419 大谷川を挟んで
蜂屋頼隆視点です。
近江国滋賀郡荒川村 織田家家臣 蜂屋兵庫頭頼隆
儂が治めている和邇城と朝倉家に奪われた小松城の間にある大谷川を挟んで両軍が対峙する。
兵の数は此方が六千、敵は凡そ二万弱。
相手次第ではやりようはあるが、朝倉家も真柄十郎左衛門等の精鋭を揃えておろうし、些か厳しいか。
やはり、摂津で三好家と戦っておる織田家の本隊が戻るまで時を稼ぐ他あるまい。
その為に八郎右衛門は、己が守る小松城を捨て、態と朝倉家に城を奪わせ拠点にさせる事で敵の足留めとした。
恐らく小松城を捨てて此の城に兵を集めておらねば、小松城はおろか此の和邇城も落とされておったであろうし、堅田の街も降伏しておった事だろう。
これで近隣からの後詰めを集める時間が稼げたし、城を守る為に兵を割いてくれれば尚良しだ。
兎も角、御陰で宇佐山城の左衛門佐や滋賀郡と栗太郡の国人衆に傳兵衛の田上兵、それに京に居られた九郎(織田信治)様の兵が加わり、何とか戦える形にはなった。
ただ、未だ動かぬ朽木家の動向は気にかかる。
恐らく両軍を天秤に掛けておるのだろうがな。
先の越前からの撤退では儂等を助けてはくれたが、浅井家とも深い繋がりがあるのは確か。
情勢によって、どちらに付くかは分からぬ。
朽木家にしても堅田衆にしても、この戦の結果次第で敵に回るやもしれぬな。
「さて、殿が戻られるまで幾日程掛かろうか?」
「さてな。十日は掛かるまいが五日では戻られまい」
思わず呟いた独り言を左衛門佐に聞かれ返される。
殿へ知らせを送ったのは昨日…あと七日は粘らねばならぬか。
ここは山と湖に挟まれた隘路故、敵が大軍の利を活かし辛いのは幸いだが、果たして何処まで敵を防げようか。
「八郎右衛門は上手く潜めたか?」
八郎右衛門は敵が動いた時に奇襲を行うべく、山間に兵を潜めている。
策とはいえ、城を捨てた事に対する殿の叱責を躱す為であろう。
「敵に動きがない故、見つかってはおらぬのだろうな」
八郎右衛門の奇襲に、如何程の効果があるかは分からぬがな。
気が重いわ。
「明日には、伊勢にある傳兵衛の所領から後詰めが着くそうだ。取り敢えずこの戦を凌げばまだ戦えそうだ」
「何?」
幾ら何でも兵が来るには早すぎはしないか?
「傳兵衛は浅井家を警戒しておったからな。何時でも兵を出せる様にしておったらしい。田上の者も用意万端で後詰めに参ったしな。どうすればその様な考えになるのかは全く分からぬが、此度は彼奴の奇行に救われたな」
全くだな。
下手…とまでは言わぬが、横好きの歌とは違い、こちらの才能は恐ろしいものがあるな。
流石は織田の変わり者…鬼才…いや、奇人と言ったところか。
だが、その御陰で助かった。
「しかし、敵が動かぬのは何故か?多勢に任せて攻めて来ても良さそうなものだが…」
敵は此方の三倍。
そのまま力押ししても良かろうかと思うのだが。
早くに儂等を突破して上洛せねば、摂津の三好家が厳しかろうに。
「さあな、敵も何かを待っておるのやもしれぬな」
そうであろうな。
更に兵を集める当てがあるのであろうか?
時を稼げるのは良い事だが…




