英雄の死3
さて、縮地を使うのも数十年ぶりだ。
平和になって久しい。
育ての親の刹那が教えてくれた技だが、まだ使いこなせるだろうか。
「大丈夫だよ、身についた技術は裏切らない」
抱き上げた春歌が優しく諭すように言う。
微笑んで頷いて、縮地を使った。
高々と飛び、屋根から屋根を駆ける。
「うーん、俺、現役でも行けるかも」
「魔力補正込みのパワーだよ。それは卑怯だから嫌なんでしょ?」
「それもそうだ」
あっという間に県境を越えた。
辿り着いたのは神奈川の山奥。
胸が傷んだ。
すっかり小さくなった親父。
しかし、魔力量だけは衰えない。むしろ全盛期にあるかもしれない。
彼はゆっくりと振り返った。
鋭い眼光だった。
「あんたぁ、手練だね」
若々しい口調に戸惑う。
親父はもっと落ち着いた物言いをしていた。
認知症。
その言葉が重々しく伸し掛かってくる。
平静を装って返す。
「ああ。これでもスキルユーザー異変を解決に導いた英雄だ」
「そりゃ心強いや。ここに、神様が眠っているって言ったら、信じるかい?」
春歌と顔を見合わせる。
親父は構わずに話を続ける。
「結界だ」
春歌が目を見張る。
「本当だ。確かに感じる。なんて秘匿性の高い結界……」
「多分、天界大戦の残党だと俺は見ている。一か八か一人で特攻しようと思っていたところだ」
その表情が、にっと緩む。
若い頃の親父の面影が蘇る。
「けど、あんたらが来てくれたなら心強い。アリエルはいないけど。一緒に方を付けるぞ」
涙腺が緩むのを感じながら頷いた。
この人は、最期まで戦士なのだ。
「ああ。任せろ」
これが親父との最期の共闘になると、俺は悟っていた。
親父は神秘のネックレスを取り上げられ、ただの老人になるだろう。
親父の最期の輝きだ。
つづく




