手からこぼれ落ちたもの、残ったもの2
涼子が陰陽連に行くと、既に護衛チームのメンツが決まっていた。
涼子はそれを率いる小隊長と言う括りになるらしい。
なるほど、いくら平和になったと言っても単独護衛なんて任せられるのは刹那クラスだけということか。
黒塗りの車に乗り換え、京都駅のホームに並ぶ。
「昔はもっとやんちゃ臭い場所だったんだけどね」
涼子は零す。
「と言いますと?」
部下の一人が問い返す。
「京都タワー。今じゃすっかり綺麗でしょ? 昔はやっちゃんなんてパチモン売ってたのよ」
「ああ、二階堂家の紗理奈さんも言ってました。けど、やっちゃんってなんのパチモンなんですか?」
押し黙る涼子。
なっちゃんが通用しない時代になってしまった。
不味いことでも聞いてしまったと思ったのかその部下も押し黙った。
「護衛対象の到着時刻は?」
涼子の問いに即座に返答が来る。
来訪決定から実際の来訪までが性急だ。
まるでなにかに焦るかのように。
なにに焦っている?
そんな疑念を抱く。
「急な話ですよね」
同じことを思ったらしい。部下が零す。
「私もちょうど同じことを思ってたとこさ。なんだか変な話だね」
世間話のように言う。
それで気を良くしたのか、若い部下も話に乗ってきた。
「井上六華と言えば旦那いないんですよね?」
意外な言葉だった。
「娘がいるってことは、別れたとか?」
「私生児のようです」
「私が知ってる六華はブラコンだったなあ」
「まさか兄の子、とか」
「まっさかー」
言って、空恐ろしくなる。
それをやりかねないのが当時の六華だった。
しかし、と思い直す。
「それならギシカって名前の由来はなんだろう? カは六華のカだと思うけど」
「ギシ……とんと検討が付きませんね」
「時刻だ」
一人が呟くように言い、皆押し黙った。
「良いかい、私達はプロの護衛だ。私情から話しかけたりしないように。聴かれたことだけ答えるんだ」
「了解」
皆が唱和する。
良いチームだ。
そう微笑んだ。
果たして、護衛対象はやってきた。
大胆なことに単独行動だ。
荷物も持ってきていない。
本当に、身一つでやってきた感じ。
その気配。
隠していてもわかる。
その違和感から、涼子は彼女に歩み寄っていた。
「井上ギシカさんですね、陰陽連の者です」
「お世話になります」
感情を表さないか細い声で言う。
その耳に、耳打ちした。
「貴女、純粋な人間じゃありませんね?」
ギシカは目を丸くする。
「わかりますか」
「ベテランですので」
自分の手のひらに残ったもの。それは、経験値。
ギシカは一つ頷く。
「その血を絶ちに、この地に来たのです」
そのギシカの覚悟のこもった言葉に、今度はこちらが目を丸くする番だった。
つづく




