限界社畜は寿退社の夢を見るか3
千紗はガイエルと共にバスに乗っていた。
買い出しに出かけることにしたのだが、車という密閉空間で二人きりになるのは嫌だったのだ。
(やだなぁ)
まるでガイエルを厄介扱いしているみたいだ。
実際厄介なのだが。
自分がここまで家庭というものに拒絶反応を示すとは思わなかった。
後部座席では小学生達が遠足なのか次々に教師に声をかけている。
思いついたことをそのままありのまま喋っていると言う感じで、自分に先生という仕事は務まらないな、とつくづく思う。
それこそ、実の親が自分にやったように怒鳴り散らしてしまいそうな――
そこまで考えて、フラッシュバックに襲われた。
吐き気を堪えて口元を抑える。
ガイエルがハンカチを差し出す。
「大丈夫か?」
(やだなぁ)
こんな優しいガイエルを敬遠している。
彼が自分に恋しているというだけで。
以前ならば、子供なんて自分には無理だな、なんて笑い話にしてガイエルに話しただろう。
けど、今はできない。
彼は、千紗なら大丈夫というに決まっている。
そうしたら自分はどうしても彼の下心を深読みするだろう。
(やだなぁ)
癒されたくてガイエルといるのに、接近されすぎて彼の主張が刺さっている。
ヤマアラシのジレンマ。
(やだなぁ)
そんな事を考えて、その日の買い出しは記憶もなく終わった。
家に帰るとガイエルが料理を作り始める。
なんとなく、だらんとその場に座り込む。
パネルフォンを開くと、あずきからのラインが来ていた。
『あんた、一回うちに帰ってきなさい』
『仕事辞める気はないけど?』
電話がかかってきた。職場からだ。
パートタイマーが休んだからシフトに入ってほしいという話だった。
「ごめん、ガイエル、仕事!」
休日関係ないんだもんなあ。
立ち上がって慌てて着替えに走る。
「千紗、その……」
ガイエルの声が届く。
「辞める気ないから、私。母親みたいに自立できない女になりたくない」
「それにしても無理をしすぎだ。もう少し職種を選んでも」
「私はあずきや愛とは違うのよ!」
怒鳴った。
「学歴もなければ社交性もない。そんな奴がポンポン転職したって逃げ道がなくなるだけだってバイト時代に散々実感した。だから我慢することを覚えた」
ガイエルの横を通り過ぎる。
「だから、私は今日も頑張ります」
「俺が養うよ」
ガイエルが絞り出すように言う。
「二度とその話、しないで」
千紗は切って捨てた。
自分が人の親になるなんて考えられなかった。
ガイエルは胸が痛むのか辛そうな顔をして千紗を見ていた。
つづく




