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コンビニで貰った特別クーポンを使ったら大変なことになった もーっと恋愛編  作者: 熊出


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ダディになる日6

 春武は球団が用意した釈明会見の場に立っていた。

 記者が挙手し、球団のGMが一人を指さす。


「春武井上選手。貴方はロッカールーム内で日本語の発音でドラッグ、レイプ、ダルクなどの単語を連呼していたと言いますが本当ですか?」


「えー……」


 答えようとして、慌てて思いとどまる。

 英語だ。

 通訳無しでもアメリカの大学の授業を取れた。

 それぐらい高校で準備している。


 しかし、通訳を雇っている以上、顔は立てねばならないだろう。


「井上選手、貴方はロッカールームで麻薬や強姦やダルクなどの単語を連呼していたということに疑念を抱かれています」


 通訳の言葉にうんうんと頷く。

 そして、通訳を介さず、話し始めた。

 通訳が目を丸くする。

 この言葉だけは、自分の言葉で伝えたかった。


「この度、私春武井上は人の父となることになりました」


 どよめきが起きる。

 それはそうだ。

 今やメジャーの看板選手の一人。

 ワールドシリーズの常連選手が親になると宣言した。

 それだけでちょっとしたニュースだ。


「その際、少々浮足立ってしまい、思ったのです。息子がドラック中毒者になったらどうしよう。娘がレイプされたらどうしよう。その妄想は少々行き過ぎ、私はノイローゼ状態になっていました。それを、後輩の晋太郎に繰り返し問い詰め、結果醜態を晒したことになります」


 失笑が起こる。

 こういう反応になるよなあと苦笑する。


 そして、通訳に耳打ちした。

 通訳は流暢な英語で語り始める。


「私はドラッグ、レイプに関わる全てのことに関係していません。また、ダルクと言う施設への偏見もありません。その証明としてダルクに援助を行おうと思っています。道を踏み外した人が更生できる未来へ」


 記者が次々に挙手する。


「貴方はドラックに関係がないと? 貴方の成績はまるでジョークだ。ドーピング時代の選手みたいに思える」


「それは信玄のことですか?」


 春武はとっさに英語でブラックジョークを飛ばす。

 どっと笑いが湧いた。


「信玄もドーピングはしてませんよ。僕達は高校時代から、いや、もっと昔から野球に対して真摯でした。そして、生まれてくる子供、妻に対しても真摯であろうと、この度決意を新たにした次第です」


 釈明会見が一転しておめでた会見だ。


「奥方になにか一言お願いします」


「僕と出会ってくれてありがとう。そして不安定になってごめんねと」


「親になるのはやはり貴方程の選手でも不安ですか」


「良い選手が必ずしも良い親になるとは限りません。名選手が必ずしも名監督名GMになるとは限らないように」


「子供の名前は考えてますか」


 春武は苦笑する。


「そう言えば妻と相談するのも忘れてました。相当我を忘れてたな、僕は」


 またどっと笑い。


「今回あらためて思いました。人の親になるのって凄いことなんだなって。責任も感じます。けど、妻と二人で乗り越えていこうと思います。願わくば我が子も貴方達の良き隣人であることを」


 そう言って片手を上げて、春武は会見を後にした。

 背後ではGMが対応に追われている。

 主に、出産時期と、もしポストシーズンなら父親休暇を認めるかに関する質問のようだ。

 もちろん、その回答は準備済みだったらしい。

 春武選手に一任します。と言う声が聞こえてきた。


「しみっちゃん、仕事とってごめんねえ。今日は俺の言葉で伝えたい内容が多すぎた」


「たまには良いですよ。春武さんも人の親っすね」


「しみっちゃん子供いるんだっけ。どんな感じ?」


「やっぱ癒されますねー。夫婦共々子供のために頑張ろうと思いますもん。子は鎹ですよ」


「そっかー」


 天を仰ぐ。


「キャリアハイ、狙っちゃおうかな」


 そして、家に帰って春武はまず土下座していた。


「浮足立っていて大変申し訳ありませんでした……」


「会見は見たわ」


 愛は蓮っ葉に言う。


「私仕込みの英語が中々板についてたじゃない」


 冗談交じりに言う。

 許された。

 その事実に安堵する。


 顔を上げる。

 愛と二人、苦笑する。


「名前、考えてなかったわね。どんな名前が良いかしら」


「やっぱり優しい子に育って欲しいよな」


「うちの母親、愛されるって意味の単語で、私も愛って名前だから、二代で終わりにしたいわね」


「俺も岳志と遥香で春武だもんなあ。適当につけた名前だよホント」


「そんな事言われるとハードル上がっちゃうなあ。洒落た名前洒落た名前……そもそも和名? 洋名?」


「そりゃ……どっちだ?」


 日本育ちとは言えアメリカにルーツがある愛と日本生まれ日本育ちの俺。

 沈黙が場に漂った。


「ま、息子か娘かわかるまで宿題にしましょうか」


「あ、もう一人土下座しないと行けない相手がいるんだった」


「晋太郎君ね……あんた不安定な時に後輩と会話するのもう二度とやめなー。それでヘラって失望されてたら世話ないでしょ」


「まったくだ」


 パネルフォンで晋太郎の名前を呼び出しコールする。

 十秒が立ち、二十秒が経った。

 留守番電話サービスにつながった。


「出ない」


 情けない声で言う。

 流石にヘラりすぎたか。


「私が京子経由で釈明しとくから。記者会見の様子もそろそろ公式サイトからアップされるだろうし」


 その日、井上愛懐妊のニュースは世界を駆け巡った。

 やっとか、と言う反応もあれば、愛のファンだった人々からのショックの声なども見られ、三代続けて二刀流か? なんて気の早い意見も上がったのだった。



つづく

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