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コンビニで貰った特別クーポンを使ったら大変なことになった もーっと恋愛編  作者: 熊出


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幕間/井上家新生児命名会議(その後)

 その後、刹那は程々に春武達と交流して帰国した。

 本音を言えば赤子の首が座るまでつきっきりでいたかったがそうも行くまい。

 姑が出しゃばり過ぎると厄介だろうし、実の子を放置しておくわけにもいくまい。


 かつての春武のように、伸び盛りの時期なのだ。


(それにしても、失礼だなー。キャロライン一家)


 思い返して不愉快になる。

 言うに事欠いて人の息子の名前をポケモンみたいとはなんだ。

 アリエルに至ってはシワシワネームと爆笑した。


「結構自信あったんだけどなー……」


 家を守る鉄の蔵。

 鉄蔵。

 長年温めてきた名前。

 血の繋がりのない春武には遠慮してつけられなかった名前。


 まあ、その春武に認められてその息子の名付け親になったわけだから、名実ともに親を名乗って良いのかな、なんてことを思う。

 あくまでも二番目のお母さん、であるつもりではいるのだが。


(いけないな。昔はラインをわきまえてたのに。あのクソガキがズカズカそれを踏み荒らすから随分境界が曖昧になった)


 けど、春武も、愛も、自分を慕って子供の名付け親に選んでくれた。

 嫁の実母でもないのにそこで調子に乗って長居したらそれこそ厄介な姑ムーブだ。

 引き際をわきまえて正解だったと思う。


(まだラインは消えてないな、良し)


 そんなことを思う。

 実の息子とも、このように適切な距離を保ちたいものだ。

 実の親子って難しいわね、と、名付け親に選ばれなかったからか嫁の実母のエイミーはしみじみと語ったものだった、


 確かに客観的に見ればあの場面で刹那は血縁的には繋がりがない。

 それが抜擢されるというのは、いかに実の両親の不満点が目に見えやすいかということの現れのようにも思える。


 鉄蔵もそう思うのかなあ。

 鉄蔵が赤の他人を慕って刹那をスルーしてその人間を名付け親に指名したらショックだろうなあ。

 そんなことを思う。


 春武の件に関しては中々に罪なことをした。

 もう懲り懲りだ。

 第二の母親と言う役割を今更放棄するわけには行かない。

 春武も愛も姑としての刹那を必要としている。

 見極めるべきは適度な距離感。


 両家の邪魔にならず、嫁に疎まられず、春武を困らせない立ち位置。


(祖母になるって結構大変だなあ)


 付き合う家系が一個増えるわけだから中々に。

 春武の実の両親や嫁の母親とは戦友関係だからこれでも中々にイージーモードと言えるだろう。

 親戚内の結婚みたいなものだし、親戚内での子供の預け合い命名しあいみたいな感覚だ。


 天界大戦の残党狩り。

 貴重な体験をしたものだと思う。

 恋もした。

 その恋した男の息子を育てた。

 その息子のさらに子供の名付け親になった。


 自分としてはここで天界大戦の残党狩りの件についてハッピーエンドとするべきだろう。

 これ以上を望むのは贅沢だ。

 それは、そこからの話。


 家に帰る。

 鉄蔵が駆けてきた。


「おかあさーん!」


 胸が痛む。

 子供の頃の春武にそうと呼ぶことを許してやれればどれだけ彼の悩みを減らせただろう。

 上手く春武の実の両親が仕事が一段落して親をやることに意欲を持つようになったり、色々な歯車が上手く噛み合ったから良かったものの、やはり当時の自分は残酷だったと実の子を持ってしみじみと思う。


 鉄蔵を抱き上げる。


「鉄蔵、お母さんがいない間も鍛錬はしてた?」


「うん! お兄ちゃんの子供、産まれたの?」


「そうだよ。鉄蔵の義理のお兄ちゃんはねー。世界的に有名な野球選手なんだよ」


「野球、かぁ。お母さん、野球好き?」


「好きだよ。昔好きだった人もやってたし、鉄蔵のお兄ちゃんもやってたしね。けど、鉄蔵は家を継ぐことを考えて欲しいな」


 ああ、実の子だと思って言える好き勝手。

 本当、実の親子って難しい。

 ラインの引き加減がなあなあになる。

 ついつい、自分の願望を押し付ける。


 春武とはその点上手くやれてたな、と思う。

 実の親子って難しい。

 エイミーの実感はこういうことなのかもしれない。


「野球も家を継ぐのも両方やる! お兄ちゃんは打つ人? 投げる人?」


 野球の基礎知識はあるのだなあと思う。

 旦那が教えたのだろうか。


「両方やる人だよ。二刀流って言うんだ。大谷翔平って選手が開拓したここ十数年で出来た形のプレイヤーなんだよ」


「翔平すごーい。僕も翔平って名前良かったな」


 ギクリとする。


「シワシワネームにゃ」


「鉄に蔵で鉄蔵?」


 キャロライン一家の失礼極まりない反応が脳裏を過ぎる。


「鉄蔵って名前、嫌?」


「ううん、大好きだよ。お父さんが言ってた。お母さんが一生懸命考えて、跡継ぎにふさわしい名前としてつけた誇り高い名前なんだよって」


「うん、そうだよ」


 旦那の助け舟に内心胸をなでおろす。

 この気遣いがあるから自分より強い人、という条件を一旦保留にしてまで結婚したのだ。


「けど翔平と鉄蔵両方名乗りたかった」


「日本にはミドルネームがないからねえ。海外の人と結婚したらミドルネームつくかも知れないね」


 自分で言ってて安堵している自分がちょっと嫌だ。


「ミドルネーム?」


「日本人は性と名だけだけど、海外の人ってその他に長いミドルネームっていうのを持ってたりするんだよ。お兄ちゃんも血縁的な意味じゃ国際結婚だったしね。鉄蔵も国際結婚して良いよ? 鉄蔵が良いと思った相手なら、私はどんな相手でも受け入れます」


「侮らないで、お母さん。僕は由緒正しい六階道家の跡継ぎだよ。日本の陰陽連に入って良い子と出会って結婚するんだ」


「あれ、ハレちゃんと結婚するって言ってなかった?」


「僕んち金持ちだから何人でも養える」


 これはちょーっと倫理観の面を教育し直さないと行けないなと思う。

 家が金持ちとか由緒正しい六階道家だとか吹き込んだのは旦那か?


 ちょーっとこれは懲らしめてやらないとな、と思う。

 気遣いはできるのだがうっかりグセがあるのが玉に瑕だ。どんな悪影響があることを口にしているかもわからない。


 多分整理してみればこうだ。

 旦那は六階道家の後継ぎとして陰陽連から嫁を取ってほしかった。

 けど息子としてはハレちゃんと結婚したかった。

 だからテンパった旦那はうっかりと両方と結婚しても問題ないよと言って茶を濁した。

 話の流れとしてはこんなところだろう。


 よし、ちょっと厳し目にお灸をすえてやろう。そう思った。

 子供は幼少期五感をフルに活用して吸収、学習する。

 些細な一言がきっかけで人生観が変わることもある。


「鉄蔵。パパがそう言ったの?」


「うん」


 嗚呼、案の定。

 基本的に気遣いはできる人なんだけど。

 明後日の方向を向く時もあるんだよなあ。


 歳の差旦那の弊害という奴か。


「あのね、違うよ、鉄蔵」


「なにが?」


「結婚は基本、一度に一人としかすることが出来ないの。鉄像にはまだ難しい話かもしれないけれどね、世の中には目に見えない決まりごとがたくさんあって、それを破ると皆から一斉に嫌われちゃうんだよ」


「そうなの?」


「そう。結婚って、一人の人を幸せにするって約束なんだ。お兄ちゃんは今回一人の女の子と結婚して、その人と一人の子供を作って、二人を幸せにするって誓ってお仕事してるんだよ」


「そうなの……?」


「うん、そう」


「けど義理のお兄ちゃんはお母さんの子供じゃないし、義理のお姉ちゃんもお母さんの子供じゃないよね。お父さんは約束破りなの?」


「違うよ。前約束した人が好きじゃなくなったから一旦その約束を終わりにして、ケリを付けた。そして、恋愛を一回片付けて、私と新たに約束した。約束は一度に一人までなんだ。順番があるんだよ」


「けどなんかお父さんずるっこいなー」


 オイオイこれじゃあ将来の思春期に旦那を軽んじる息子の誕生ではないか。

 旦那の立場も上手く立てる方便はないものか。

 春武の時もこんな感じだったな。

 一瞬、風が吹いて、髪が頬を撫でる。

 記憶の中で鮮明に、当時の肌のきめ細やかさが蘇る。

 まだ小さかった春武。

 可愛かった春武。


 彼とも色々な問題を一緒に解決してきた。

 今回も一つ一つ辛抱強くやっていけば大丈夫だ。

 かつての同居人である年上で自分より家にいる時間が少なかった岳志と今の旦那をどうしても比較してしまうのが本音ではあるが。

 今の旦那は少々うっかりが過ぎるし技術部門に転向して家にいる時間がどうしても長くなって久しい。


 うーん、子育てのノイズ。

 切っちまうか悪影響だやーっちまえー。

 そんな盤面返しをしかけて思いとどまる。


(お父さんとの関係を複雑にするのは駄目だよねえ)


 悪い人ではないのだ、悪い人では。そう思いとどまる。

 考えることは多い。

 元々、人見知りだった性分だ。

 どうしても気付く情報は人より多い。

 敏感なほどにセンサーが働く。


 折り合いをつけて、今の大人の刹那がある。


「テツゾー」


「なあに、お母さん。約束は一度に一人とまでだよね、覚えた」


「偉い偉い。鉄蔵は誰と結婚したい?」


「あのね、六階道家のためには陰陽連の人と結婚しなきゃ駄目?」


「ううん、ハレちゃんでもお母さんは万々歳。ありがとうございますーって感じよ」


「じゃあ僕、ハレちゃんと結婚する」


「素直でよろしい」


 頭を撫でる。

 倫理観の上書き完了、と。

 危ないところだった。

 旦那を締め上げて今後は家庭内のタブーについても夫婦間で話し合わねばなるまい。

 コブ付き同士の結婚だからどうしても新しく産まれた子にはややこしく映るだろうが。

 乗り越えねばならぬのだ。


「テツゾー、名前でからかわれたこととか、ある?」


「ないよ。呼びやすいって言われる。テツって呼ばれることが多いかな」


「そっか。母さんもテツって呼んでい?」


「駄目」


 鉄蔵は抱きついてくる。


「僕、お母さんのテツゾーって発音、好き。なんていうか心がぽかぽかする」


 そっか。伝わってんだ。

 この点は旦那の功績かな、とさっきのマイナス分から帳尻を合わせる。


「もしもね、名前でからかってくる人がいたらどうしたら良いと思う?」


「お母さんが一生懸命考えてくれた名前を馬鹿にする奴は叩きのめす」


「駄目だよー。パンチは最期まで出しちゃ駄目なんだ。殴ったほうが逮捕される世の中だからね。殴ったら負けだ」


「じゃあ僕の体術ってなんのためにあるの?」


「守るためにあるんだよ。それがお父さんの言うところの、由緒正しい六階道家の矜持」


「きょうじ?」


「プライド? この単語も難しいかな。尊厳、はもっと難しいし。弱ったなあ……」


 しばし、考え込む。


「そうだね、これを守ってると自分を好きになれるかもって一定のルール。自分の心を強くする決まりごと」


「お母さんの言ってること、たまに難しい。お父さんの方がわかりやすい」


 弱った。これも同性の親にしかわからない共感力と言うやつだろうか。今度聞いてみようかな、なんてことを思う。


「そうだね。けど、守ってると街が平和になるし、暴力が防衛力になるっていうのも難しいしー……お兄ちゃんにはどう教えてたっけなあ。古い記憶すぎて思い出せないなあ」


 一人目の経験値を持っているはずなのに二人目にそれを完全にフィードバックしきれていない。

 一人目の時は解決できたという自信はある。

 しかし時たま立ち止まる。

 うろ覚えの拙い英語を喋るかのように。

 思えばあの頃は、刹那も岳志の両親に教育方針について色々相談が出来たのだ。

 けど、今はそれがない。

 自分が支える側に回ってみると、中々に親世代の偉大を痛感する。

 四十代になってもこんなものだ。


 大丈夫、と自分に言い聞かせる。子供が立ち止まった時はある程度の年齢までは一緒に立ち止まってやれば良い。

 旦那に対抗することはない。

 旦那には旦那の経験値があるように自分には自分の経験値がある。


「お兄ちゃんってそんなに長くお母さんと一緒にいたの?」


「お兄ちゃんはもう結婚して子供もいるって言ったでしょ。随分と長生きさんなんだよ。大人なんだ」


「大人かあ」


「でね、名前でからかわれたらこの言葉を思い出しなさい。この名前は、貴方への思いを込めて、お母さんが一生懸命考えた名前なんだよって。六階道の家を守る鉄の蔵。強い強い防御の力。破壊するための力ではなく、守るための力」


「破壊するための力と、守るための力……」


「そう。好きな人も、好きな町も、好きな国も、壊そうとする人から守る防御の力。それが貴方の名前の由来。壊すことしか出来ない私と違って、貴方が守るために振るうことを願ってその拳につけた名前」


 そう、それは岳志の魔力の知識と融合させて作った、六階道家の新たな境地。


「お母さんは壊すことしか出来ないの?」


「そういう術に特化して育てられたからねえ。破壊関係じゃエキスパートよ。今じゃ当主業はお父さんに任せて陰陽連のジョーカーだからね。例えばー」


 そう言って訓練用に積み上げている岩の山から一つ持ち上げ、高々と放り投げ、拳を叩きつける。

 岩は刹那を潰すかと思われたが、次の瞬間塵のようにばらばらになった。


「なんでそんなことできるのー? お父さんは破片かなり残るよ?」


「このレベルの戦いになるとね、破壊同士じゃ押し合いになる。守る力なら相手の破壊力を活かして逆に相手を破壊できる。それが貴方の時代の六階道家。貴方は、こう言った力から守る術を覚えなさい。鉄蔵。それが私が貴方に送る名前と、送る言葉。貴方の名前の意味、わかった?」


「お母さんの話は難しいけど、一生懸命考えてみるね」


「うん。算数と同じだよ。解き方がわかった時にぶわって理解できるから。それまで、一緒に考えようね」


「守る力と、壊す力。壊すって、何を?」


「例えば、ハレちゃんが殴られそうになってたとするよね。それは壊す力だ。鉄蔵は私の特訓に耐え抜けばそれをそのまま相手に跳ね返す力を得ることができる。結果、ハレちゃんは無事だ。これが、守る力」


 鉄蔵は微笑む。


「僕、この名前、大好き。鉄蔵で良かった」


「うん。私も貴方のお母さんで良かったです」


 この日も六階道家の後継ぎは着実に育ちつつあった。

 井上一家が見れば胸をなでおろす一幕だろう。


「さーてと、用事片付けないと」


「用事?」


「お父さんとちょっとね、家族会議」


「じゃあ僕も参加する!」


「んーと……もう少し大きくなったらね。お母さんの話が全部理解できるようになった頃には、混ぜてあげる。その頃には貴方は自立して貴方なりの判断を選べるようになるはずだから」


「やっぱお母さんの話は難しい」


「私が一緒にやってきたように、色々なことを考えて、工夫して、解決なさい。それを繰り返す習慣は大事よ。保育園を卒園するまでの私からの宿題」


 成長した春武にすっかり慣れてしまってるなーと思う。

 まだ成長しきらぬ子供なのだ。言葉の選び方は慎重になるべきだろう。

 そして、その知見を共有するために。

 少々、旦那を締め上げる必要がありそうだった。


 夫婦の形も様々だ。

 六階道家は現在、旦那を尻に敷く典型的な姉さん女房スタイルで運営されている。


 それに、息子を魅了するわかりやすい旦那のトーク術も伝授してほしかった。

 子供だましでお茶を濁しているわけでなければ良いのだが。

 流石にそれはないと信じることにした。

 一応これでも、夫婦やってんだ。


つづく

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