306 天国か地獄か
各陣営との折衝が一応終わり、解散となったので、宇喜多家の花房正幸を呼び止める。
「又左衛門殿。少し宜しいか?」
「傳兵衛殿、何か御用か?」
大和守家の事があってか、正幸の声と表情は固い。
「所領の事で、少し話がしたいのだが」
「所領について、で御座るか?」
「うむ。此度、織田家も播磨備前に所領を頂いた訳に御座るが、備前国磐梨郡にも多少の所領を頂いた」
備前明石家の元領地だった物理城や保木城の周辺を貰ったのだが…
「それが?」
「その領地と、宇喜多家が持つ吉井川以東の領地を交換しては頂けぬか?」
「は?」
乙子城近辺の吉井川より東にある宇喜多家の領地は、宇喜多大和守家の事もあって、将来絶対に所領問題を引き起こす事間違いなしだ。
後々宇喜多家と揉めるのは怖いので、吉井川を境とする境界線をはっきりさせておきたい。
対価に差し出す磐梨郡の領地は、宇喜多家の沼城のすぐ北にあるので、宇喜多家としても、ここに織田家の領地があるのは邪魔だろう。
「吉井川を境に所領を交換し、互いの所領に攻め入らぬと約定を交わしたい」
「所領を交換すると申されたか?」
「左様。大和守家の治める豊原庄の事もある故、三郎右衛門殿は必ず戦を起こしましょう。当家としては、その様な事になっては困る。故に三郎右衛門殿には豊原庄を含め吉井川以東の事を諦めて頂きたい。代わりに当家が持つ物理庄等吉井川以西の地を、三郎右衛門殿に差し出しましょう」
この後、宇喜多直家は絶対に大和守家の豊原庄へ攻め込むだろうし、そうなれば織田家とも揉め事になるのは避けられない。
そうなる前に、吉井川を境に領地を確定しておきたい。
俺達は吉井川より西に攻め込まないから、お前も川を越えて来るな、という事だ。
「豊原庄を含めて、で御座るか?」
「左様。豊原庄を含め吉井川以東にある領地に御座る」
織田家の領地じゃないからって攻め込まれると面倒臭いからな。
「しかし、今は…」
今、豊原庄を治めているのは宇喜多大和守家だからな。
「三郎右衛門殿には、豊原庄を含め、吉井川以東の地は織田家のものと正式に御認め頂きたい」
正幸に対してニヤリと笑みを向ける。
直家を宇喜多家の総領と認め、宇喜多大和守家は織田家の方で処分すると匂わせる。
俺は宇喜多大和守家の存続を認めず、いずれ潰すと宣言している…と思ってくれるよね?
花房正幸との長い話し合いの結果、こちらの要望通り吉井川を境として互いの領地を交換する事で落ち着いた。
他には、今後宇喜多家は吉井川より東、和田家が治める事になった和気の渡しより南には攻め込まない事、同じく織田家も吉井川を越えて、上東郡、磐梨郡には攻め込まない事を決める。
あくまで花房正幸との事前段階ではあるが、多分大丈夫みたいだ。
宇喜多家も西に三村家、北に松田家と浦上家がいる状態で、更に織田家と戦っている余裕はないはずだ。
この四家が滅んだり、同盟を結んだりしない様に見張っていれば何とかなるだろう。
俺の後任の為に頑張って色々整えてやったんだ。
褒美に近江にデッカイ領地が欲しいな。
「傳兵衛殿、少し宜しいか?」
花房正幸との話し合いを終えると、それを待っていたかの様に、別の者に話しかけられる。
見ると、和田家の高山友照だった…。
話したくねぇ~。
宇喜多直家とは別の意味で、お近付きになりたくない人物だ。
「これは飛騨守殿、如何なされた?某に何ぞ御座ったか?」
「いえ、傳兵衛殿の事は以前よりアンリケ殿より伺っておりましたが、この機会に是非話でもと…」
アンリケ…アンリケ…外国人に会った事はないから、誰かの洗礼名だよな?
俺の事を知っていそうなキリスト教徒といえば…結城進斎先生か!
確か、進斎先生の洗礼名がアンリケだった様な気がする。
進斎先生経由で俺の所に来るなんて、キリスト教関連の話だよなぁ…
意表を突いて、剣術の話だったらいいなぁ…
「実は某、此度の戦で得た領地を任される事になりましてな。その事で傳兵衛殿に一つ御教授願いたい」
何を?
多分、あんたの方が知識あると思うよ?
「はて?浅学の身なれば、飛騨守殿の御役に立てるとも思えませぬが…」
「何を仰られるか。傳兵衛殿の見識の深さにはアンリケ殿も一目置いておられる」
「進斎先生にそう言って頂けるとは…」
有り難迷惑ッス。
「某、新たに得た領地に天主教の教会堂を建てようと思うのですが、是非とも傳兵衛殿の御力を御貸し願いたい」
「は?」
えっ?備前国の三石に教会建てるの?
英賀三木家の一向衆、備前松田家の法華宗だけでも面倒臭いのに、それに加えて三石にキリスト教だと?!
この世の地獄かよ…
「傳兵衛殿は宗門に明るく、南蛮人への偏見も少ないとアンリケ殿からも聞いております。教会堂を建てるなら、傳兵衛殿の意見を聞いてみてはと、アンリケ殿からも言われております」
進斎っ!!!
係わり合いになりたくねぇ!!!!
兎も角、遠回しに法華宗と一向衆の話を出して、友照には何とか諦めてもらう方向で頑張ろう!
いや、こっそり裏から手を回して潰すか…
話し合いが終わって諸将が去ると、山内次郎右衛門と本多弥八郎を呼び出す。
「次郎右衛門、お主は島田弥右衛門殿と共に一足先に京へ戻り、我らが戻った時の宿の手配と、昨年手に入れた山科西山の地に屋敷を建てさせよ」
次郎右衛門には、先に戻って俺たちの受け入れ先の確保をしてもらわないと。
伊勢攻めを終えた親父たちも京へ戻ってくるだろうし、宿の予約を入れておかないとな。
京にいる家臣たちは、俺が定宿にしている妙覚寺にそのまま入っているはずだけど、殿に出て行けと言われるかもしれないし。
それに山科西山に、昨年は時間がなくて建てられなかった屋敷を建てよう。
仮屋敷だけでも建てておけば、今年の冬に使えるだろう。
「それに次郎右衛門には、もう一つやってもらいたい事もある」
次郎右衛門には、高山友照が備前に教会を建てようとしているのを邪魔してもらわねばならない。
これから弥八郎と一緒に策を考えよう。




