主なら如何する?」
取り敢えず、こんな戦いが得意そうな七郎左衛門の意見を聞こう。
「そうですな…。殿は姿を見せぬ方が宜しいかと。殿の所在が分からぬとなれば、相手も警戒を解けますまい」
うん?
相手は数で押してるんだし、俺の所在なんて気にする必要もないだろう。
「儂一人なぞ、警戒しても仕方あるまい?」
「殿原衆は、延暦寺を焼いたのは殿の指示ではないかと疑っておる様に御座る。その話は敵方にも伝わっておりましょう。赤穂に居る筈の殿が突然京に現れた事と、今までの所業を考えれば、そう考える事も分からぬ話では御座いませぬ」
「な、なんだと…」
馬鹿な…俺がそんな大層な事を仕出かす輩に見えるとでもいうのか?
俺の業績とやらは兎も角、確かに遠方に居る筈の者が突如京に現れ、同時に延暦寺が焼かれたとあれば、俺に在らぬ疑いを向ける輩が現れる事もあるか…
皆、陰謀論とか好きそうだしな。
本当の俺は、上からの無理な命令に四苦八苦しながら従い、下からの突き上げに耐える哀れな中間管理職だというのに…
あと、所業言うな。
「相手は殿の事を、放っておけば何を仕出かすかも分からぬ敵と思うておりましょう。せめて殿の居場所を明らかにせねば安心して進軍など出来ますまい」
いやいや、何を仕出かすか分からない奴が怖いなら、俺は六角義治の方が百倍怖いと思うけどな…味方としてだけど。
まあ、七郎左衛門がそう言うなら従った方が良いか…納得いかないけど。
「ふむ…。では、差配は七郎左衛門に任せよう」
七郎左衛門が仕切ったほうが、俺が策を考えるより良いだろうし。
「はっ。では、殿原衆と真野衆を和邇城へ送り、代わって当家の兵を戻しましょう」
え?
ウチの精鋭には親父を守って欲しいんですけど。
その為に準備してきたんですけど?
「しかし、戦前の和邇城より兵を引き抜くのは気が引けるが」
「その代わりの殿原衆に御座います。殿の配下の者達が和邇城より消えたとなれば、朝倉家の警戒も増しましょう。恐らく朝倉家には、殿が火付けの…名人とでも思われておりましょうし、我等も火付け集団とでも思われておるやもしれませぬな」
ウチの家は放火魔の集まりってか?
全く失礼な話だな。
…いや、よく考えたらウチの家臣達は、昔から火付けの訓練をしてきたわ。
間違ってはないな。
家臣達には延暦寺焼き討ちを想定して訓練させてきたけど、いざ本番となった時に殆どの奴は和邇城に詰めていて、その場に居なかったのは笑えるけどな。
まあ、俺の手元に信頼できる纏まった戦力があるのは良い事か。




