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コンビニで貰った特別クーポンを使ったら大変なことになった もーっと恋愛編  作者: 熊出


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ダディになる日

「春武」


「なんだー?」


 トレーニングルームでのスイング中、愛がおずおずと部屋に入ってきた。

 今年は打棒が絶好調。打投両方でタイトルを狙えるかも知れない。

 晋太郎と信玄がいる限り本塁打王だけは無理だろうが。


 それでもひょっとしてということは起きるかも知れない。

 それほど、この年の春武は好調だった。


「今日、ちょっと病院行ったのね」


「どっか、調子悪いのか」


 好事魔多。

 微笑三太郎が五打席連続本塁打を打った時に故障したように、村上宗隆選手がメジャーリーグで好調に二十本打って適応を見せつけた直後に故障したように、ずば抜けて良い時には往々として悪いことも起こる。


「ちょっと前から、異変があって」


「なんでもっと早く言わなかった」


「いやー、ちょっとタイミング悪いなーって」


「タイミング悪いもあるか。俺はお前のためなら野球だっていつでも捨てられる所存だ」


「忘れた? 私は貴方の一番のファンで、貴方は私の一番のファンなのよ」


「その割には自分は配信業辞めたじゃねえか」


「トップ取ったから良いかなって。Vtuberの年間同説者数記録未だに私が日米一位なんだから」


「それなら俺だってサイ・ヤング賞一回取ったしチャンピオンリング何個も持ってらぁ」


 あらためて見て凄いことになったなあと思う。

 有名選手と有名Vtuberの子供達で下地があったとは言え跳ねたものだ。


「で、いつからだ。いつからなんだ」


「そのー……ホント、タイミング悪いのよ。聞いてくれる?」


「ああ」


「まず、基本として」


「うん」


「今年のポストシーズン、見に行けないと思う」


「入院するってことか?」


「将来的にそうなるだろうねえ……」


 愛は躊躇うように言葉を濁す。

 思わず、バットを置いてその両肩を掴んだ。


「何処だ。何処が悪い? お前のヒールでも回復できない病か?」


「病気じゃないのよ、春武」


 観念したように愛は言った。


「子供、出来たの」


 一瞬、呆気に取られた後、感動が押し寄せてきた。

 父親になる。自分が、あの、憧れていた父親の側に回る。

 なんて今日は素晴らしい日だろう。


「何言い淀んでるんだよ。嬉しいよ、俺。結婚して長いし、今更躊躇うことでもないだろう?」


「時期が問題でねー……」


 愛は溜息を吐く。


「私の出産予定日、多分ポストシーズンの真っ只中です」


 一瞬頭が真っ白になった春武だった。


「いや、その、メジャーには妻の出産時に父親休暇ってものがあって」


「そう言うと思ったのよ」


 愛は頭を片手で抑える。


「ポストシーズン中に主軸でエースが出産祝いですって抜けられる?」


「抜けられる」


 春武は断言する。


「俺一人が一日抜けたぐらいで揺るぐチームじゃないさ。晋太郎もいる。ギャレットもいる。俺は行くぞ」


「そう言い出すのが怖かったのよ」


 愛は呆れたように言うと、肩に置かれた手を払いのける。


「試合優先、春武」


 愛の指が反論を防ぐように春武の口元に突きつけられる。


「ファンである私を喜ばせて。それが私達の子供への一番の贈り物」


「で、男か? 女か?」


「どっちが良い?」


「どっちでも野球選手に育てる!」


「……まあ、瑠奈に聞いた信玄君の回答よりはマシか。とことん野球馬鹿ね」


 溜息を吐く愛。


「女の子だったらテニスやらせるから」


「テニス?」


「うちのママこっちじゃテニス結構やってたんだよ。聞いてない?」


「親父交際後半はエイミーさんのメール殆ど読み飛ばしてたって言ってたからなあ。他の男との交流書かれるの相当嫌だったみたいで。最終的に記憶から抹消してたみたいだし」


「若い時は独占欲強かったのねー。その反省があって春武のお母さんと上手く行ったのかもね」


「そういうもんかね」


「アリスも言ってた。人は恋愛経験を詰んで成長するんだって。削りあって丸くなるんだって」


「あ、俺も言われた」


「だから、聞かれたの。一番手で良いのー? って」


「どう答えたんだ?」


「結果を見たらわかるでしょ」


 ドヤ顔で言う愛だった。

 その日から春武は、愛に料理を振る舞った。

 栄養学の知見なら春武にもある。


「動かないと逆に毒って言われてるんだけどー。練習しなよー」


 困惑したように言う愛である。


「良いから動くな。お前は動くな。流産が怖い」


「そんな簡単に流れないわよ。私だって慎重に動くし、あんたの子よ?」


 溜息混じりに言う愛だった。


「あー。この家も子供が増えるのね」


 ぼやくように続ける愛。


「増えるもなにも一人目じゃないか」


「あんたが私にとって大きな子供なのよ」


「そりゃないぜ」


 それで拗ねて調理権を愛に返した春武だった。

 その拗ねた心も鼻歌を歌いつつ調理をする愛を見て和んだ。


「アリエルさんの新曲だな」


「始球式に来た時には寄って貰ってね」


「いや、今は大事な時期だ。お前に無理はさせたくはないのだ」


「……信玄君は日米で離れてて良かったのかもね」


 呆れたように言う愛だった。

 瑠奈は既に出産して娘も五歳になっただろうか。二人目も既に出産している。信玄念願の男の子だ。

 デキ婚なだけあってあっちは早かった。


「そういや信玄も今年絶好調なんだよなー。娘が野球に興味を示し始めたとかで張り切って張り切って、年間本塁打記録を更新する勢いだ」


「あの人も何気に球史の偉人よねえ」


「ポストシーズンで大接戦、なんて時期に愛の陣痛が始まったらことだな」


「だーかーらー」


 愛は思い切り息を吸うと、手近な雑誌を掴んで丸めてメガホンにした。


「あんま過保護にすんなボケェ!」


 上品でクールな愛に汚い言葉を使わせるほどこの頃の春武の浮かれようったらなかった。

 これがいわゆる不器用なパパの空回りという奴だ。



つづく

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