脇役の花道6
「っつーわけで晋太郎のお節介で野球の仕事をしてきたわけ。今日のお賃金」
そう言って上機嫌に恋人に封筒を差し出す。
それを、恋人は優しい表情で押し返した。
「なんだよ、いつも具材とか持ち込みだろ? 取れるうちに取っとけよ」
「いいんだ。大学復学に必要でしょう?」
目に涙をためながら言う。
はっとして、その涙を指で拭ってやった。
「私はね、高校時代いつもグラウンドに一番に出てバットを振ってる君を見てた。一生懸命で。格好良かったな」
「まだ、天才に勝てると思ってた時期だ」
苦笑交じりに言う。
「気がつくと君のプレーに一喜一憂していた自分がいた。ヒットを打って我がことのように喜んだり、凡退して一緒に悔しがったり。私は野球をやっている君にときめいて、話しかけたんだよ、雄一」
頭が真っ白になる。
奇跡は、起きていた。
安易じゃない奇跡。
努力による奇跡。
出会いという奇跡。
「今更、野球なしの人生なんて考えられないでしょ?」
「……大学卒業したら、メキシコでも、台湾でも、拾ってくれるとこに行こうかな」
ぽつりと、呟くように言う。
照れくさくて、そっぽを向きながら。
恋人は微笑んで頷いた。
脇役には脇役の道がある。
春武や晋太郎のような太陽の光がまばゆくて時々道を見失いそうになるが。
何度でも彼女がその花道に引き戻してくれると思った。
「もう一度惚れ直させてやる」
そう言って、靴をはく。
「何処行くの?」
「ランニング!」
駆け出した。
流した汗は心地よく、一瞬だけ高校時代がフラッシュバックした。
もうこの気持ちは見失わない、そう思った。
つづく
この回は終わり




