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コンビニで貰った特別クーポンを使ったら大変なことになった もーっと恋愛編  作者: 熊出


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二度目の二十代

 二十歳の頃、自分は無敵だった。

 大手Vtuber事務所トイ・ボックスに合格。

 MARCH所属。

 コラボ配信にサークル活動に活き活きと勤しんだ。


 当時は無敵だった。

 けど、ひょんなことから他人の子を預かり、育てて、育てきったと思った時。

 あずきの手には何も残っていなかった。

 残ったのは思い出だけだ。


 当時の虚無感が嘘のようだ。


「はーい、あずラジのお時間ですー。パーソナリティーは毎度私あずきとー」


「アリエルとー」


「エイミー!」


「あずエルミーの三人でお送りしまーす! ってことで今日の話題をポチッとな」


 画面のスライドを表示させる。


「電撃引退した伝説のVtuber旧姓愛キャロラインついに出産。待望の子供の名前はーー!」


「名前はーー!」


「名前はーー!」


「じゃっじゃーん」


 そう言って次のスライドに移る。


「井上鮮火君!」


『げ、キラキラネームじゃん』


『エイミー、愛と愛情続きできてなんでいきなり火?』


『親と比較されて燃え尽きそう』


「ノンノンノン。この井上センカ君。鮮烈に燃え上がりなんど燃え尽きても灰から復活する不死鳥なのだだだだだーーー!」


「私の命名は採用されませんでした」


 少し低い声で言うエイミー。


「私のアイタケも却下されたにゃー」


『アイタケwwww』


『安直過ぎwwww』


『マイタケかなwwww』


『発想まんまクソ雑魚エルで笑う。雑魚エルの子供になる子可哀想』


『いや、もうこの歳と性格だと結婚できんだろ……仕事で成功してるから本人は幸せそうだが』


『あずきさん十七歳の悪口はそこまでだ!』


『最悪あずきよん十七歳まであるぞ!』


「ちょっとテンション低いよエイミー。初孫だよ初孫。私たちの付き合いも長くなったねー!」


「空気が地獄だったわ……」


「本当さっき思い出したらへこんだにゃ」


「ちなみに今回名付けたのは京都の名門岳志スキャンダルで馴染みになった六階道家の元当主刹那さん。春武の育ての親だねえ。岳志と遥香の大成功と仕事への傾倒の影にはこういう貢献者がいたわけですよ」


『へー、そういや中学校時代まで六階道姓名乗ってたな』


『育児放棄か?』


『役割分担でしょ』


『え、これ以上アラフォー未婚組増えるの? てかメジャー最高峰の家系の仲間入りとかエイミー勝ち組すぎじゃね?』


『いやいや、こういうのは影で結婚して……おっと誰か来たようだ』


『俺ならあずきの旦那なんて死んでも嫌だ。四十代でも常時テンションアゲアゲだもん。日常会話に苦労しそう』


『てか刹那って親まで厨二ネームかよwwww』


『刹那→鮮火wwwwwwなんだその漢字二文字に対する拘りwwww京風って奴どす?』


「そう、役割分担、役割分担なんですよー! 春武君の育成を申し出たのは刹那さん。仕事で既に重要ポジションにあった遥香さんとオリックス・バッファローズで中軸選手として活躍していた岳志さんには育児のキャパがない! そこを見かねて助け舟を出したのが刹那さん。気配りの人なんですねえ」


「本人は春武の姿見て一目惚れしたって感じみたいだけどね。私が育てるって決意固めちゃった感じ。それで四十代まで未婚で通したんだから律儀よねえ」


 ローテンションが続くエイミー。


「えーちなみに今は結婚して一児の母です。育児も私生活もこなして務めている職場では幹部格。ハイスペ女子すぎんか!?!?」


『四十代に女子はちょっと……』


『あずきさん、四十代は女子じゃない』


『やめろ、その言葉はあずきさん十七歳に効く!』


「女の子は何歳になっても女の子なんです。王子様を夢見てるんですよ」


 またまたローテンションのエイミー。


『エイミーみたいに二十代の外見保ってるから言えることよな』


『夢見る分には勝手よな』


『けど最近あずきの声もなんか若くならなかった?』


『アリエルも老けないよなー。なんか三人で共有してるアンチエイジングのコツあります?』


「むふ、むふふ……」


 マイクをオフにして素に戻る。


(最近あずきの声もなんか若いだってー見てる人は見てるねえ!)


 ナチュラルハイテンションを決め込むあずき。

 そう、あずきは今、絶賛二回目の二十代やってますの真っ最中なのだ。


 それはハイにもなる。

 若いって声が四十代の頃は嫌味に感じたが二十代だと素直に称賛に聞こえる。


 再びマイクをオンにしてスライドをめくる。


「さて。名門六階道家で育った春武君が習ったこととはー? ここでクエスチョン。1.古武術 2.人生観 3.思考法 4.子育て、さあどれでしょうかー?」


「ちなみに女性の扱いは習ってませんでした。難産で疲労困憊の妻に二人目はいつ作るって発言して空気凍ったよね」


 最早解説のエイミーさんと実況のあずきさん、ボケ役のアリエルさんである。

 テンションの落差が酷い。


『エイミーテンション低いのはそれかwwwww』


『娘の旦那がそれじゃあ不安にならあなwwww』


『いや、俺はいっそ春武に好感持ったよ。人間で感情豊かなんだなって』


『これは簡単。1!』


『有名だね、1』


『六階道流古武術だっけ。取り入れてんだよね』


「答えはぁあぁぁぁあ!」


 そう叫んで声でドラムロールを表現する。

 声優時代に習ったテクだ。


「じゃじゃーん!」


 スライドをめくる。


「全部でしたー! 春武の思考に、PDCAサイクルが自然と根付いているのはそういうわけなんですね」


「井上家の男は全員駄目だわ」


「エイミー」


 あずきは流石に真顔になる。


「放送事故。我を抑えろ」


 真面目にツッコむ。


『あずきの素ツッコミwwww』


『テンションの落差wwwww』


『あずきも流石に耐えかねたかwwww』


『やっぱ普段のテンションは作ってたんだなwww』


『今回見ごたえあるわー。夢を見せる仕事の裏側って感じですね』


 エイミーはしばし沈黙していたが、微笑んだ。


「ってわけで春武は刹那の信奉者に育って息子まで厨二ネームにしちゃったぜ汚点だねって感じだぜ!」


「ストップストップストップエイミーストップ。刹那ちゃんと喧嘩したの?」


『さっきと立場逆転、営業テンションのエイミーと素のテンションのあずきwwwww』


『なんだこのレア回wwwwww』


『ローなエイミーからしか得られない栄養素がある』


『これが更年期障害か……』


『直接喧嘩しろよ。これだから女は怖いな』


『刹那がリベンジ暴露したら盛り上がるんじゃね?』


 焦るあずき。

 エイミーは明らかに素面ではない。

 なんとかせねば。

 この状況、この状況どうやれば立て直せる。


 一つのコメントが目に入る。


「その案、採用おおおおおおお!」


『お?』


『おお?』


『なんか案出てたか?』


『次回は殴り合い回ですか?』


「エイミーだけじゃ一方的過ぎます。嫁側の主張が強すぎる。これで敗訴は春武君可哀想! そこで次回は被告人刹那を招こうと思いまーす。それじゃーオープニングトークも程々に」


「出番かにゃ?」


「そうです! バーチャル界の名ボケ役一方現実界の世界の歌姫そんな二面性を持つアリエルさんの、恒例歌のコーナー! どんどんぱふぱふ!」


「私から選曲、良い?」


「いいにゃよ」


「ダダダダ天使」


 沈黙が漂う。

 アリエルが柄にもない静かなトーンで言った。


「次回、エイミーアウトであずエルで放送します」


「今回はここまで! 次回もあずエルミーだよ、よっろしっくねー」


『これはレアな放送事故回』


『尺まだまだ残ってるのに強制的に終わらせたwwwww』


『二十年追ってて放送事故始めてみたwwww初心を思い出せwwww』


『ギスってたなあ今回w』


 放送画面はこうして幕を閉じた。



+++


「私達もプロなんだからさー。オンとオフは割り切ろうよ」


 素のトーンで言うあずき。

 放送後のZOOMでの反省会だった。


「ネガティブな発言は絶対駄目。それは悪印象になるから。悪い印象がついたらコラボもぽしゃる。業界でやっていけなくなって行き着く先は過激発言系だよ」


 沈黙が漂う。


「次回からあずエルにゃ。すっかり思い出した。あずエルでいくつもりだったにゃ私は」


「喧嘩しない! プロなんだから! 表面に出さない! プロなんだから!」


「プロプロってなんか堅苦しいにゃー。私は歌えればそれでいいにゃ」


「私もね、正直マンネリかなって」


 エイミーが重々しく口を開く。


「だって二十年間同じ調子よ。あずエル、たまには良いんじゃない? 邪魔者は去るよ」


「ちょっと待ってちょっと待って、エイミー」


「なに? あずき」


「私達、同じ卓を囲んだ仲間でしょ? 同じ脅威に立ち向かった戦友でしょ? こんなことで縁が切れちゃうわけ?」


「あー……」


 エイミーはしばし考え込んだ。


「ごめん、ちょっと最近ローで」


 あずきは安堵する。

 冷静に戻ったようだ。


「いいよ、たまには息抜きしても。心が疲れた時は休むのが一番。それとも、悩みあるなら相談に乗ろっか?」


「いや、ちょっと燃え尽き気味なの。娘も手がかからなくなったでしょ。今回ついに手の届かない場所まで行っちゃった感じがしてね。さて、次は何しようって。人生に一区切りついた感じ」


「うーん……私も同じ経験したことあるからわかるなあ。娘が巣立って一段落ついて人生のパートナーもいないと本当虚無よね」


「いつの間にか親って仕事に自分をはめ込んでたのかなあ。なんかどーっとね。疲れが……」


「新しい趣味でも始めればどうかなあ?」


「なんかある?」


「昔テニス配信してなかった?」


「うん、してた」


「対戦、する? 景品賭けて」


「なんてことだにゃ……」


 アリエルが呆然とした口調で言う。


「あずエルのはずがあずミーの方向で話が進んでるにゃ……」


「歌コーナー一緒に作ろうね」


「ダダダダ天使よろしくぅ」


「長らくお世話になりましたにゃ」


「エイミー!」


 悲鳴のような声を上げるあずきだった。

 これは本気で更年期障害かもしれない。


「それじゃ一旦予告出しちゃったし、刹那とガチバトル、やっちゃう?」


 岳志の恩人春武の育ての親刹那とのコラボ。これは数字取れそうだなーと打算が働く自分が怖い。


「一旦言いたいこと言ったほうがすっきりするよ」


「そんな男みたいにあっさりいくとは思わないけど……やるわ。予告出しといてやっぱやめましたじゃ接続数下がるもんね」


「後は刹那ちゃんが承諾するかかなあ。じゃ、今回はこんなとこで解散で。出演交渉は私がやるよ」


「いや、私が春武経由で頼むわ」


 意外な言葉だった。

 春武を軽蔑しているような様子だったのに。


「春武のお願いなら断れないのが刹那よ。知ってんだ」


 ぼやくように言うエイミーだった。

 エイミー対刹那。

 論戦で刹那に勝ち目はあるのかなあと思う。

 相手は百戦錬磨の配信ジャンキーだからなあ。


 しかし、互いにすっきりさせるまで今回は喧嘩させようと決めた。



つづく

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