424 バイバイ借金
比叡山を下りて、麓の日吉大社へと向かう。
比叡山の麓にある坂本の町は、園城寺の僧が火を付けて回ったのだろう、既に各所の寺や屋敷から火の手が上がっていて、俺が目標にしている日吉大社もその例外ではない。
「不味いな。急ぐぞ!」
幸いまだ園城寺の兵と日吉大社の兵が争っている最中であり、大した火の手ではないが、いつ拡がってもおかしくない。
日吉大社を焼く前にしなければならない事があるので、急いで家捜しをしないと。
兵の相手は園城寺に任せ、急ぎ神社内に雪崩れ込むと、邪魔する奴等を撫で斬りにしながら社務所っぽい建物へと押し入る。
「証文や書簡は根刮ぎ浚え!」
俺は家臣と共に借金の証文を探す。
証文は色々使い道があるので、燃える前に回収したいところだ。
だいたい普通の人は借金する時に質草を取られるので、証文を書く様な人は地位か身分のある奴と相場は決まっている。
証文は、その人物等のリストにもなるしな。
殿に渡しておけば何かに活用してもらえるだろう。
俺のは燃やすけど。
「新右衛門、お主は蔵だ!半数を連れて蔵へ向かえ!金目の物は残らず奪えよ!」
蔵の中も確かめないとな。
「金目の物に御座いますか!」
当たり前じゃろがい!
「此度の洛北衆への報酬や園城寺への謝礼を何処から捻出すると思うておる。此処で稼がねばお主等の報酬を削らねばならぬぞ?」
「行くぞ、お主等!蔵の中身は根刮ぎかっ浚え!」
俺が周りの家臣達を脅すと、新右衛門は周りの者達を連れ、慌てて蔵へと走り去った。
あまり時間が掛かると流石に火の手が回ってくるので、急いで稼いで来てくれ!
洛北衆に延暦寺の宝物保護の報酬や派兵してくれた園城寺への御礼に大金が要るんだ。
此処で稼がねばならん。
「殿!証文とは此れの事では?」
家捜ししていた野中権之進が紙の束を持ってやってくる。
おお!見つけたか!
急いで権之進から紙束を受け取り、内容を確かめる。
ペラペラと紙束を捲り、運良く俺の証文を見つける事が出来た。
その証文を抜き取り燃やすと、残る紙束を権之進に返す。
「よし、目的は達した!皆を集めよ!素早く此処を離れるぞ!」
俺の証文は燃やしたから、もう此処には用はない。
さっさと移動したいが…
「殿!御待たせ致した!」
丁度良いタイミングで、横川を物色していた楠木七郎左衛門等が到着してくれた。
よし、さっさとトンズラするぜ!
この後は親父の居る和邇城へ向かいたいんだけど、問題は俺が加わったところで戦況が覆ったりするものでもないという事かなぁ。
「これで恐らくは朝倉方に付いた延暦寺の僧兵共は戦どころではなくなっただろうが、さてこれから如何したものか」
「左様ですな。我等が加わったところでという気がしますな」
七郎左衛門も同じ意見だな。
京で少し増やしたとはいえ、今居る人数は百にも満たないしな。
何処かで兵を増やすなり、相手の意表を突いた動きをするなり出来ればなぁ。
「しかし、既に近隣の者は大殿の後詰めに向かっておりましょう。この辺りに纏まった兵力など、もう残っては居りますまい」
斎藤五郎左衛門もやって来て話に加わってくるが、まあその通りだよね。
「であろうな…って、おい!」
五郎左衛門に同意し、そちらを見ると五郎左衛門は仏像を抱いている。
延暦寺の秘仏だよな?
お前、その像を持ったまま敵と斬り結んでいたんじゃないだろうな?
「御心配めさるな。像には傷一つ御座いませぬぞ」
いや、秘仏を持ったまま戦場に居るだけで怖いだろ。
あれ?延暦寺で詮舜に法灯を渡した時に一緒に渡さなかったのかい!
「あの時、法灯と共に延暦寺の僧に渡さなんだのか?」
「像を渡せとは言われておりませぬ故、大事に抱えておりました」
言ってなかったっけ?
うん、言ってないかもしれない。
参ったな、どうしよう。
持ったまま戦場へ向かうのは怖すぎる。
今から延暦寺に戻るのはなしだな。
時間も掛かるし、火事も怖い。
坂本でハイになって暴れている園城寺の兵に渡すのも危ないしな。
そうだ!西教寺だ!
西教寺は天台宗の寺だが、延暦寺の山門派でも園城寺の寺門派でもない第三勢力。
「では、西教寺に…」
「殿、西教寺にも火の手が…」
西教寺へ向かおうとしたが、七郎左衛門から待ったが掛かる。
園城寺には、山門派ではない西教寺は燃やすなと言ってあったんだけどなぁ。
勢い余って燃やしちゃったか。
なら…
「比叡辻の聖衆来迎寺へ向かう」




