二度目の二十代3
「正直私もあずきの配信は怖い」
千紗の言葉に、あずきは項垂れた。
「あんたもか。怖いって、身バレが?」
「いやー、私のことは伏せててくれたからそんなことはないんだけどね……」
「じゃあ何よ」
「うーん」
千紗はしばし言葉を探すように黙り込んだ。
そして、そのうち観念したように言葉を発した。
「あずきってさ、配信始まると十七歳が憑依するじゃない?」
「憑依?」
「急にテンション高くなってさ。普段は落ち着いてるのに軽くなるって言うかさ。イラストに引っ張られてるのかなあ……」
「ああ……確かにそれは怖いかも」
素直に反省するあずきである。
配信でのあずきと普段のあずきの間には確かにギャップがある。
普段からパワフルだよとは岳志の談だが、それでも埋められない溝があるだろう。
「だから私は正直あずきの配信は聞かないようにしてるな」
「参考になったわー……ありがとう」
再度項垂れるあずきだった。
「けど岳志さんとの出会いも咲夜さんとの出会いも配信がきっかけなんでしょう? そんなあずきが好きって人もいるんじゃないかな」
淡々とした口調で事実を並べ立てる千紗。
「その咲夜にもそろそろ私生活の切り売りは辞めればって言われたのよねえ」
「潮時じゃないかなあ」
この娘は本当淡々としている。
幼い頃は幼いなりのあどけなさがあったのが懐かしい。
これでも岳志が言うには対人関係や仕事への取り組み方で悩んでいるらしいがそう言った気配がまるでない。
本当、良い子、だ。
そこから脱せさせてあげられなかったことがあずきの罪なのかも知れない。
「ありがとね、参考になるわ」
「辞めるの? 配信」
淡々とした口調で問う千紗。
「んー。検討する。ありがとうね、参考になったわ。良く寝なさいよ。私、貴女の前の職場の労働環境聞いた時心臓が止まるかと思ったんだから」
「うん、大丈夫。今はガイエルと上手く役割分担できてるから」
「じゃあね、健康でね」
「わかってるよ」
苦笑交じりの千紗。
その表情を見届けて電話を切った。
その時、ラインの着信があったことに気がつく。
刹那からのライン。
踏み込んだことを聞かれないなら参加する、との返事だった。
一大コラボだ。胸が高鳴る。
(さて、自分の引退配信と今回とどっちが人来るかなー)
そんなことをやや自棄気味に思うあずきだった。
引退したいわけではない。
しかし、義理の子供は巣立った。
自分を養えるだけの貯蓄はある。
それどころか給料を入れてくれる旦那もいる。
続ける理由は日に日に減っていくのだった。
さて、刹那と都合の良い日取りをすり合わせて予定日を決定し、告知を打つ。
Vtuberに興味がない人でも岳志と春武の恩人が相手というだけでも興味を持つだろう。
そうやって上手く業界人の同級生を取り組んで数字を伸ばしたのが愛だ。
その愛も結婚している。
彼女の幼少期も良く覚えているのに。
(皆知らない内に大きくなって)
しみじみとそう思うあずきだった。
外見が二十代でも中身はアラフィフなのだった。
つづく




