307 赤松家からの人質
小寺職隆視点です。
播磨国飾東郡御着村 御着城 小寺家元家老 小寺美濃守職隆
「殿、御呼びとの事に御座いますが?」
主君である小寺加賀守様に呼び出され、御着城へ登城する。
此度の戦の後詰めに来ていた篠原家が阿波へと戻り、英賀の三木家も兵を退いた為、最早これ以上は戦えぬと、赤松家は織田家に降伏する事になった。
赤松家に従う当家も降伏する事となり、今はその後始末の為に、色々と立て込んでいる。
本来ならば、既に家督を譲り隠居しておる儂ではなく、当主の官兵衛が参る所ではあるが、今は織田家の森傳兵衛殿と共に浦上家を攻めておるので、儂が代わりにやって来る事となった。
「よく来た美濃守。早速ではあるが、大事な話がある」
はて?恐らくは此度の戦の始末についてであろうが…
「実はな、左京大夫様は此度の戦の責を負って、家督を次郎様に譲り隠居される」
なんと!赤松家の左京大夫様は嫡男の次郎様に家督を譲られるというのか!
「左京大夫様はまだ三十路を過ぎたばかりではありませぬか。隠居されるには些か早うは御座いませぬか?」
儂の問いに加賀守様も頷かれる。
「皆と相談の上じゃ。次郎様はまだ御若い故、皆で守り立てていかねばなるまい」
「左様ですな」
赤松家の家督を継ぐ事となる次郎様は、齢十歳とまだ幼い。
確かに皆で支えねばなるまいな。
「しかしだ。次郎様が家督を継がれるとなると、質となり京へ向かう御方がおらぬ。織田家の島田弥右衛門殿との相談で、赤松家は京へ質を出す事となったのだが…」
成る程、大樹の機嫌を取る為に左京大夫様を隠居させたのかとも思ったが、単に赤松家から質を出したくなかっただけなのやもしれぬ。
「済まぬが、お主の子等を儂と左京大夫様の養子として京へやってはくれぬか?」
「陪臣である某の子を左京大夫様の御養子に、でございますか?」
殿の御子の代わりに儂の子を、というのなら分からぬでもないが、左京大夫様の養子というのは…
「本来ならば儂が質を出すべきなのであろうが、我が嫡男の藤兵衛は病弱でな。それに娘も既に嫁ぐ事になっておる。済まぬがお主に頼む」
成る程、殿も左京大夫様も質を出したくないのだろう。
それ故、儂に話が回って来たか…
姫の婚姻など破談にすればよいものを、下手な言い訳をしてでも避けたいか。
「御話は承知致しましたが、某は既に官兵衛に家督を譲り隠居の身なれば、官兵衛と謀ります故、暫くの猶予を御願い致します」
「左様であるな。流石に今直ぐ答えよとは申さぬが、其程猶予を与えられる訳ではない。早急に官兵衛と謀って貰いたい」
恐らく他の重臣等も質を出す事を渋り、儂に御鉢が回った来たのであろうが、厄介な事よ。
殿の前を辞して急ぎ姫山城へ戻ると、直ぐに官兵衛の許へ知らせを送る。
数日して官兵衛からの返事が返ってくる。
官兵衛からの返事は、赤松、小寺両家に代わり、当家から儂の次女の虎と三男の甚吉を質に出す事を承知するというものだ。
但しその際、必ず左京大夫様には次女の虎を赤松家の養女とする事を飲ませる様に、と儂に強く念押しをしていた。
どうやら官兵衛は、京の大樹や織田尾張守と誼を結ぶ事を望んでおるようだな。
官兵衛は、京との取次となり、小寺家内での権限を増したいのであろうが、果たしてどうなるやら。
些か彼奴は野心を表に出しすぎる故、要らぬ軋轢を起こさねばよいが…
兎も角、官兵衛が良しとするのであれば、儂からは何も言う事はない。
早速殿へ、当家より質を出す件を了承する旨の文を送らねばな。
それに京へ向かう甚吉と虎の供をする者を考えねばならぬ。
ふむ、一人は我が弟の総八郎で良いか。
大和に居る総八郎は、連れ合いを亡くし播磨へ戻ろうかと漏らしておった故、丁度良い。
そのまま甚吉の傅役とすれば良かろう。
後は…九郎右衛門(井上政国、後の之房)が良いか。
九郎右衛門は儂に仕えておる者だが、官兵衛に家督を譲った時に、官兵衛に九郎右衛門を召し抱えるよう薦めたのたが、どうやら官兵衛は九郎右衛門の事を疎んでおるようで召し抱えるのを断りおった。
九郎右衛門は、才気溢れる良き武士だと思うのじゃが…
このまま播磨で腐らせておくには惜しい。
一度、京にやってみれば、新たな道も開けるやもしれぬ。
やはり、ここは九郎右衛門に二人を頼むとしよう。




