301 就職活動
母里義時視点です。
播磨国飾東郡妻鹿村 小寺家家臣 母里雅楽助義時
「冗談ではない!官兵衛殿は、我等の命ばかりでなく、家まで潰せと申されるか!」
先の土器山の戦にて母里家は多くの連枝を失い、生き残ったのは儂と弟の武兵衛のみ。
その武兵衛も傷が深く、とてもではないが戦に出る事など出来ぬ…という事になっておる。
だが、いざ戦となれば武兵衛の事だ、槍を振るって活躍する事は出来よう。
しかし武兵衛に、その様な無理をさせる訳には行かぬ。
武兵衛は戦の傷が未だ癒えておらず、動けぬ事になっておる。
実際大怪我ではあるしな。
母里家がその様な状況なのに、再び官兵衛から出陣の要請が来る。
あまりの酷い話に、知らせを持ってきた従弟の曽我万助を怒鳴りつけるが、万助も引かぬ。
「ここが正念場なのだ。業腹だが、小寺家は此度の戦にて下野守と和睦致す事となった。しかし、浦上家の名を利用して今一度下野守に苦渋を味わわせる事が叶おうとしておるのだ!故に今一度!今一度だけ兵を出してもらいたい」
「馬鹿を申すな!それが出来れば、始めから文句など言わぬわ!お主でなければ、即刻斬り捨てておるところだぞ!」
万助を睨み付けるが、万助も目を逸らさず睨み返してくる。
「まさか、官兵衛様に従えぬと、妻鹿より尻尾を巻いて逃げ出すと言うのではなかろうな!」
この頑固者めが!
「良いではないか、兄上。尻尾を巻いて逃げ出したなどと言われるのは不本意極まる」
儂が万助を怒鳴り付けようとした時、弟の武兵衛が話に割り込んでくる。
「武兵衛!お主は黙っておれ!」
「そう怒鳴る事もあるまい、兄上。万助、帰って官兵衛殿に伝えよ。此が最後だと」
武兵衛の言葉の鋭さに、思わず儂も口を噤む。
「武兵衛殿、それは…」
「官兵衛殿の遣り様には最早愛想が尽きた。我等の連枝を悉く使い潰しただけでは飽き足らず、家まで潰されては堪らぬ」
武兵衛の不平に乗る形で、儂も官兵衛への不信を万助にぶつける。
「官兵衛殿は、これを機に当家を潰して妻鹿の地を手に入れたいのではないか?」
「官兵衛様が、その様な事をなされるはずがあるまい!」
万助は必死に否定するが、怪しいものだな。
その後、万助を追い返し、武兵衛と二人で話し合う。
「武兵衛、どういう積もりだ。あの様な物言いをすれば、此度の戦で本当に官兵衛に使い潰されるぞ」
此度の戦の後に出奔するなどと申しては、あの官兵衛の事だ、此度の戦で我等を死ぬまでこき使う事であろう。
「なに、此度の戦は織田家の者共に合力するとの事。我が武威を見せつけるのには絶好の機会に御座る」
成る程、織田家に対して己の力を見せつけ、仕官致そうという腹か…
刀を捨てて商人にでもなろうかとも思ったが、それも良かろう。
そうと決まれば存分に暴れてやろうではないか!
我等は織田家の森傳兵衛殿と合流し、赤穂郡を抜け備前国富田松山城へと攻め込む。
「雅楽助殿!武兵衛殿!我等は敵の後詰めの相手をせよ、との事に御座る」
従弟の曽我太郎兵衛の言葉に、弟と共にニヤリと笑みを浮かべる。
残念ながら此処まで大した戦がなかったが、漸く槍を振るう事が出来るな。
「行くぞ、武兵衛!太郎兵衛!遅れるなよ!」
二人に呼び掛けると、儂は真っ先に敵に切り込む。
「播磨者に負けるな!」
近くから上がる声にそちらへ目を向けると、織田家の者であろう一団が、我らと同じ様に敵へと向かって駆けているのが見える。
なんと!中にはまだ童ではなかろうかと思える者も混じっておるではないか!
しかもその童は、嬉々として一団の先頭を駆けておる!
織田家は、この様な幼い者も戦に出すのか…
「武兵衛!太郎兵衛!急ぐぞ!」
しかし、童などに一番槍を譲る訳にはいかぬ!
二人に声を掛けると、更に足を早める。
しかし、先の戦での傷が響いたのか途中で足が鈍り、まんまと一番槍をその童に奪われてしまう。
くそう!こうなれば将を討ち取らねば!
「兄上!白髭入道は彼方だ!」
流石は武兵衛、官兵衛の側にあっただけあって将の顔を覚えておった様だ。
武兵衛の声に従い敵将のいる場所を目指す。
織田家はどうやら、白髭入道が分からぬらしく、儂等よりも一手遅れておるな。
「今のうちに白髭入道の首を取る!急げ!」
儂が白髭入道の周りにいる兵に切り込むと、武兵衛と太郎兵衛が後に続き大暴れして敵を討ち取っていく。
周りの敵を倒していると不自然に圧が減った。
「白髭入道は?!」
嫌な予感がして、二人に尋ねる。
「居らぬ!」「逃げられたか!」
なんたる事か!
ここまで来て、みすみす取り逃がすとは!
「こうなれば一人でも多くの首を取るぞ!」
逃げ惑う敵の後詰めを、儂と武兵衛、太郎兵衛、それに織田家の者共が追い回す。
織田の者共に負ける訳にはいかぬ!
将の首を取れなんだ分、多くの首を取って織田家の将に良いところを見せねば!
しかし、残念ながら良いところが無いまま戦を終え、陣に戻る。
「参ったな。白髭入道の首をもって織田家に召し抱えられる算段だったのだが」
「取り逃がしたものは仕方あるまい。それに此度の戦には森傳兵衛殿は居らなんだ。活躍したとて目に留まる事もなかったであろう。次の戦にて傳兵衛殿の目の前で活躍すれば良い」
武兵衛の愚痴を聞きながら、先の事を考える。
「おう、二人共喜べ。次の戦じゃ」
太郎兵衛が、喜色を浮かべながらやって来る。
「おお!して、何処の者とだ?」
「宇喜多家の後詰めに沼城へ向かい、備前明石家と対峙するそうじゃ」
よし、次こそは良き働きをして見せようぞ!




