結婚して終わりというわけでもなく宛もなく二人旅は続く5
家に帰るとロビーの大ソファーで優雅に足を組んで大画面のNetflixを軽薄な笑顔で見ている女。
かつてのこの世界のラスボスにして創世神の夢を司るシステムの一部。
黄昏京子。
その元ラスボスと、晋太郎は対峙していた。
「全部、聞いてきた」
雪を払いながら言う。
土足で家に上がるのにも慣れた。
「それでわかったろ? 手を引くのが正解だって」
京子は軽薄に笑う。
「互いに良い夢見たねえ。私の世界はまた一つ愉快になった」
「強がんなよ」
「強がってない」
「ラスボスぶんな」
「ぶってるわけじゃなくてラスボスだったの!」
貫禄が崩れ、意地を張っている駄々っ子のように言う。
ほら、掘り下げると地が出てくる。
愛と晋太郎だけが知っている京子の可愛さ。
「子供に遺伝したら何だ」
晋太郎は淡々とした口調で言う。
「俺達が正しい方向に導いてやれば良い」
「正しい方向に導く? 人間を完全にコントロールするなんて不可能よ。実際に、私は色々な人に悪さをしてきた。両親に正しく育てられたのに、そうなった」
「不安を一人で抱えた結果の暴走だ。お前は悪くない」
晋太郎は慎重に、言葉を選んで言う。
「ただ、目一杯愛してやれば良い。不思議な力に目覚めた時に、不思議な力ごと自分を受け入れてやれるように」
「綺麗事よ」
警戒するように京子は言う。
「けど、こう思わないか」
晋太郎は中空に視線を向ける。
「季節はクリスマス。俺とお前は暖を取りながら肩を撚り合わせる。お前の腹は少し大きい」
京子は恐る恐る、誘導に従って、そのシーンをイメージし始めたらしい、視線が同じく中空にいく。
「季節は巡り、またクリスマス。幼稚園児ほどの小さな子供が駆け回っている。それを止めるのにお前は必死だ。俺は張り切ってクリスマスツリーを用意して、その根本にはプレゼントが沢山だ」
京子が、鼻をすすった。
泣きかけている、とわかった。
「季節は巡り、またクリスマス。息子か娘かわからないけど、随分大きくなっている。恋人を連れてきて、照れくさげにしている。俺達は若干老いた。手を繋いでしみじみと語る。もうこんなに大きくなって、と」
京子が声を上げて泣き始めた。
「ほら、お前はいつもそうだ。強がって強がって強がって、最期にボロを出す」
晋太郎は泣き崩れた京子の前に立った。
「お前はラスボスを気取る器じゃなかったんだよ」
しゃくりあげるような返事。
「何度も空想した。晋太郎と作る幸せな家庭を。それでも怖かった。自分の身に起こったことがもしかしてって」
「俺達二人だけじゃない。もちろん、旅をするのは俺達二人だ。けど、たまには頼りになる先輩を頼っても良い」
京子を抱きしめる。
「皆で、解決していこう」
京子は安堵したように、許されたように、声を上げて泣き始めた。
「俺、稼ぎ良いから、逃すのは損だと思うけど」
ちゃっかり付け加える。
「三食昼寝付き?」
鼻をすすりながら、京子が軽薄に笑っていう。
「そろそろわかってきたよ。お前のその笑い方。強がってる時の笑い方だ」
再び泣き始める京子。
「三食昼寝つきでオフシーズンにはハグ付きだ」
そう言って京子の背を撫でる。
京子は必死に嗚咽を止めようとしていた。
それが徐々に収まっていく。
「晋太郎」
「なんだ?」
「結婚しよう」
「子供は作る方向で検討してくれるか。なにせ二人旅だ。一人じゃ決めれん」
「ん、検討する」
「じゃあ、俺はお前を受け入れる。だから、お前も、俺を受け入れてくれ」
「うん」
京子はくっくっくと笑う。
「今までいろんな敵と戦ってきたけど」
「ん?」
話が飛んだな、と思う。
どんな突飛な人生を歩んできたんだろうこの元神様は。
「あんたの言葉が最強の殺し文句だったよ、晋太郎」
「そりゃーなんとも光栄なこって」
+++
「健やかなる時も病める時も汝晋太郎は」
「やっぱ思うわ」
「ここに来て何よ」
「俺カトリックじゃないけど」
「じゃ、プロテスタント? 資本主義者だもんね」
京子は軽薄に笑う。
「キリスト教徒じゃないんだけど? こっち来てダーウィンの進化論否定してる州の多さには驚いたけどな」
小声でごそごそと言い合う。
「良いじゃない。私海外の教会での結婚式に憧れてたの」
「何度も聞いたけど納得いかねー。日本の元チームメイトとか来れねーじゃねーか」
「晋太郎君!」
神父が大声を出す。
「聞いていますか? 誓いますか?」
招待者席から失笑が起こる。
「京子を愛しています。誓います」
一瞬で場の空気を取り戻した。
「良いなあ、京子」
そんな呟きが響き渡る。
「あー、し・あ・わ・せ」
軽薄に笑う京子だった。
「また強がってら」
「なんでい」
「ほらボロが出る。江戸っ子かお前は。ほれ、誓え。その後ファーストキスだ」
「本当にやるの?」
マズイな、と言いたげに京子は口にする。
「俺達将来的に子供作るんだよな?」
疑わしげに言う晋太郎。
「京子さん」
神父が呆れた、とばかりに声を張り上げる。
「誓います」
裏返った声でいった京子だった。
爆笑が起こった。
「二人で何喋ってんだよ今更」
「往生際悪い、京子!」
招待者席は最早物見遊山だ。
「それでは、誓いのキスを」
京子が息を呑む。
八歳年上の癖に随分ウブ。
神様の生み出したシステムの生まれ変わりと言う割にはあまりにも一般人。
けど、それで良い。
二人で乗り越えていこう。
唇が柔らかいものに振れた。
「ここに二人を夫婦と認める」
長い長い二人旅の始まりだった。
つづく
晋太郎結婚回はこれにて終了です




