ダディになる日7
出産予定日が近づいてきた。
会見を行ってから春武の成績は右肩上がり。
正しくは、刹那のカウンセリングを受けてから、かもしれない。
一方、子供も順調に育っていた。
遠征先で、また蹴ったよーなんて写真が送られてくることも増えた。
いつになく愛がデレている。
マタニティハイと言うやつかも知れない。
子供の存在は春武達の関係を深くした。
そう思わざるを得なかった。
首位打者レースは独壇場。
本塁打王争いは流石に晋太郎と信玄の異次元コンビには届かないが、打点王も視野に入っている。
一方投げては十五勝防御率一点台。
サイ・ヤング賞争いの一角だ。
今年の井上春武のパワプロ査定は如何なるものか。
レジェンドであり二刀流の開拓者である大谷翔平超えはあるのか。父親超えは少なくともパワーと球速以外は果たしただろうと目下の評判だ。
そして結局、ナ・リーグ首位打者、打点王の二冠に輝き地区一位でラストランを決めた。
「今年の活躍はちょっと出来過ぎだったね」
愛は最近すっかりデレている。
子供が出来て丸くなった。
腹もすっかり丸くなったが。
「出産立ち会いたいなあ」
名残惜しむ。
「今度はWS進出をかけて信玄君と対決でしょ? あっちの成績も圧巻だったわね」
「晋太郎を大きく引き離してのナ・リーグ本塁打王。歴史に名を刻む記録更新。あっちもキャリアハイだな」
窓の外を見る。
暗雲が立ち込めていた。
「俺は、この年のこの対決の為に生まれてきたのかも知れない」
野球人としては、そう思う。
「野球人としては、ね」
愛は春武の心を読み取ったように言っていた。
以心伝心。
心が通じ合っている。
「ワールドシリーズが終わったら子育ての始まりよ。ほんと、てんてこ舞いになるって六華さんの娘育てるギシカとアウラ見てて思ったわ」
「ほんと、出産に立ち会いたかったよ。長引いたな。数時間後には俺は雲の上だ」
「俺達が見届けてやるよ」
すっかり白髪頭の親父が出てくる。
「親父。昨日は始球式ありがとな」
「良いってことよ。アリエルもエイミーも来てるぞ。母さんもだ」
「どっちの母さんだ? 遥香母さん今会社のブランド変更とかで忙しいんだろ?」
「どっちも来てるよ」
親父は苦笑交じりに言う。
「遥香も、随分悔いた」
「そっか。エイミーさんと母さん二人がついてりゃ安心だな」
「ああ、安心して戦ってこい。信玄君と。俺も鬼瓦とそんなシーズンがあった。俺達は同地区だったから勝負は日常茶飯事だったけどな」
「鬼瓦部長、元気かなぁ」
「知らないのか?」
戸惑うように言う親父。
「今、鬼瓦の娘が甲子園でブレイク中だぞ」
「へ」
意外な展開に唖然とする春武。
「あの人も……子供作ったりするんだな」
「お前は鬼瓦を何だと思ってるんだ」
正直、頑固で仏頂面の人間らしさが少ない人だと思っていた。
「親父は生涯童貞の呪いにかかってるのにな」
「その息子は浮気したけどな」
「まあ良く来たよ親父。歓迎するよ」
ピリピリとし始めた空気の中、握手する。
思いっきり力を入れた。
相手は流石に痛い思いをするだろう。
そう思ったら腕をひねられた。
「昔言わなかったか? 六階道家の古武術には俺も馴染みがある、と」
「うーん、野球選手としては親父を越えたつもりだが戦士としてはまだまだ、か」
「そりゃそうだ。俺の戦った天界大戦の残党狩りはお前の時の搦め手優先で来るスキルユーザー異変とは純粋な力勝負なら比較にならんよ」
苦笑交じりに言う。
正直、ありがたかった。
親父はまだまだ大きな背中を見せてくる存在でいてほしかった。
だから、近年の老け具合は懸念だったのだが、杞憂だったらしい。
「じゃ、愛。行ってくる。父親としては親父超えが最低ラインだ」
「低いハードルだな」
「自分で言っちゃうかよそれ。随分野球で助言貰ったぜ」
「鬼瓦や刹那が教えたことの方が数十倍は多いだろう」
「それでも、親父の教えてくれたインハイ捌きで今日まで生き残れた」
あらためて、握手する。
「行ってくる」
「ああ、子供に勝利を届けてやれ」
ここ数日は自分の人生の転換点になる。
そんな実感が春武にはある。
次はメッツとカブスのワールドシリーズ出場をかけた戦いの始まり。
カブスの第一先発は春武。
迎え撃つはメッツの誇るナ・リーグ本塁打記録保持者、信玄。
ナ・リーグの頂点を決める戦いが静かに幕を上げようとしていた。
つづく




