年の差ラヴァー3
この度勤は四階堂勤から二階堂勤になった。
二階堂家に婿入した形だ。
その変化に、思わず頬が緩む。
結婚生活にはまだ至っていない。
相手の春歌は陰陽連の仕事が楽しくて仕方ないらしく二階堂家の当主の面目躍如と言った感じだ。
一方勤は鍛冶家業。
連絡の頻度はむしろ減ったし、結婚しているという実感は正直薄い。
「よう、二階堂勤」
親方が冷やかし混じりに声をかけてくる。
「まだ同居どころか同棲もしてないですけどね」
親方が目を丸くする。
「今時なのやら古風なのやら。じゃあ子供とかも随分先かい」
「仕事楽しいって言ってるから……けど二階堂家の後継ぎは必要だから後々そういう話も出てくると思います」
「悠長だねえ。まあキスぐらいは済ませてるだろ?」
勤は黙り込む。
「マジで?」
親方は再び目を丸くする。
「元々年の差があるんで。壊れ物を扱うようにしてきたんですよ。手は繋いだことはあるんですけどね」
「繋いだことはあるって、おいおいおい……」
親方が言いたいことはわかる。
わかるのだが、不器用な勤なのだった。
「鍛刀じゃもう一人前なのにそっちの方は器用にいかんか。先が長いね、お前さんも」
「陰陽連から貢献の報酬は貰ってるから収入は安定してるんですけどね」
「四階堂家から祝い金みたいなものはなかったのかい」
「それが元後継ぎ候補でしょ? 裏切ったような形になって。当主の与一さんは良くしてくれるんだけど、正直縁切りに近い形ですね」
「あー……」
親方が肩を叩いてくる。
「ま、頑張れ」
「仕事をこなすだけですよ。俺が良い武器を作ればそれだけ陰陽連の皆の生存率が高まるんだ」
「不器用な奴だよお前は」
そう言うと親方は去っていった。
不器用。本当にそう思う。
その点、幼い頃からライバル視していた春武は要領が良かったなと思う。
あっちは六階道家の当主に育てられたわけだから育ちはそんなに差が無いように思うんだけど、どうしてこうも差がつくのだろう。
昔からそれがコンプレックスだった。
しばらく、春歌とのデートも減った。
仕事に熱中しているのか連絡の頻度も減った。
しかし、結婚したという約束がある。それが勤を保たせてくれていた。
そんなある日のことだった。
「疲れたよー」
久々のデートの第一声がそれだった。
「天才のお前がそんなことを言うなんてよっぽどだな」
「今回は堕天使が相手でね。少々死者も出た」
勤はぎょっとする。
春武や愛が神格相手にも普通に通用しているから忘れがちだが、精霊、天使クラスでも人間にとっては相当の脅威なのだ。
かつての安倍晴明復活騒動では精霊の襲撃であかねの部隊が大打撃を食らった。
「生き残ったってことは勝ったってことだな」
胸を撫で下ろす。
「それでね、ちょーっと厄介なことになってね」
春歌は目線をそらす。
「ちょっと天界に行くことになった」
ぎょっとする。
半神である安倍晴明の末裔の末裔である自分達には確かに天界に足を踏み入れる自由があるだろう。
「どれほど長引く? 潜入捜査のようなものか?」
「近いね、時期はまだわからない。今回の堕天使の件が尾を引いてなければすんなりと終わるかな」
待ってくれ、行かないでくれ、そんな言葉が喉元まで込み上がってくる。
自分達は結婚したではないか。
キスすらまだしてないのに長距離恋愛になるのか?
そんな戸惑いがある。
出てきた言葉は予想外のものだった。
「俺に、お前の武器を作らせてくれないか?」
春歌は目を丸くした。
そして、目を細めて微笑んだ。
「今の扇子、気に入ってるんだ」
そして、言葉を続ける。
「扇子型なら、良いよ」
さて、自分達の恋愛も随分迷走してきた。
それでも、彼女のために送ろうと思う。
極上の一品を。
「一週間、時間をくれ」
春歌は一つ頷いた。
「そうと決まったら今から作り始める。材料の吟味からだ。今日のデートはキャンセルだ」
「良いの? 私、天界行っちゃうからゆっくりできるの最期だよ?」
「俺の武器で帰ってこさせる。いくら天才とは言え神格がうようよいる天界は危険だ」
「そか」
春歌は満足げに言う。
「愛されてんだ、私」
「今更だよ!」
大声で叫んだ勤だった。
悲鳴に近かったかも知れない。
最早自棄っぱちだ。
いくら不器用とは言えここまで自分の愛情が伝わっていないとは、流石に思っていなかった勤だった。
つづく




