英雄の死2
晋太郎は京子と手を繋いでいた。
テーブルの向かいには春武の息子と自分達の娘。
もう随分大きくなった。
「君のお陰でここまでこれたよ、京子」
微笑んで言う。
「これでもラスボスですので」
京子はそう微笑んだ。
随分微笑み顔が柔らかくなった。
危惧していたような不可思議な力の遺伝はなかった。
それどころか運動神経も遺伝しなかったようで娘はてんで運動音痴だ。
水泳すら出来ない有様。
しかし、勉強がすこぶるできた。
食事を終え、鮮火が挨拶をする。
帰るつもりなのだろう。
追うつもりもなかった。
どうせまたやってくる。そう思った。
京子が緊迫した様子で後ろから駆けてきた。
「鮮火君!」
「なあに? 京子さん」
「お父さんとお母さんは用事で日本に行くって。貴方はしばらく、ここに泊まりなさい」
鮮火はきょとんとした表情になる。
「良いけど。なんかあったの?」
「ちょっとね」
京子は軽薄な笑顔で言った。
あ、無理してる時の顔。
鮮火が戸惑いながら部屋に戻っていく。
京子に訊ねてみた。
「なんかあったのか? 若返ってるぞ」
「スキルユーザーを私はもう持っていないわ。あれば、どれだけ良かったでしょうね」
京子は、目を伏せる。
「岳志さんが、認知症にかかったって」
衝撃を受けた。
MLB元選手のビッグネームだ。
一時代を築いた選手と言っても良い。
それが、認知症にかかった。
先輩であり元同僚である春武の心境を慮って、晋太郎は天を見上げた。
+++
井上家には春歌がいた。
春武は声をかける。
「おう、春歌。結婚式試合の日にやりやがって。おかげで行けなかったじゃねえか」
「まーだ言ってるんだ、その話」
呆れたように言う。
「魔力探知でもわからないか?」
彼女がいるなら目的はそれだろうな、と思った。
陰陽連でも熟練の術師春歌。
魔力探知なら親父の魔力も辿れないかと思ったのだろう。
「それが厄介でね。岳志さんの魔力が解放される条件は二パターン。決闘のクーポンの世界に入ることか、神秘のネックレスを装着すること」
「今回はそのどちらにも該当しないってことか」
顎に手を当てて考え込む。
「神秘のネックレス常用させなきゃ駄目か?」
「それは危険、普通にGPS持たせなさい」
「あ、それもそうだ」
「結構動揺してるね」
春歌が柔らかく苦笑する。
それが、春武の心を溶かす。
「事が事だからな。親父がそんなことになるなんて、考えもしなかった」
「うん。私もだ。あのパワフルな人がね」
その時、春歌の瞳が見開かれた。
「感じた。莫大な魔力放出量。なんて、馬鹿げた規模……」
震えるように言う。
「ああ、俺も感じた」
春武は北西を見据えて言う。
「親父だ。何かと戦っている」
それが無駄な破壊行動でなければ良いのだが。
「縮地で現地に急行する。来るか?」
「ええ」
春武は春歌を抱き上げると、タワーマンションのベランダに出た。
「勤が見たら怒り狂いそうなポーズだな」
「彼も年を取って、若干落ち着いたよ」
苦笑する春歌だった。
つづく




