308 播備の戦の報告
織田信長視点です。
山城国四条坊門小路西洞院大路 本能寺 織田尾張守信長
南伊勢での戦は、大河内城を兵糧攻めの末に、城に篭もる北畠家を降伏させた。
降伏した北畠家の養子に二男の茶筅を送り込む事で南伊勢を手に入れる事は出来た。
北畠親子を城より追い出し、茶筅を養嗣子とする事は出来たが、未々北畠家の力は侮れぬ。
後事は吉兵衛や権六達に任せ、供回りの者共と一足先に京へ戻り、先ずは大樹の所へ戦勝の挨拶に伺う。
その後、宿所の本能寺に入ると、播磨へ送った所之助(島田弥右衛門)が戻っておった。
「殿、伊勢での勝利、御目出とう御座いまする」
「うむ。所之助も播磨での折衝、御苦労であった。して、如何なった?」
弥右衛門に播磨での顛末を尋ねる。
「目論見通り龍野赤松家、赤松宗家、小寺家、備前浦上家の四家は大きく力を落としました。赤松宗家、小寺家…特に小寺家に関しては、浦上宗家を復興した事で多少盛り返してはおりますが、許容出来る範囲に御座います。宇喜多家が金光家を滅ぼしたのだけが予想外にございましたが、傳兵衛殿の機転で吉井川以西に追い払っております」
ふむ、凡そ目論見通りに事が運んだか。
元々は赤松下野守に播磨を取らせる算段であったが、見事に割拠しておるな。
しかし傳兵衛も、今から大樹の姻戚の台頭を懸念するとは、些か心配に過ぎるとは思うがな。
「うむ。大樹には、駆けつけた時には既に下野守には播磨を治める程の力は無く、仕方無しに割拠させたと申しておいた」
「下野守が二度も小寺家に敗れさえしなければ、そのまま播磨守護に任じても構わなかったでありましょうが、今の龍野赤松家の力では、とても他を抑えられますまい」
であろうな。
其故、下野守を見限り、傳兵衛の策に乗ったのだ。
「これが領地割りの草案に御座います」
所之助から渡された草案に目を通す。
「鷹取備中守は良いとして、宇喜多五郎左衛門はそのまま豊原庄に置いて良いのか?」
備前での戦に合力した鷹取備中守と宇喜多五郎左衛門の二人だが、備中守については問題ないが、五郎左衛門については不安が残る。
家督を奪う為に、宇喜多家に戦を仕掛けはしまいか。
「傳兵衛殿は、何れ五郎左衛門を所払いとするか、瑕疵を責めて滅ぼせば良いと考えておる様に御座いますな」
相変わらず傳兵衛は、義理堅いのか、悪辣なのか分からぬな。
「まあ良かろう。あの者にはあの者の思惑があろう。後程直に傳兵衛に問えば良い」
「はっ」
播磨備前での詳しい話は、傳兵衛が戻った時に、改めて聞けばよい。
「それで所之助、傳兵衛は如何であった?」
「はっ、上出来かと。戦では策を用いる事を得手とするのかと思いきや、機を見ての力攻めも得意の様に御座います。闇雲に戦を仕掛ける事もなく常に周りを利用し、少しでも有利になる様に心掛けておりました。兵も傳兵衛殿に良く従っております。政務においても視野が広く、よく先々まで見通しておる様に見受けられました。若輩による経験の不足はありましょうが、それを補える者を配すれば問題はなかろうかと」
所之助の傳兵衛への高い評価に、自然と笑みが浮かぶ。
所之助には、為るべく傳兵衛の好きにさせ、誠に傳兵衛に大領を任せられるかを見定めさせたが、問題ない様だ。
「お主がそう言うのであれば問題なかろう。先に決めた通り、播磨と備前は傳兵衛に任せる事とする」
傳兵衛の補佐に誰を付けるかを考えねばな。
「その事に御座いますが、傳兵衛殿は何やら畿内…特に近江に拘っておる様で、以前より何処か少領でも貰えぬかと溢していたとの話を聞いた事があります。その話が真ならば、あまり喜ばぬやもしれませぬ」
何?近江に何かあるのか?
傳兵衛が近江に何か縁があるとは聞かぬが。
「何故か?」
「さて、其処までは…」
京で奉行人となる事にも後ろ向きで、公家や幕臣と距離を取ろうとしておった傳兵衛の事だ。
京に拘っておる訳ではあるまい。
やはり近江か?
しかし、傳兵衛は今は栗太郡の城を預かっておるが、それは最近の戦の結果の事ゆえ。ふむ、どうにも理由が分からぬな。
「まあ良い。その事も含め、近々に傳兵衛を呼び戻して聞くとしよう」
まあ、叶うならば関津の地もくれてやれば良かろう。




