年の差ラヴァー5
五年間。
色々なことがあった。
春武のライバルの信玄がデキ婚したり、春武とその同僚の晋太郎に子供が出来たり。
WBCで日本が優勝したり。
二階堂家が当主代行を立てたり。
このまま春歌が帰ってこなければ代行がそのまま当主になるだろうという見込だ。
色々な時間を過ぎても鮮明なのは、あのキスの感触。
それだけは色褪せぬまま勤の中に残っている。
「お前さんから天界に行くことは出来ないのかい。お前にも流れてるんだろう? 神の血が」
「俺達は末裔ですからね。血が薄いんだ。今回春歌が行けたのは堕天使が迷惑をかけた詫びも兼ねた現地調査ですよ」
「それにしても、時間、かかりすぎじゃねえか。お前さんも、次を考えた方が……」
「俺は待ちます」
淡々とした口調で言う。
「待つことしか、出来ないから」
昔からそうだった。
奔放で色々な事件に介入する春歌。大学の授業やその後の仕事に熱中する春歌。
自分はその度、待つ選択肢を選んだ。
今まではそれで正解だった。
けど、これからは?
そんなことを考えて、頬を張る。
(信じて待てば良いんだ……)
そう、自分に言い聞かせる。
ただ、その雑念がよぎってから、仕事の質は落ちた。
「ちょっとしばらく休みな。そして、今後について、少し落ち着いて考えてみろ」
親方からの、困ったような言葉。
事実上の戦力外通告だった。
昼の公園のベンチで天を仰ぐ。
勤ももう三十代。
働き盛りのオッサンである。
それが昼からベンチ。
「はっ」
自嘲しか湧いてこない。
春歌と過ごした記憶だけは鮮明で、今は置いてけぼりにされている。
待つと決めた。
その覚悟だけは、揺るがなかった。
ある晩のことだった。
二階堂家でも扱いに困られている勤だが、ふと、夜空を見上げたくなった。
春歌は今、この空の上にいるのだろうか。
まんまるな月が輝いている。
その月に、シルエットが覆いかぶさった。
人だ。
それも、巨大な魔力を持った。
それはみるみる内に近づいてくる。
また堕天使か?
身構えた勤だった。
精霊クラスなら進歩した今の六大名家なら対処できるが、天使クラスはちと厳しい。
そして、その警戒はすぐに解けた。
涙が出てきた。
春歌の気配だ。
魔力の規模こそ段違いだが、間違いようのない。
春歌の気配だ。
「おーい!」
春歌がそう言って空から抱きついてくる。
それを、抱きしめ返した。
「……遅かったな」
「いや、ちょっと良い師匠に会ってね。天界なんて中々行けるところじゃないから、ちょっと長居しちゃった」
「マイペースなお前らしいよ。俺は振りまわっされぱなしだ」
そう言って、ぽんぽんと背を叩く。
「けどね」
春歌はそう言って、顔を離して勤を見る。
「これぐらいの年齢になれば、六歳や七歳ぐらいの年の差なんて、もう気にならないよね」
二十代後半に差し掛かった春歌。
美しさは絶頂期にあるだろう。
傾国の美女と言ってもあながち言い過ぎではない。
「また綺麗になったな」
二人、微笑む。
「勤はいつもそれだ。さー跡取り作るぞー!」
「ちょ、おま、それ、あまりに風情がない」
「嫌?」
「……正直、一人きりで残されるのは二度とごめんだ」
「じゃーレッツゴー!」
そう言ってずんずん引きずられていく勤なのだった。
涙を拭う。
師匠を見つけた? 鍛錬を積んでいた? 勝手過ぎる。
けど、それもひっくるめて、春歌が好きなのだ。
これからも自分は待とうと思う。
それが自分達夫婦の形なのだろうと思う。
その春、二人は小さな結婚式を上げた。
新婦のお腹はすでに膨らみ始めていたという。
つづく
この回はこれにておしまい。
前作90万文字で今作10万文字。
合わせて100万文字。
二年がかりとは言え相当書いたものだとつくづく。




