302 何故大事な時に!
宇喜多直家視点です。
備前国上東郡坂根村 宇喜多家当主 宇喜多三郎右衛門直家
「大和守家の五郎左衛門殿が、砥石城にて謀反。五郎左衛門殿より某に、沼城に火を放てとの文が届きました」
物理城を攻めている最中、馬場重介が五郎左衛門からの書状を差し出してくる。
その知らせを聞いて、目の前が真っ暗になる様な怒りを覚える。
あの馬鹿者は、何故この様な大事な時に事を起こすか!
しかも二度目ではないか!
重介が五郎左衛門の話に乗らず、知らせてくれた御陰で最悪の事態は免れたか。
五郎左衛門も、重介が父である大和守に仕えておったとはいえ、以前も同じ事をして断られておるにも係わらず、何故己に味方すると思うたか?
しかし、重介が五郎左衛門に靡かなかった事に笑みが零れる。
「よく知らせてくれた重介!」
「はっ!殿より頂いた『家』の字に誓い、決して殿を裏切る様な真似は致しませぬ!」
うむうむ、重介、これからも頼むぞ。
それはそれとして、重介から渡された書状を確かめねば。
書状は重介が言った様に、砥石城を占拠した五郎左衛門が、重介に沼城に火を付けるよう命じる内容だが…
うん?
書状には、五郎左衛門が織田家の森傳兵衛の支援を受けていると書かれておる。
まさか、信じられぬ!
何故織田家が儂の邪魔をするのだ!
五郎左衛門の背後に織田家がいるのならば、迂闊に攻める事も出来ぬ!
「一先ず沼城まで退く」
本当に五郎左衛門の背後に織田家がおるのか、確かめてからでなければ動けぬ。
素早く兵を纏めて、本拠の沼城まで退く。
沼城に退くと、今まで攻めていた備前明石家から逆に攻められる形となる。
そこへ砥石城を任せていた弟の六郎兵衛が戻ってきた。
「済まぬ、兄上!まんまと城を奪われてしまった…」
「六郎兵衛、よくぞ無事に戻った。城の事は仕方あるまい。誰が五郎左衛門の謀反を予想出来たか…」
顔を青くして頭を下げる弟に、慰めの言葉を掛ける。
「六郎兵衛、誰ぞ五郎左衛門を唆した者に心当たりはないか?」
「…いや、分かりませぬ。鷹取備中守が織田家に与した様に御座いますが、他の者共は動く気配は御座らぬ」
六郎兵衛は暫く考え込むが、心当たりは無さそうだ。
これはやはり、五郎左衛門の勇み足であったか?
「殿!只今織田家より当家への後詰めを送るとの知らせが御座いました!」
家臣の富川平右衛門が急ぎ知らせを持ってくるが…
織田家よりの後詰めだと!
やはり、五郎左衛門の戯言であったか…だが、儂を討つ為の方策やも知れぬか。
「何処の方が兵を率いておられるのか分かるか?」
「確か…森傳兵衛殿であったかと」
森傳兵衛か…書状にあった名に間違いないな。
「平右衛門、傳兵衛殿を城へ御迎えせよ。重介、腕に自信のある者を数人伏せておけ」
大丈夫だとは思うが、万が一の場合に備えておかねばな。
織田家からの後詰めは城には入れずに、森傳兵衛等数人だけを城へ迎え入れ対面する。
「よくぞ御出で下された。宇喜多三郎右衛門に御座る」
「織田家の森傳兵衛に御座る。此方は小寺家家老、小寺官兵衛殿」
傳兵衛に挨拶すると、隣に居る小寺官兵衛を紹介してくる。
「小寺家の官兵衛に御座る。今は織田家に従い、浦上家と戦っております」
ふん、浦上家と組んでおった小寺家が、織田家に従い逆に浦上家を襲うとはな。
「ところで三郎右衛門殿。今、我等の兵は城外に留め置かれておりますが、城内に入れる事は?」
「申し訳ないが出来かねる」
城外におる兵の事を官兵衛が尋ねてくるが、敵になるやもしれぬ兵を城内へ招き入れる事など出来ようか!
「兵を城に入れず留め置く事についての説明を頂けますか?」
当然、傳兵衛が織田家の兵を沼城に入れなかった訳を尋ねてくる。
「傳兵衛殿は、当家の大和守家の五郎左衛門が砥石城にて離反した事を御存知か?その五郎左衛門よりの書簡には、織田家の後ろ楯があると書かれておった。まさか、本当の事ではありますまいな?」
そう言うと、傳兵衛をキッと睨み付ける。
「ふむ、その書状を拝見出来ますか?」
傳兵衛の求めに応じ、五郎左衛門からの書状を渡す。
傳兵衛は暫く書状を読むと、頷いて書状を官兵衛に渡す。
「成る程、確かにこの様な事が書かれておれば、我等の兵を城に入れる訳には行かぬな」
「しかし、この様な荒唐無稽な出鱈目を信じて、後詰めに来た我等を城に入れぬとは、些か礼を失してはおらぬか?」
「いやいや、某でも城には入れぬ。良からぬ事をされては堪らぬからな」
意外にも傳兵衛は此方に理解を示しているが、逆に官兵衛は噛みついてくる。
官兵衛の方が、兵を城に入れたい様に見えるが…
これは、策を仕掛けたのは官兵衛の方で、傳兵衛の方は知らぬという事もあるのではないか?
儂らと敵対しておった小寺家の策謀というのならば、得心が行く。
だとすれば、小寺家の者にさえ気を付ければ、傳兵衛と共闘は可能か。
織田家の策謀でなければ、傳兵衛を殺す事は出来ぬな。
此処で傳兵衛を殺せば、浦上家の代わりに儂が織田家に討伐されてしまう。
自らの命を守る為に致し方なく殺すなら兎も角、浦上家の策謀に踊らされて傳兵衛を殺し、逆に討伐される訳には行かぬ。
とは言え、どちらにせよ、織田家の兵を城には入れられぬがな。
結局、傳兵衛が官兵衛を宥め、織田家の兵を城内へ入れない事で意見は落ち着く。
「我等は城外に陣を敷く事にするが、これから三郎右衛門殿は如何なされる?我等は三郎右衛門殿の都合に合わせよう」
傳兵衛の言葉に少し考える。
先ず論外なのは、共に五郎左衛門の討伐に向かう事と、織田家に沼城の守りを任せて儂等が五郎左衛門の討伐へ向かう事だ。
戦の最中に寝返られ、挟み撃ちにされるやもしれぬからな。
「共に備前明石家を押し返して頂きたい」
ここはやはり、備前明石家を押し返してから、五郎左衛門の討伐に向かおう。
どうやら傳兵衛…織田家は、変わらず当家の味方の様ではあるし、官兵衛に勝手な動きをさせねば問題なかろう。
傳兵衛の堂々と城を去る姿に、やはり浦上家辺りの策謀であったかという思いが強くなる。
漸く忌まわしい浦上家から独立出来るというのに、この様な策で躓くなど冗談ではない!




