305 まだ帰っちゃダメなのね
摂津衆と別所家が備前浦上家を降伏に追い込むと、各地で起こっていた戦も徐々に収まっていく。
これから殿に報告する前に、ある程度事前に決めておく為の交渉をするのだが、島田弥右衛門殿に任せればいいやと思っていたら、流石に俺も参加しろと連行された。
参加メンバーは、織田家から俺と島田弥右衛門殿、摂津三守護の池田家から荒木村重、伊丹家から北河原三河守、和田家から高山友照の三人、別所家の三宅政忠、龍野赤松家の内海勘解由、宇喜多家の花房正幸、備前浦上家の大田原与三左衛門、赤松宗家の鳥居安芸守、小寺家の小寺官兵衛の11人。
まず、赤松宗家と小寺家の扱いはすぐに決まった。
普通に戦費賠償してもらって、人質も出してもらう。
当然、この戦いで削られた両家の領地は、そのまま別所家の物になり、そのうえ龍野赤松家へも多少の領地を割譲する。
俺としては龍野赤松家に領地を割譲などしたくはないが、勝利陣営に属しているのに何もないのでは龍野赤松家は納得出来ないだろうし、仕方ないね。
次に浦上家だが、赤松宗家や小寺家と同じく戦費賠償に、播磨国の領地と備前国邑久郡全郡と和気郡の金剛川以南の領地の放棄を命じられた。
まあ、俺達が攻め取った所をよこせという事だな。
はっきり言って、赤松宗家や小寺家よりも酷い状況だな。
赤松宗家に援軍を出しただけなのに、タコ殴りにされて、大幅に領地を削られる羽目になってしまうなんて…なんて可哀想なんだ。
まあ、この敗戦した三家は、元々は滅ぼされる予定だったものが、俺の温情で助かったのだから、もっと俺に感謝して欲しいものだ。
一方勝った方の陣営だが、先ず別所家には、彼らが戦いで奪い取った小寺家と赤松宗家の領地が与えられている。
はっきり言って別所家が、一番得をしてるんじゃないだろうか?
摂津三守護は、池田家が明石家の領地だった和気湊…浦上家の天神山城のすぐ南辺り、和田家が和気郡三石付近と播磨赤穂郡の北西部、伊丹家が赤穂郡北東部と摂津の越水城付近一帯を与えられた。
伊丹家が与えられた越水城付近一帯は、瓦林家の物だったが、いつも篠原家によって落とされているので没収されて伊丹家に与えられる。
でも、また落とされて、今度は伊丹家の失点になるんじゃないかなぁ…
それに、池田家と和田家は飛び地を貰って嬉しいんだろうか?
まあ、あがりが増えるから嬉しいか…
誰か代官を置くなり、家臣の誰かを左遷させるかするんだろうな。
ここまでは、スムーズに話が進んだが、問題はここからだ。
先ずは宇喜多家だが、浦上家からの独立を認められ、いちゃもんをつけて金光家から奪い取った上道、御野両郡にあった領地をそのまま与えられた。
それは良いのだが、問題は反乱を起こし砥石城を乗っ取った大和守家の五郎左衛門が、島田弥右衛門殿に臣従を認められ、浦上宗家の家老として迎えられてしまった。
しかも、領地を抱えたまま…
元々、大和守家先代の宇喜多国定は、浦上久松丸の祖父である政宗の後見をしていたからな。
全く…面倒臭い事になるんだから、五郎左衛門の身柄なんて直家に差し出しておけばいいものを…
そして一応勝った側に属している龍野赤松家にも問題が。
浦上宗景によって奪われていた揖西郡と揖東郡にある領地の回復と赤松宗家からの領地の割譲は問題ないのだが、官兵衛率いる浦上宗家が那波や相生、室津等の領地を奪い取った事に文句を言っている。
あと、宗家の復興など許せない備前浦上家と、裏切り者の大和守家に領地を奪われた宇喜多家も、浦上宗家に対して「異議あり!」と反対を表明している。
折角、宇喜多直家の機嫌を取ろうと頑張ったのに、弥右衛門殿の迂闊さには、やれやれだぜ。
弥右衛門殿なら上手くやってくれると信じて任せたのにな!
いや、押し付けてゴメン…
でも、ここは断固、無関係な振りをさせていただく!
官兵衛が皆に対して、浦上宗家の正統性と今回の戦いでの貢献度を訴えている。
言ったところで備前浦上家と龍野赤松家、宇喜多家は認めないから無駄だけどな。
「与三左衛門殿、敗れた家は勝った家に、黙って従えば良いのだ。勘解由殿に御両人が何と言おうが、浦上家の総領は久松丸様だと、大樹も御認めになられた事に御座る。それとも何か?勘解由殿は大樹の御言葉には従えぬと申されるか」
官兵衛は、内海勘解由と花房正幸に対して、ドヤ顔で将軍のお墨付きマウントを取る。
浦上家の大田原与三左衛門に関しては、無視するみたいだし。
「小寺家も織田家に、為す術もなく敗れたではないか!何を戯けた事を申しておる!」
与三左衛門が官兵衛に激昂しているが、官兵衛は涼しい顔で返す。
「某は今、小寺家の家老としてではなく、浦上久松丸様の後見人として発言しているのだ。浦上宗家の織田家への貢献を考えれば、其方等に文句を言われる筋合いはない」
確かに浦上宗家は臣従してから、播磨国赤穂郡や備前国和気郡の切り取りに活躍していて、あまり備前国で勢力を増す事が出来なかった宇喜多家や、やられる一方だった龍野赤松家よりも貢献度は高い。
「左様。此度の浦上宗家の働きは、大樹も大層御喜びになられておられる。よって、その働きに見合った褒美を出さねばならぬ」
弥右衛門殿も官兵衛に援護している。
俺は不満気な表情で弥右衛門殿を見るが、口は出さない。
弥右衛門殿が俺と目が合って、体をビクッとさせた様な気がするが、きっと気のせいだろう。
宇喜多家の花房正幸と目が合うが、俺は如何にも不本意ですといった表情を浮かべ、小さく首を振って、俺の心情的には宇喜多家と同じだとアピールしておく。
これで宇喜多家からの恨みは、全て弥右衛門殿が引き受けてくれるといいな。
実際、浦上宗家の復興について、不本意な事が一つあるし…
結局、官兵衛と弥右衛門殿が押し切って、浦上宗家の復興と揖西郡南部と備前国豊原庄の領有を認めさせた。
豊原庄は宇喜多大和守家が元々領有していた土地だな。
あと、まだ幼い当主である久松丸の後見人には、官兵衛と俺がなる事となった。
俺は嫌がったのだが、弥右衛門殿に久松丸を担ぎ出した責任を取れと散々諭され、不本意だが渋々受ける事になってしまった。
俺、京に帰れるんだよな?
嫌だぞ!化け物共の化かし合いに付き合うのは!
あと、織田家と足利家の取り分は、播磨国赤穂郡南部、備前国和気郡と邑久郡の瀬戸内海沿岸部、それに備前明石家から攻め取った物理・保木周辺…その他少々なのだが…
備前明石家の元領地である物理、保木が邪魔だな。
宇喜多家の沼城のすぐ北にある飛び地だしなぁ。
宇喜多と浦上家を噛み合わせたいのに、それを邪魔する位置にあるからなぁ。
まあ、無事に調停が終わった事だし、面倒な事は後で考えるとして、さっさと京へ戻るとしよう。
「傳兵衛殿、新たに殿の命があるまで此処に残り、播磨備前の事、宜しく御願い致す。殿より追って話があろう」
あっ、まだ帰っちゃ駄目なのね。
そりゃ、領地を放っぽり出して帰れないよなぁ。
…はぁ。




