423 延暦寺
ウチの兵に洛北四家の兵を加えて京側から比叡山を登り、延暦寺の西塔へ辿り着く。
延暦寺は、山城国と近江国の国境辺りにある西塔、近江国から登った所にある東塔、その2つのエリアから北に少し離れた所にある横川の3つのエリアからなるのだが、流石に広すぎるので一番遠くにある横川を楠木七郎左衛門(正具)率いるウチの兵が、東塔西塔を洛北四家が担当し略奪…保護に勤しむ。
俺は護衛の兵を率いて、一目散に東塔にある根本中堂へと向かう。
根本中堂は延暦寺の中心となるお堂で、開祖である最澄が彫ったと伝えられる秘仏の『薬師瑠璃光如来像』と、根本中堂の前身である一乗止観院が開かれた時から一度も消える事なく灯され続けている『不滅の法灯』がある。
この2つさえ確保しておけば、後で何か言われても何とかなるだろう。
根本中堂に辿り着くと問答無用で中へ押し入り、秘仏と法灯を奪取する。
さて、この2つのお宝を誰に任せようかな。
やっぱり信用出来る人物…護衛の岸新右衛門かな?
「新右衛門!お主に法灯を任せる!伝教大師が比叡山に寺を開いてから八百年近く、決して消える事無く灯され続けてきた法灯だ。親鸞上人、法然上人、日蓮上人等も延暦寺で学ばれた頃には法灯に火を灯しておられたやもしれぬな。決して火を消さぬ様にな!」
親鸞や日蓮等が火を灯していたかは知らんけどな。
まあ、これだけ脅しておけば新右衛門も火を消したりしないだろう。
あとは、秘仏か。
「五郎左衛門!薬師如来像はお主に託す。決して傷を付けるなよ」
俺の御用絵師…じゃなかった土岐家出身で芸術に造形の深い斎藤五郎左衛門(頼元)に預けておけば大丈夫だろう。
「良いか!金品なぞに目を眩ませるな!ここに有る物は大切な国の宝だ!書の一枚、像の一体とて粗末に扱うな!ぞんざいな扱いは赦さぬ!丁寧に扱い、洛北にまで届けよ!」
真っ先に根本中堂を押さえた後、洛北四家の兵と共に次々と寺へ押し入って仏像や仏典を掻っ浚っていく。
保護した物は順次に麓の洛北四家の城へと運ばせている。
俺が宝物をガメたりしないって事をちゃんと示す為にも洛北四家に管理させる。
洛北四家は延暦寺と深い繋がりがあるからな。
元々宝物の保護は、俺も確り真面目にやるつもりだったし、周りの奴等にも俺が延暦寺に敵対する意思は無い事を示しておかないとな。
「これは如何なる所業に御座いますか!」
チッ、流石に坊主共が文句を言ってきたか。
しかも、坂本に居ついて堕落三昧の僧兵とは違い、山でちゃんと修行している真っ当な僧が。
僧兵ならブッ殺すだけなんだが、真っ当な僧を殺すのはなぁ。
この中に高名な僧だったりが居たりすると後で面倒臭い事になるしなぁ。
「坂本にて園城寺の兵が寺を焼き討ちしておる。何時延暦寺も焼き討ちにあうやもしれぬ。延暦寺の宝物を一旦安全な所へ移さねば、全てが灰塵と化すやもしれぬのだ」
「しかし!」
「殿!」
その僧達が尚も言い募ろうとしたその時、楠木七郎左衛門と共に横川に向かったはずの今枝八郎左衛門(忠光)が慌ててやってくる。
「殿!横川の寺に火の手が!」
「何!」
八郎左衛門の言葉に驚愕する。
俺と八郎左衛門の会話が聞こえていただろう僧達も顔を青くしている。
暴徒と化した園城寺の兵が、とうとう比叡山のお堂に火を付け出したか…
いや、まさか七郎左衛門の奴…自分で寺に火を放ったとか?
まさかな…
おっと、そんな事よりこの状況を利用しないとな。
まだ顔の青い僧達の方を向いて話し掛ける。
「座主や近衞殿下には話をしてある。お主等も手伝ってもらえると更に多くの宝を救い出す事が出来る」
話をしただけで、許可をもらった訳じゃないけどな。
でも、コイツ等を仲間に引きずり込んでおけば、後々助かるかも!
「詮舜殿、此処は協力した方が宜しいのではないか?」
「…承知しました。御手伝い致しましょう。但し、御仏を蔑ろにする様な事があらば決して許しませぬぞ!」
僧達が即座に相談を終えて協力を申し出てきた。
「その様な事は決してせぬ。此処の兵にはお主等の言う事に従う様に命じる故、宝物の事は頼んだぞ」
よしよし、コイツ等に指揮権を渡しておけば、例え宝物が幾つか紛失しても俺のせいには出来んだろう。
「有り難う御座います」
「ところで、御坊等の尊名を伺っても宜しいか?」
名前を聞いておかないと、後で責任を押し付ける事も出来ないしな。
「拙は正教院詮舜に御座います」
「某は薬樹院全宗と申します」
全宗?
延暦寺の僧で全宗といえば、医者になった施薬院全宗が思い浮かぶが、本人だろうか?
まあ、今はいいや。
どうせまた後で会わねばならんだろうし。
「では、此処は御両人に御任せして、某は坂本へ向かおうと思うのだが、宜しいか?」
「御任せくだされ」
よし!此処は2人に押し付けて、俺は一刻も早く坂本へ下って日吉大社を!証文を燃やさねば!
よし行くぞ!と家臣達に目を向けると、不安気な表情をして法灯を持っている新右衛門と目が合った。
「あっと、待たれよ!この法灯も持って行かれよ!儂等が預かるよりも詮舜殿が持っておられた方が良かろう」
詮舜に法灯を任せると言うと、法灯を預けていた新右衛門は明らかにホッとした表情を浮かべる。
法灯を消さない様に坂本へ移動するのは緊張するだろうしな。
こいつ等に渡しておけば、火が消えても俺の責任じゃないしな。
よし、もうここに長居する意味もないな。
日吉大社を燃やしに行くぞ!




