手からこぼれ落ちたもの、残ったもの3
ギシカの来訪の目的は、安倍晴明の残した書物を読むことだという。
それならそうと前もって言ってくれれば二度手間を省けたものを。
「安倍晴明の直接残した秘匿文献はそれぞれ末裔である六大名家の管轄です。特にそうですね、一番多いのは五階堂家でしょうか」
「では、案内お願いします」
「車を用意してあります。どうぞこちらへ」
それならそれで五階堂家の当主が護衛に出れば良かっただけの話なのだ。
しかし、彼女は血を絶つと言った。
尋常な話ではない。
その真意を聴きたいのだが、それにはチームのメンバーが邪魔になってくる。
他の人間がいたら彼女も本音を言いづらいだろう。
「五階堂家に連絡入れて。当主に井上議員の意向を伝えて」
「了解しました」
車を発進させる。
上手い具合に後部座席にギシカと二人きりになれた。
「血を絶つとはどういう意味で?」
小声で話しかける。
「……私は、悪魔と人間のハーフなのです」
ギシカは消え入るような小声で言った。
その一言で思い出した。
天界大戦の残党狩り最期の決戦。一定以上の権限を持つものにしか知らされてはいないが、黒幕との戦いは神、悪魔、人の混合チームによるものだったという。その時の悪魔が、ギシニル。今の魔王だ。
「感情が高ぶると魔族の血が色濃く出る。そんな自分を嫌悪してきました」
深刻な表情だ。
けして涼子にはわからない悩み。
「半神である自分の神格を消して宮廷に潜り込んだ安倍晴明の書物ならば、その血を抑えるヒントがあるのではないかと考えたのです」
「なるほど。しかし、性急でしたね?」
そこまで言って、直感で思った。
「貴女、妊娠していますね?」
ギシカは押し黙った。
なるほど、自分の嫌悪する血を引き継がせたくないというわけか。
しかし、ベテランの涼子にはわかる。
半神、半魔というものは切り離せるものではない。
安倍晴明は規格外の術師だ。
だから、隠せた。
切り離したわけではない。
それをどこまでこの娘が理解しているか。
五階堂家に入るギシカが出迎えられる。
それを見送ると、部下の一人が不平を上げた。
「私情から話しかけないんじゃなかったでしたっけ」
「隊長ばっかりずるいですよ」
「悪い悪い」
苦笑して返す。
ベテラン、隊長、数少ない涼子の手のひらに残ったもの。
見事なほどに仕事関係ばかりだ。
「で、聞き出せたんです? 井上ギシカの秘密」
「あー、それはねー……」
涼子は正直に言うわけにもいくまいな、と思った。
「聞いたら上から記憶消されると思うけど、それでも聞く?」
皆、震え上がって黙り込んだ。
ベテランというのも中々上手く立ち回るものだ。
そう自分自身に感心した涼子だった。
つづく




