年の差ラヴァー2
久々に会った春歌は、綺麗さに磨きがかかっていた。
色白の肌に黒曜石のような長髪。小さな顔に大きな瞳。
「また綺麗になったな」
大真面目に言う。
「またそれだ」
春歌は滑稽そうに笑う。
「そうか?」
勤は戸惑いながら言う。
「昔からだよー勤ー。会う度に綺麗になったなって。昔の私は随分それに戸惑ったもんだった。勤が寡黙だったから尚更ね」
「お前を意識してたんだよ。けど、認めるのも難しかった。俺達は年の差がありすぎた」
「そうだね、本当に、そうだ」
そう言って、春歌は勤の腕に自分の腕を絡ませる。
「私の人生の半分以上は、勤と歩んできた道だ」
その一言に、胸が弾む。
これは、色よい返事が貰えるのではないか? そんな期待が高まる。
「そういや春武、すっかりメジャー定着したねえ」
「そうなのか?」
「ニュース見てないの? 井上二世って一大フィーバーよ」
「あいつの場合、親父さんが偉大だったからな。比較されて良く曲がらずに育ったもんだ」
「ま、私の場合は天才だから小さい頃からチヤホヤされて育ったけどね」
だからマイペースなのかなあ、なんてことを心の何処かで思う。
喫茶店に入り、抹茶ラテを二人で頼む。
春歌の大学の話に相槌を打ち、時に返事をする。
元々、話し上手な方ではない。
春歌への告白が遅れたのもそれが遠因だ。
「でだ、ついに春歌も成人だな」
春歌が笑顔で頷く。
「まあ法律上は十八歳から投票権を認められるけど、成人式とかは未だに二十だしね」
「なんか忘れてないか?」
焦燥に似た思いを抱いていた。
ここまで一度も、結婚のけの字も出ていない。
春歌は優しく微笑んだ。
「結婚の件だね」
勤は表情を緩ませる。
「ああ。お前の気持ちは変わっていないように思うが」
「うん、私の勤に対する想いは変わってないよ」
「なら」
腰を浮かせる。
「けど、正直大人になってみて、まだ結婚は考えられないかな」
why?
「一体、それは、どういう」
「大学の講義が面白くてねー。今は結婚どころじゃないって感じ。けじめとして籍だけでも入れるのは考えるけど、結婚式とかそういうのは、まだ先かなあ」
唖然とした。
前提をひっくり返された感。
ここしばらくの期待と不安が一気に虚無となる。
「籍、入れる?」
春歌が余裕の笑みで聞いてくる。
うんと言えば籍は入れられるのだろう。
「いや、良い。結婚式といっしょにやりたい」
そう言って、勤は断った。
「そういう律儀なの、勤らしいね。好きだよ、勤」
良いように手の上で転がされている気がする勤だった。
しかし、待つことには慣れている。
それから二年後。
「春武、ワールドチャンピオンだよ。凄いね!」
「そうなのか? それは凄いことなのか?」
「凄いったらないよ。メジャーの頂点だよ!」
春歌は興奮したように言う。
たまに、こいつは自分より春武が好きなんじゃないかと不安になることがある。
まあ幼い頃からなのだが。
「それで、大学も卒業したことだしな、結婚なんだが」
「……仕事が面白くってね」
なんか二年前も会ったぞこの流れ。
「籍だけ入れます」
「流石に辛抱強い勤も折れたか。悪いねえ」
上機嫌に言う春歌。
籍を入れたのは妥協ではない。不安だったからだった。
鍛冶職人として世俗から離れて過ごす自分。
それとは対象的に外界で活発に過ごす春歌。
どんどん春歌が遠ざかっていくような、そんな不安があった。
元々、年の差があるのだ。
つづく




