303 俺は無実だ!
落とした富田松山城に谷野大膳を入れ、後の事は島田弥右衛門殿に任せて、残りの兵で宇喜多直家がいる沼城に向かう。
空いた水軍には海沿いに虫明、牛窓と行ける所まで西を攻めさせる。
富田松山城を織田家が制し、邑久郡の有力国人である鷹取備中守や宇喜多五郎左衛門がこちらに付いたので、孤立した小勢力では太刀打ち出来ないだろうから簡単に降伏してくれるんじゃないかな?
途中、こちらへ降った狐塚城の日笠源太、香登城の鷹取左衛門に出兵を促して、兵の数を増す。
沼城に到着すると、城に籠もる宇喜多家は備前明石家と睨み合いになっていた様だが、備前明石家は俺達の兵を見つけた途端、沼城周辺から兵を退いていった。
いよいよ宇喜多直家と対面か~。
直家の城に入るのは、なんだか気が進まないなぁ。
なんとか城に入らずに済ませたいな。
「宇喜多家家臣、花房又左衛門に御座る。此度の後詰め誠に忝ない」
花房又左衛門…弓で有名な知勇兼備の重臣、花房正幸かな?
「織田家家臣、森傳兵衛に御座る」
「我が主、宇喜多三郎右衛門が是非、傳兵衛殿と話がしたいと待っております」
え?嫌ですけど!なんて断れたらいいのになぁ。
「承知した、直ぐに伺おう。それと、連れてきた兵だが、城内で休めることは出来ようか?」
俺の言葉に又左衛門の顔が少し曇る。
「申し訳御座らぬ。仕度が出来ぬ故、今暫く城外にて御待ち頂きたい」
まあ、直ぐにウチの兵を城内に入れろって言っても難しいのは分かるが…何か怪しく思えてしまうなぁ。
俺は入りたくないから別にいいんだけど、そうなると少人数で直家と対面しなきゃならないのかぁ。
ちょっと供回りは、武闘派ばかりを揃えた方が良いか。
俺が岸新右衛門、仙石新八郎、野中権之進、可児才蔵、加治田新助、木村又蔵の6人、官兵衛が3人連れて、宇喜多直家の許へ向かう。
官兵衛の家臣か~。
有名な奴ばかりなんだろうな~。
欲しいな~。
とか思って眺めていると、一人見覚えのある様な気がする奴がいる。
どこかで会った気がするといっても、去年の播磨の襲撃以外に会う機会なんてないが。
そうだ、俺が倒した敵を助けに来た奴の一人だな。
ニヤリと笑みを浮かべると、向こうもニヤリと返してくる。
後で時間のある時にでも話しかけてみるか。
花房正幸によって沼城へ案内され、宇喜多直家の前に通される。
「よくぞ御出で下された。宇喜多三郎右衛門に御座る」
「織田家の森傳兵衛に御座る。此方は小寺家家老、小寺官兵衛殿」
直家の挨拶に俺も応じると、ついでに隣に居る小寺官兵衛も紹介する。
「小寺家の官兵衛に御座る。今は織田家に従い、浦上家と戦っております」
直家は官兵衛の事が気に入らないのだろう、顔を顰めている。
「ところで三郎右衛門殿。今、我等の兵は城外に留め置かれておりますが、城内に入れる事は?」
「申し訳ないが出来かねる」
官兵衛が兵を城に入れられるか尋ねるが、直家は拒否してくる。
何か俺達を警戒している様だ…。まさか、大和守家のバックに俺がいる事が…弥八郎が勝手にやった事だけど…バレている?
先ずは本当に知っているか確認しないと!
「兵を城に入れず留め置いた事についての説明を頂けますか?」
「傳兵衛殿は、当家の大和守家の五郎左衛門が砥石城にて離反した事を御存知か?その五郎左衛門よりの書簡には、織田家の後ろ楯があると書かれておった。まさか、本当の事ではありますまいな?」
そう言うと、俺をキッと睨み付ける。
マズイ!バレとるがな!
五郎左衛門も書状を奪われたりすんじゃねぇよ!
まさか、その書状に俺の名前が書いてあったりしねぇだろうな?!
「ふむ、その書状を拝見出来ますか?」
震えそうになる声と指を必死で堪えて、直家から五郎左衛門の書状を受け取り読む。
…バッチリ俺の名前が書いてあるし!!
もしかして俺、ここで殺されるん?
冗談じゃない!何としても、この場を切り抜けないと!
どう反応すればいい?冷静な態度の方がいいのか?逆に慌てた方がいいのか?
官兵衛に書状を回し、少しでも時間を稼ぐ。
「成る程。確かにこの様な事が書かれておれば、我等の兵を城に入れる訳にはいかぬな」
直家の行動に理解を示し、俺は関係ないですよアピールだ!
「しかし、この様な荒唐無稽な出鱈目を信じて、後詰めに来た我等を城に入れぬとは、些か礼を失してはおらぬか?」
官兵衛も状況を察して、こんなデマ信じるなんて直家は馬鹿か?って、雰囲気で話を合わせてくれる。
「いやいや、某でも城には入れぬ。良からぬ事をされては堪らぬからな」
兵を入れない事に理解を示す俺と、どうしても入れたそうな官兵衛。
直家の心情に理解を示す事で、浦上家や赤松宗家の策謀だと誤解してくれよ!
暫く官兵衛と二人で、直家の表情を盗み見ながら、兵を城へ入れるの入れないのと問答を繰り返し、最終的に俺の意見を通す。
兵を入れない事で纏まった事に、直家は予想が外れたのだろうか、怪訝そうな顔をしながら思案している様だ。
よし、これ以上この話題で考えさせるな!
別の話題を振って誤魔化せ!
「我等は城外に陣を敷く事にするが、これから三郎右衛門殿は如何なされる?我等は三郎右衛門殿の都合に合わせよう」
俺の言葉に直家は少し考える。
裏切る可能性のある俺達の扱いに困っているのだろうな。
別行動しても、一緒に行動しても、安心出来ないしな。
「共に備前明石家を押し返して頂きたい」
直家は、俺達に別行動されるのを嫌って、共に備前明石家を追い返す事に決めた様だ。
「承知した。急ぎ戻り兵を動かそう」
うむうむと頷くと、備前明石家に対峙する事を了承し、堂々と出来るだけ急いで城を出る。
あっぶねぇ~、もう二度と宇喜多直家に会いたくないぜ!
そっと官兵衛の顔色を窺うと、心なしか青醒めている様な気がする。
官兵衛、ゴメンね。
俺の事だけは、嫌いにならないでね。
直家も、俺は清廉潔白、純真無垢で人畜無害な凡将だから、暗殺とか考える必要はないよ。
よし、備前明石家を追い返して直家に恩を売り、弥八郎の策謀を無かった事にしないとな。
ウチの脳筋共には存分に暴れてもらおう!
ある程度城を離れると、官兵衛の家臣の一人…去年会った武将がやってくる。
「傳兵衛殿、御見事に御座いました。何時、室外に配された宇喜多の兵共と斬り合いになるかと、冷や冷や致しましたぞ」
おおう!やっぱり直家は、俺達を殺す気満々だったのかよ!
「官兵衛殿も話を合わせてくれたのでな」
官兵衛の家臣だからな、官兵衛をヨイショしておこう。
実際助かったしな。
「いやいや、傳兵衛様の知略には頭が下がる思いに御座います」
うん?官兵衛の事は無視して、いやに俺を持ち上げてくるな。
「お主程の者に、その様に言われると何やらこそばゆいな」
俺が誉めると、そいつは満更でもなさそうな感じで笑みを浮かべる。
「某、母里家の武兵衛と申します。戦が終わった後で、話を聞いて頂ければと」
母里武兵衛って青山・土器山の戦いで討ち死にしたんじゃなかったっけ?
まだ生きてるのか…
「良かろう、お主なら何時でも歓迎致そう」
何か良く分からんけど、有名武将の訪問は大歓迎だぞ。
一部を除く…




