二度目の二十代2
「今日の放送は散々だったね、雫」
雫とはあずきの本名だ。
あずきは今、旦那の咲夜を膝枕していた。
「まあチームだからね。こういうこともある」
「ベテランさんなんだ。僕はそうもいかないよ」
咲夜の言葉におや、と思う。
最近責任のある仕事に抜擢されたと言っていたはずだが。
「なあに? プロジェクトが壁にぶつかってるの?」
「いやね、チームワークが……」
「似たような悩みね、何かあるのかしら」
刹那から電話が掛かってきた。
すぐに出る。
「あずきさん、困る」
刹那は弱り顔でそう言った。
「なんでー? インタビューは慣れてるでしょ?」
「それは岳志と春武の傍にいるから十分経験したけどね……」
刹那はしばし迷うように視線を逸らした後、言った。
「私は私生活を切り売りするような真似は出来ないの。息子だっているし、有名人でもないんだから」
おや、と思う。
京の六階道家と言えば井上春武が育った場所として今や有名だ。
「今更じゃない? 貴女は十分有名人です」
「ともかく息子もいるし、出れないよ……」
「顔は出さなくて良いから。声だけで良いから。エイミーとの仲すっきりさせたいでしょ?」
刹那は思案するように考え込む。
十数秒の沈黙が漂った。
刹那は溜息を吐いた。
「考えてみるよ」
「りょ」
電話は切れた。
テーブルの上にパネルフォンを置く。
「興味深い意見だったね」
咲夜が思案するように言う。
「そうねえ。ま、あの子に関しては今更知名度が云々ってのはどうかと思うけど」
岳志スキャンダルに春武成長の秘訣の吐露。その二つで彼女はすでに有名人に値する。
「いや、僕達の件だよ」
「僕……達……?」
あずきは目を丸くする。
「子供ができれば幼稚園も学校もある。雫はどうやって乗り切る気なんだ?」
「声がにてる別人で通すわよー。私は若返ってるしそれで通るわ」
「けど、雫の本名はもう知れ渡ってる」
黙り込む。
ネットの情報網というものは凄いもので、少し知れべればあずきの本名は出てくる。
千紗は年齢が近すぎて流石に我が子と疑われることはなかったが、実の子となるとまた違ってくる。
「私生活の切り売りを、辞めるべき時がきてるんじゃないかな」
咲夜に見つめられ、あずきは考え込んだ。
今まで、配信は日常の一部だった。
けど、子供は嫌がるだろうか?
思わぬ岐路に立たされたあずきだった。
つづく




