421 燃えてる
青地茂綱視点です。
近江国滋賀郡荒川村 織田家家臣 青地駿河守茂綱
「九郎(織田信治)様!左衛門佐(森可成)殿!兵庫頭(蜂屋頼隆)殿!殿は我等に任せて和邇城へ御退きを!」
朝倉家との戦いの途中で突然、延暦寺の僧兵が背後より現れ、我等に襲いかかってきた。
近江で大きな力を持つ延暦寺の参戦に兵達は動揺し、とてもではないが戦を続けられる様な状況ではない。
それでも辛うじて戦えておるのは、森左衛門佐殿の巧みな指揮の御陰であろう。
若しくは、左衛門佐殿の子で田上庄を治めている兵部少輔殿が、延暦寺を警戒しておられたのを知っておったからか。
それでも、まさかという思いでいっぱいだが…
「其方の兵のみでは朝倉家の大軍は防げまい。儂も残ろう。兵庫頭は九郎様と和邇城へ」
確かに左衛門佐殿の申される通り、儂等だけでは厳しいのはその通りであろうが、先の失態で落ちた家名を挽回するには良いかと思ったのだがな。
儂が尾張守様に従い南伊勢にて北畠家と戦っておった折、近江にて六角中務大輔様が伊賀衆の力を借りて蜂起した事があった。
当家の留守を守っておった伊豆守が中務大輔様に呼応して、家を乗っ取った。
幸いと言っていいのかは分からぬが、当家が戦に加わる事無く、中務大輔様の蜂起は失敗し、伊豆守は自ら蟄居した。
しかし、当家の立場が悪くなった事に変わりない。
例え儂が討ち死にしたとて、青地家の家名を上げられるならばと思うたのだが…
左衛門佐殿が残られるとあっては話が変わってくる。
残念だが手柄は、ほぼ左衛門佐殿のものとなろうな。
「では、そろそろ参るか、兵庫頭。左衛門佐、駿河守も後で会おうぞ」
九郎様が兵庫頭殿と共に和邇城へ戻られる。
戻ると言っても、延暦寺の僧兵共が居る中を抜けて行かねばならぬがな。
「大殿!」
いざ、戦に赴かんと気合いを入んとしたところを邪魔する様に声が上がる。
あれは…兵部少輔殿の家臣である稲田次郎兵衛殿か。
左衛門佐殿に何か急ぎの用か?
「如何した、次郎兵衛!」
「坂本に三井寺の兵が攻め込み、町に火を放っております!」
は?
坂本に三井寺の兵が?
「傳兵衛か?」
傳兵衛…兵部少輔殿が如何したのだ?
「はっ!兵部少輔様の命で三井寺へ知らせを。しかし、まさか坂本に火を放つとまでは…」
何と!
「真か…?」
いや、左衛門佐殿は疑っておられるが、流石に兵部少輔殿とはいえ、坂本を火の海にせよとは申されぬだろう。
しかし、これは好機だ!
延暦寺の兵は、己の本拠を焼かれて動揺しておろう。
…ひょっとすれば朝倉の兵もな。
「兵庫頭!この機を逃さず延暦寺の兵を討つぞ!」
九郎様が敵方に付いた延暦寺の僧を討つべくやる気を出されている。
「駿河守!お主も九郎様と僧共を討て!朝倉は儂が止める!」
「はっ!」
兵部少輔殿の御陰で生き残る目が出来たか。




