418 朝倉家南進
真柄直隆視点です。
近江国高島郡井ノ口村 朝倉家家臣 真柄十郎左衛門直隆
姉川を挟んでの織田家との戦が痛み分けで終わり、儂等朝倉家の兵は一旦敦賀まで兵を退く。
そして、織田家の兵が摂津で三好家と戦端を開いた後、頃合いを見計らって再び近江へと侵攻する。
上洛に際して障害となるのは、敵方に寝返った高島七頭の筆頭である佐々木越中守、近江の湖西に配された織田家の家臣である小松城の中川八郎右衛門、和邇城の蜂屋兵庫頭、宇佐山城の森左衛門佐の四人か。
先の戦では互いの立場の為に痛み分けとなった森左衛門佐との勝負だが、此度は心行くまで楽しめそうだ。
過日の戦にて息子達を討たれた右兵衛尉(朝倉景隆)殿は、討った左衛門佐の嫡男である兵部少輔の方に執着があろうが、儂が兵部少輔の父を討つ事で溜飲を下げていただこう。
近江に居る朝倉家の兵一万五千に浅井家配下の田屋家の兵千を加えて近江湖西を南進する。
浅井家の兵が少ないが、本拠である小谷城の直ぐ近くを敵方に奪われては、流石に此方に兵を割くのは無理であった。
「先ずは、目の前の佐々木越中守を降さねばな」
もうすぐ佐々木越中守が篭る清水山城を包囲も完成する。
さて、越中守は戦い応えのある者であろうか。
「十郎左衛門殿、意気込む所悪いが佐々木越中守は降伏を申し出てきたぞ」
いよいよ戦だと意気込んでいると、右兵衛尉殿が水を差してくる。
「さ、左様か…」
うーむ…戦にならなんだか…
佐々木越中守も備前守を裏切り尾張守側に付いたのだから、最後まで尾張守の味方をすれば良いものを。
まあ、降伏せねば儂等に叩き潰されていたのは間違いないのだから、その判断は正しい。
正しいのだが…張り合いがないな。
「まあ、降伏したものは仕方ない。次は、小松城の中川八郎右衛門か」
「いや、小松城の八郎右衛門は城を捨てて和邇城へ逃げ込んだらしい」
…尾張守の家臣も情けない。
「では、和邇城で戦となるか」
和邇城を捨てるという事は、堅田の町を捨てるという事と同じ。
流石にそんな事はすまい。
「先ずは小松城に入り、兵を休ませるとしよう」
右兵衛尉殿は空いた小松城に一旦兵を入れると申されるが、そのまま和邇城を攻めるべきではないか?
「いや、時を置かず攻めるべきに御座ろう。態々敵に兵を集める時をくれてやる事はない。直ぐにも和邇城へ向かうべきに御座る」
敵の篭る和邇城の近くに無傷の城があるのだ、兵を安全に休める為にも使いたくなる気持ちは分かるが、今は敵に時を稼がせぬ為にも先を急ぐべきであろう。
「いや、敵が和邇城へ集まるのは好都合だ。延暦寺には儂等に味方し織田家を攻める様、既に話は付けてある。儂等が敵兵を引き付けておる間に、背後から延暦寺の僧兵が奇襲をかける。織田家不利と見れば、堅田衆も儂等に味方しよう」
僧の力を借りる事に思うところがない訳ではないが、勝つ為に最善を尽くすというのであれば仕方あるまい。
勝つ事が本にて候、文句はない。
延暦寺の力を借りるのは後々面倒な事になるやも知れぬが、まあそちらは備前守に任せれば良いか。
また左衛門佐との勝負に水を差されなければ良いがな…
中川八郎右衛門が捨てた小松城に入り一泊し、兵の疲れを取りつつ敵の出方を見る。
果たして予想通り、敵は和邇城を捨てる事なく、続々と兵が集まってくる。
翌朝には敵兵は六千程となっていた。
ほう、思ったより集まっておるな。
そのまま当たれば、案外良い勝負となるのではないか?
まあ、負ける積もりはないがな。




