第二章 11
ドウマが少女を連れて出て行くと、ターニャはカウンターから身を乗り出した。
「なにさ。生殺与奪権よりも危険なものって?」
伯爵は小さく笑った。やはり関心を持ったか、という貌だ。五歳児の貌ではない。
「ドウマオーマの力だよ」
「オーマの魔力ってこと?」
「魔力は知らない。それよりも、あの男がその気になれば人間は逆らえない。その力の方が怖い。見たことないかな?」
「ああ。そう言えば。あれって吸血鬼の催眠みたいなもの?」
「似て非なるものだ」
「どういうこと?」
「吸血鬼の催眠は魔力だが、ドウマオーマは魔力を使っていない。おそらく存在の次元が違うのだろうね」
「存在の次元?」
「食物連鎖の頂点のそのまた上に位置する、とでも言えばいいかな。蛙は蛇に睨まれればすくむだろう? あれと同じだ。魔力を使わなくても、ドウマオーマは人間を支配下に置く。そういう存在だ」
「それがあの子に?」
「そうだ。生殺与奪権どころではない。今やドウマオーマの全てがあの少女のものだ。ならば、あの少女が望めば、世界はどのようにでも転ぶだろう」
「転ぶ……」
「魔物が人間を支配する世界にも、人間の滅んだ世界にも――好きにできるだろう」
伯爵の眼が入口に向いた。すでにドウマ達の姿はないが、アッシュブルーの眼は冷徹な光を放った。
「人形のように邪気の無い少女だったが、子供とていつまでも無垢ではいられない。もしも、世界の破滅を望むなら……」
「あの子をどうにかする気?」
伯爵は答えなかった。ターニャは両眼を細くした。
「無理ね。オーマが許さない。『主人』じゃなくても女を傷つけさせることはしないわ。それに、あの子が人間の滅亡を望むなら、魔物なら願っても無いことじゃなくて?」
伯爵の眼が青白い光を放ちながらターニャに動く。
「あんたは違うみたいね」
ターニャは唇を歪め、そこに笑みを浮かべた。
「ねえ、伯爵。あんたは人間と魔物、どっちの味方なのかしら?」




