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第二章 10
「で。これ、どうするの?」
ターニャがシアの端末を返してくる。
女の指よりも細い雫型の端末。握っただけで簡単に壊れてしまいそうなそれを、掌の上で転がしながら、ドウマは思考した。
このタイミングでの指名が偶然のはずはない。
クジの罠か。
――危険な罠を用意してやれば、自分から飛び込んでくる。
ドウマは唇の端を上げた。
(甘いな。罠ごと破壊されることを考えなかったか)
「シアは仕事をもらうの、初めてだよ」
無邪気な声に、ドウマは無言でシアに眼を向けた。
あどけない貌に、嬉しそうな笑みを浮かべている。
「魔物なんだから、仕事があるわけないじゃない」
「魔物だと、だめなの?」
「人間はね、魔物を――」
「ターニャ」
低い声に、ターニャが口を閉ざした。シアは子供のように首を傾げている。
「仕事がしたいのか」
「うん。したい。してみたい」
ドウマはシアの端末をシアの首に戻した。
「なら指名に応じるといい。おれも行く」
「いいの?」
「いいよ」
わあ、と子供のように声をあげると、シアは、にこり、と笑った。




